八十二 学生、やばい家と関わる
あれれ~? おかしいぞ~? なんか急に扉が壊れたみたいだから、しょうがない、窓から出よう。うん、そうしよう。あはははは。
「今すぐ開けないと殺すわよ」
「はいはいはいすいませんでしたちょっとくしゃみが出そうになってかけないようにと思って閉めただけなんですはい他意は全くございませんよはい」
俺は直ぐに扉を開けた。
「・・・・・・随分と狭い部屋ね」
「すいません狭くて」
「良いわ別に」
そう言ってウラルは俺のベッドに断りもなく腰掛けた。
俺が一番心を落ち着けることが出来る場所を真っ先に奪うとは。こいつ、できる。
「単刀直入に訊くけど、貴方、ユウに偽名を伝えられていたのよね?」
「・・・・・・はい、そうです」
ユウってユークレイン・バロン・クリムのことか? もっと愛称他にあったのでは? ユクとかクレイとか。何でそんな日本的な名前に。ああ! ウラルさん貴方も日本人なんですかそうですかやったーうれしいなー。
「ならば、今回だけは何も言わないでおくわ。けれど、金輪際、ユウに関わっては駄目よ。わかったかしら?」
イェスとここで言うのは簡単だ。しかし俺も転生者であることを知ってしまった以上、ユークレインも俺と関りを持とうとしてくるだろう。俺としても、出来るだけ転生者仲間は欲しい。ぶっちゃけ話していて楽しいからだ。
ここは一つ、ユークレインとウラルの間の関係を探れるところまで探ってみよう。
「・・・・・・あの、その前にいくつか、窺ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「どうして、ユークレイン君と関わってはいけないのでしょうか?」
「────────は?」
はい、地雷踏んだ。
ウラルは怒りとも悲しみとも取れるようなドロドロとした暗い感情を携えた笑みを浮かべながら、俺に一言こう告げた。
「だって私以外の人間と関りを持ったら、私以外の人間のことを考えるじゃない」
うん、こいつは想像以上にやばいやつだ。
「私は優しいから一度だけは見逃してあげるけど、次は無いから。ねえ、ルシウス・イタロスさん。貴方二年程前にスティヴァレ伯爵家の養子になったそうね。何でも魔物を狩った功績を認められたとか。でも貴方、その割には魔法の実技の授業を一切取ってないみたいね。普通魔法の腕に自信がある人は皆取るんだけど。何か秘密があるのかしら? そうそう、貴方の親、なんて言ったかしら。確か、・・・・・・マリア、だったかしら。彼女、かつてイタロス家に仕えていたみたいだけど、貴方が生まれた頃に一度メイドを止めたそうね。何か関係があるのかしら。・・・・・・あらごめんなさい。その様子だと知らなかったようね。うっかり口が滑ってしまったわ。でも、マリアさんってすごく健気な人なのね。わざわざ貴方の養子入りと同時にイタロス家のメイドに戻るなんて。惚れ惚れするほどの忠誠心だわ。・・・・・・それとも、何か別の感情でもあるのかしら。まあ、メイドと家主の愛憎劇なんて日常茶飯事よね。あっ、ごめんなさい。口が滑ってしまったわ。そういえば、マリアさん、結婚されたそうね。今はイタロス家を離れて、故郷で暮らしているとか。怪しいわよね。どう見ても何かをごまかそうとしているわよね。もしかして、お腹の中に子供でもいるのかしら。勿論、貴方の兄弟よ。両親ともどもね。あ、ごめんなさい。親の再婚話なんて聞きたくなかったかしら」
俺は噛まずにペラペラしゃべるウラルの饒舌さと徹底的に俺の情報を調べ上げたことにドン引きしつつ、その情報収集能力を素直に感心した。僅か一日余りでここまでの情報を入手するとは。天網に入った方が活かされるんじゃないかその能力。
そこまで考えて、俺は思った。天網の関係者がウラルの背後にいるんじゃないか、と。
