七十五 学生、現状報告する
一部変更しました。2020/5/5
朝、俺はシモン、アンドレ、エルトリアと食卓を囲んだ後、アンドレと一緒に魔法学園へと向かった。シモンとアルトリアは直ぐにモンス領へと出発するようで、ここで二つの意味でのお別れとなった。
アンドレは朝から元気がないのか、人からの呼びかけへの反応が鈍く、俺が道中話しかけても、空返事が大半を占めていた。
まあそういう日もあるだろう。そう思いながら魔法学園の入り口に差し掛かったところだった。
「あの、ルシウスさん」
やけに緊張した声色で、アンドレが俺の名前を呼んだ。
「どうしました?」
「ルシウスさんは、その・・・・・・、エルトリアさんと、どのような関係なのでしょうか?」
あれ? こんな感じの質問、最近されたぞ?
「俺とエルトリアは、姉弟ですよ」
「で、でも、義理の姉弟ですよね。・・・・・・その、僕、聞こえちゃったんです。お二人の会話が。その、聞いていると、どうも姉弟の会話には聞こえないというか、その」
自分で言葉を紡ぎながら、アンドレの顔が少しずつ赤くなっていった。
言っておくけど、昨晩はキスとかしてないからな! そんなやらしい雰囲気も無かったはずだぞ!
どう対応したものかと悩んでいると、誰かが俺の名前を呼んだ。声のした方を向くと、そこにはナオミが立っていた。
「え、ルシウスって寮に入っていたよね。・・・・・・でも、アンドレ君顔赤いし、今日はアンドレ君と朝帰り・・・・・・え?」
あ・・・・・・やめて! それ以上いけない。
「私そういうのに理解ある方っていうかむしろ好物っていうか、別にいいと思うよ」
ナオミさん露骨に目が泳いでますよ。目がクロールしてますよ。早くその腐った思考を止めなさい。
「ナオミ。何か誤解しているようだが」
「失礼します」
俺の言葉を遮る形で、どこからともなく執事のセバスチャンが姿を現した。
「ルシウス。話があるので来てください」
「え? 三角関係? そうなの! そうなの~?」
そうじゃないからな! ナオミは一旦黙ろうか。
「ナオミ。お前絶対何か誤解してるから。アンドレ君。じゃあここで」
「はい。わかりました」
俺はアンドレの返事を聞き終わると、直ぐにセバスチャンの後に付いて行った。
俺が今まで手に入れた情報を全て話すと、セバスチャンは考えるような素振りを見せた。
「報告感謝します。今の活動を続けてください」
「・・・・・・あの、ドラゴンを計略に用いるような相手が絡んでいるのですが、何か特別な対応などは?」
「必要ありません」
「前々から思っていたのですが、少し現場に対応を任せ過ぎでは?」
「組織は情報収集。駐在員は慈善事業。それが各々の仕事です」
そう言い残して、セバスチャンはその場を去った。今の口ぶりから察するに、最後に辻褄合わせをする方法を、天網は何かしら持っているのではないだろうか。例えば、神父の記憶を消す魔法のような。
だとしたら一体、その方法を温存している理由は何なのだろう。俺は何も知らない。本当にいつでも切り捨てられる人間に過ぎないのだ。
入学式の翌日。その日ヘレナが出会うのは、スルビヤ・バロン・バルカンただ一人だ。ユークレイン・バロン・クリムとは試験が近付いて図書館で調べ物をしようとして出会う為、時期的にはまだ早いし、イズミル・テュルキイェに関してはスコット王子のルートを進まないと、そもそも出会う機会が無いらしい。
つまり、今対処を考えるべきはスルビヤただ一人であるのだ。しかし、その対処方法が未だに考え付かなかった。
ヘレナとスルビヤの出会いは魔法の実技演習の授業においてだ。初回の授業ともあり、模範試合を教師が行おうとして、スルビヤが自ら名乗りを上げるのだ。しかし対する相手が一向に現れず、仕方なく教師がヘレナを指名するのだ。
ゲームとしてはバトルの方法を説明する為のチュートリアルに過ぎない展開だが、現実的には魔物狩りをしている魔法を殺しの道具として日々使っている男と、何も知らない少女の魔法戦だ。事前に体に結界を張り、その結界に先に魔法を当てた方が勝ちとなるシンプルなルールであるが、身の安全が保障されているとはいえ、実力差があり過ぎる二人で試合を行うとはいかがなものなのだろうか。
そのイベントを回避する方法としては、俺がヘレナの代わりに試合に出るというものがある。しかし、魔法を全く使えない俺が、一体どうやって魔法戦を行えば良いというのか。一方的に魔法を当てられて一瞬で終わるだけだろう。すると試合結果に物足りなさを感じた教師が別の組で模範試合を行う可能性がある。もしそうなれば、きっとヘレナが指名されてしまうのだろう。
しかし、誰かがヘレナの代わりに模範試合をしなければ教師がヘレナを指名することは必至であり、ヘレナとスルビヤとの出会いは避けられない。けれども、ロンやレン、ナオミにお願いするというわけにもいかず、一体どうすればいいのやら。
そう悩んでいる俺の前に、実姉であるが義姉でもある姉の夫である義兄の弟が目の前に現れた。
「アンドレ君。丁度いい所に」
彼は明らかに困惑している様子であった。




