八 少年、実験する
一部修正しました。2020/4/6
サブタイトル変更しました。2020/4/7
家に帰った後、マリアが笛を手で優しく包み込みながら、ジブリールの話をしてくれた。
「私が子供の頃、怪我をしているワシを拾って育てたことがあるんです。初めは少しきれいな色の羽の普通のワシだと思っていたのですが、育てている内に、あっという間に大きくなってしまったんです。森に返すとしたんですが、その子は私になついてしまって。それで召喚魔法の契約をして、またいつでも会えるようにして森に帰ってもらったんです。その子の名前が、ジブリールなんです。
ああ、召喚魔法というのは、自分がいる場所とは異なる場所にいる獣や人を呼び出す魔法のことです。かなり特殊な魔法で私も私以外で使える人を見たことがありません。この笛を吹くと、彼が住んでいる森とこの笛がある場所が空間的に繋がって、瞬時に彼がこの笛のもとに来ることが出来るようになるんです」
嬉しそうに話す彼女に水を差すようで気が引けたが、俺は敢えて尋ねることにした。
「マリアは、今何をしているの?」
「ああ、これですか。これは魔力を込めているんですよ。どんなものでも、人が触れたものには魔力が付きますが、この笛の様に、魔道具と呼ばれる特殊な道具は、その中に魔力をため込むことが出来るようになっていて、ルシウスさんが魔力を使わなくても魔法が使えるようにできているんですよ」
この笛は、アリアが俺を見守る気持ちそのものなのだ。それを知って、俺はその日、嬉しさの余りなかなか寝付くことが出来なかった。
後日。マリアの監督のもと、エイブと俺は町の柵の効果に対する検証を行った。場所は森からできるだけ離れた、柵に切れ目である町の入り口に近い所にしており、万が一のことが起きても、直ぐ町の中に入ってこられるようにした。
試しに俺が柵を乗り込めてあっさりと戻ってくると、マリアとエイブは驚きの声を上げていた。次にエイブがやってみるが、彼は何か壁に阻まれたように、柵を越えることが出来ずに困惑していた。
「僕が森の中で迷子になった日も、こんなことが起きたんだ。森の中に隠れればいいと思って柵を越えたんだけど、やっぱり怖くなって直ぐ引き返そうと思ったら、こんな風に入ることが出来なくなってたんだ。やっぱり、昔話は本当だったんだよ」
「だからって、何でお前は森の奥に行くんだよ。柵をぐるっと回れば帰ってこられただろ」
「あ、あの時は考えつかなかったんだよ」
「ルシウスさん。エイブくんが困っていますよ」
「はいはい」
エイブを一旦町の中に戻した後、俺はマリアに尋ねる。
「マリアは、この柵に対してどんな認識でいるの?」
「私は、昔話の様に本当に人間が獣になるわけではないと思っています。実際、ルシウスさんが入ってこられるわけですし。ですが、結界と考えるには、何故ルシウスさんが通れたのかがさっぱりわからないのです」
「マリア。結界って?」
「はい。結界とはとある教会によって内と外とを遮断する魔法です。この町に張られていると推測されるタイプは、内から外に出ることは可能ですが、外から内に入ろうとすると、先程の様に見えない壁に阻まれるものだと考えられます。ですが、それだとルシウスさんが出入りできる理由がわかりません」
「それってさあ、何を入れなくするか指定することもできるのかな」
「ものによっては可能だと思います」
そこまで聞いて、俺はある一つの仮説を立てた。俺はエイブと共に柵を越え、そこらに落ちている石ころを拾った。
俺がひょいっと投げた石は何事もなく柵の上を越えたが、エイブが投げた石は見えない壁に当たったかのように跳ね返された。
俺の行動の意図に気が付いた様子のマリアであったが、彼女は何も言わなかった。
「なるほどねえ」
何かに納得した俺を見て、エイブが尋ねる。
「ねえ、ラック。何がわかったの?」
「何もわからないことがわかった」
彼は少しも納得していなかったが、俺はそこで実験を切り上げた。これ以上実験を行うと、エイブが俺の秘密に気が付くかもしれないからだ。
家に戻ると、マリアが話しかけてくる。
「ルシウスさんの予想通りならば、恐らくあの結界は」
「ああ。多分、魔力だけを外から通さない、ように出来ているんだろうな」
だから魔力を持たない俺が通れて、魔力を持っているエイブが通れなかった。魔力を持っている人が触れたものには、自然と魔力が付く。だから、俺が投げた石が柵の上を越え、エイブが投げた石が見えない壁に跳ね返された。
「オオカミみたいな動物も、魔力を持っているの?」
「はい。全ての生き物は魔力をもっていると言われています」
なるほどねえ、と俺は思った。推測するに、貴族は生まれたばかりの赤ん坊に、何らかの魔法に関する適性検査の様なものを施すのだろう。そして、俺の様に魔力を持たない子供を見付けてしまったと。
「七歳にして、そのようなことを見抜いてしまうとは、さすがルシウスさんです」
そう言って、マリアは俺の頭を撫でた。若干ごまかされているような気がしなくもないが、悪い気はしないのでそのままごまかされておくことにした。




