七十三 学生、追跡する
一部修正しました。2020/5/8
アーカヴィーヴァが思い出せない人物。それが記憶を消された人物だと俺は直感的に判断した。つまり、マクマホンだと。
俺は全速力でフードの男に飛び掛かった。
だが、俺の手は空を掴むのみであった。
気付いた時には、男は遥遠方に居た。あまりにも速過ぎる。一体これは何の魔法だ?
エイブは詠唱を用いずに魔法を発動することが出来るが、それでも指パッチンを必要とする。完全な不意打ちに対し、フードの男が指パッチンをする余裕があったとは到底考えられなかった。
俺はフードの男の後を追いかけるが、彼はまるで糸に操られる人形の様にふわりと宙に浮かび上がった。・・・・・・糸?
俺は懐から眼鏡を取り出して掛けた。フードの男を見ると、彼の体、というよりも、彼が身に付けているマントを緑色の光が覆っている。
俺の眼鏡は人の魔力の形を色として見ることが出来る。火魔法の系統なら赤。水魔法の系統なら青。土魔法の系統なら黄。風魔法の系統なら緑。
つまり、男のマントには風魔法の系統の魔力が大量に付着している。いや、染み込んでいると言うべきか。恐らくあのマントは、魔力を貯蔵する機能がある一種の魔道具なのだ。そのマントを動かして、ついでに自分も無理やり動かしている。
エイブ曰く、風魔法では生き物を操ることはほぼ不可能なのだとか。原理で言えば風魔法を使えば自分を自由自在に操れると思うのだが、生物の体内では魔力が意志に関わらず好き勝手に流れているので、統御出来ないようなのだ。
だから、フードの男は纏う服を操っているのだ。
フードの男は王都の中心の方へと逃げていった。俺は魔法学園を飛び出して、全力で追いかけた。しかし、フードの男との距離が縮まることは無く、このままでは逃げられると思った。
〈止まれ〉
天上の神が囁いたのか、絶対的な存在が矮小なものに下すような言葉がどこからか聞こえた。瞬間、マントの男は空中で何かに縫い留められたように動かなくなっていた。
声のした方を見ると、そこに居たのはシモンであった。
「どうしてここに?」
「それはこちらのセリフだよ。ここは我が家の前だよ」
ふと彼の後ろを見れば、大きな邸宅が荘厳に鎮座していた。
「帰る前に王都土産を買いに外に出ていた帰りに、たまたま物凄い速さで走ってくる君と、あのフードの人物が見えてね。あの者を追いかけていたんだろう?」
それにしても、先程の「止まれ」は呪文なのだろうか。その一言だけで人間を空中に固定できるなんて、恐らくエイブにすらできないだろう。これが真の天才というやつなのだろうか。アーカヴィーヴァが嫉妬した気持ちが、少しわからなくなってしまった。シモンは、望んでも絶対に届かない領域の力を有しているように感じたからだ。
「ありがとうございます!」
俺はシモンに礼を言った後、直ぐに建物間の狭い隙間を赤い帽子をかぶった髭のおじさんの要領で壁ジャンプをして建物の屋根の上に登った。
フードの男は、相も変わらず空中で固定されていた。
「お前、マクマホンか?」
フードの男からの反応は無い。まさか口まで固定されているのだろうか。
その時、男の体が眩い光に包まれた。召喚魔法? 自身を誰かに召喚させるのか? まずい、逃げられる。
俺は咄嗟にマントの裾を掴むが、フードの男の姿は消えてなくなってしまった。後には、彼が着ていたマントだけが残されていた。
俺はすぐさま周囲を見渡す。
こうもタイミングよくフードの男がいなくなったということは、どこかでフードの男を召喚した人物がこちらを見ているということだからだ。
しかし、帝都は広く、人の数も多かった。結論から言えば、俺はフードの男を召喚した人物を見付けることが出来なかった。