乗りかかった船だ。いや、毒を喰らわば皿まで、か? ともかく、セバスチャンが俺に少しも情報を与えてくれない以上、天網の構成員と横の繋がりを作って、イズミル・テュルキイェに関する情報を集めるしかない。
「では、ウラルさんに関わりたい、というのはどうですか?」
「────────へ?」
瞬間、ウラルの顔は真っ赤に染まった。
「急に何を言って」
「貴方のことをもっと知りたいと思って」
「いや、あの、その、無理!」
そう叫んで、ウラルは俺の部屋を飛び出していた。あのチョロインみたいな反応は一体何だったんだろうか。疑問だ。
夕食を食べに食堂へと向かうと、偶然アンドレと出会い、食事を共にすることになった。しかし、スルビヤ・バロン・バルカンと一緒になってしまった。
「アンドレから聞いたんですけど、ルシウスさんが魔法戦の模範試合でのアンドレの作戦を考えたんですか?」
スルビヤの問いに、俺は内心どきりとしたが、その動揺は表に出さないようにした。
「作戦って程じゃないけど、一応そうなりますかね。俺の知り合いに冒険者がいるんですが、彼は兎に角速さ重視でして。魔物を狩ったことがあるスルビヤさんなら、同じように考えるのかと思いまして」
「冒険者の知り合いとは、これまた意外ですね。スティヴァレ伯爵家は何か冒険者と共に事業でもしているのですか?」
「いえ、俺はイタロス家の養子でして。冒険者とは、養子になる前に知り合ったんですよ」
「なるほど。機会があったら、ぜひその冒険者と会ってみたいですね」
どんどん情報が抜き取られていくのに、こちらはちっとも情報を手に入れられんぜ。いや、俺の口が軽すぎるだけなのか。
「先程から冒険者の話をされていますけど、僕、あまり冒険者について詳しく無くて。どんな職業何ですか?」
アンドレの問いに俺が答えた。
「俺も詳しくは知らないんですが、獣や魔物を狩ったり、護衛をしたりしているそうです。後、一番多く行う仕事は、消火らしいですよ」
すると、それを聞いたスルビヤが腹を抱えて笑い出した。貴族にしてはあまりにも大きな動きの大きな笑いであったので、彼の近くにいた俺とアンドレは多少引いてしまったし、食堂中の注目を集めて少し恥ずかしくなった。
「消火って。確かにそうですけど、あんまりですよ」
スルビヤは肩を震わせながら言う。そんなに面白かったのだろうか。
「まあでも、なんやかんやで、冒険者になってからも、一番使う魔法は『発火』らしいですけどね。ちなみに、二番目に使う魔法は冒険者らしく、『索敵』らしいですよ」
気分が良くなったのか、スルビヤは自分から情報を開示しだした。これは色々と聞き出すチャンスだ。
「スルビヤさんは、『索敵』を使えるんですか?」
「いえ、俺は水魔法が苦手で。その代わり、『追跡』は使えますよ」
口が軽いぞスルビヤ。警戒していたのは俺だけかよ。
「『追跡』とは、どんな魔法なんですか?」
アンドレがスルビヤに尋ねた。
「ものに付着した魔力と同様の形の魔力を探す魔法ですよ。こちらは土魔法なので、なんとか使える、という感じですかね」
「あの、実は『追跡』してもらいたいものがあるのですが」
俺はふと思いつき、そう切り出した。
夕食後、俺はスルビヤとアンドレを連れて自分の部屋に戻って来た。そしてスルビヤにマクマホンが残したマントを手渡した。
「これは、以前会った旅人が残したものなんですが」
「旅人ですか・・・・・・。あまり遠いと上手くいかないんですが」
「一応、やってみてくれませんか?」
俺の頼みを渋々聞き入れ、スルビヤは『追跡』の魔法を使った。そして、その顔は次第に驚きの表情へと変わっていく。
「・・・・・・このマントの持ち主、多分王城にいますよ」
スルビヤの予想外の発現に、俺もアンドレも目を丸くした。




