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七十二 学生、兄弟と食事を取る

 アンドレは学生寮ではなく、王都内の邸宅から通っているということもあり、彼は夕食の前には魔法学園から帰ってしまった。

 その前までにできるだけ彼と会話することが出来たので、ある程度は印象を良くすることが出来たと思う。できるだけ早く、シモンのことについて聞いてみたいのだが。

 俺はロンに誘われるまま、レンを含めた三人で食堂に入り、夕食を食べることにした。レンから誘われることは度々あるが、ロンから誘われることはほとんどない。

 実際今回は、俺がナオミと話していたことが気になってしまったのだろう。安心せい。わしと彼女はなんもないぞ。・・・・・・ていうか、ロンはナオミの好きな人が誰か知っているんじゃないのか。

 まさか、俺!?

 いやそんなわけがない。恐らく、俺と会う前から好きな奴はいたのだろう。少なくとも、俺の名前を出されてロンが納得できるはずがないのだ。

 なかなかに嫉妬深いなあ、とブーメランなことを考えながら、俺はロンのナオミとの関係を探るような質問に淡々と答えていた。

機械的に答えるだけであったので、何気なく周囲で食事をする人たちに目を配った。


 ──────今朝方、マルセイジュの密会を覗いていたパパラッチが居た。


 誰かと向かい合って食事をしていた。食事相手は背中しか見えず、誰かわからない。ただの友人か、それとも情報を売る相手なのか。

「・・・・・・俺も、魔道具作製取ろうかな」

「そう言えば、こんな噂を知っているか」

 ロンが今更ながらのことを言い出すのに被せて、レンが急激な会話の方針転換を図ってきた。魔法学園に来てからわかったことではあるが、レンは意外にもこういう噂や人間関係などに非常に詳しいのだ。

「今年、紫紺の瞳を持つ新入生が入学したらしいぞ」

「・・・・・・またか」

 ロンの呟きに、俺は驚きを隠せなかった。

「またって?」

「毎年とは言わないが、この手の噂はしょっちゅう起きるんだ。王族や公爵家の隠し子が入学したとかどうか」

「しかし、瞳の色が血筋で同じことは統計的にも高い確率で言えることだ」

「色が混じったり突然変異したりする可能性もあるじゃないか。全く。レン、お前覗き屋に一体いくら払っているんだ?」

「安心しろ、ロン。魔法の技術指導や試験勉強の手伝いなど、出来るだけ金のかからない方法を採用している」

「出来るだけ、ね。そんなに覗き屋と繋がって、一体何を得ようって言うんだ」

「何。平穏な学園生活ってやつだよ」

 俺は、レンが本当のことを言っているような気がした。

 自分の噂が立った時、パパラッチと深くつながっていれば、噂を握り潰したり、偽の噂を流したりすることが出来るのだ。それは平穏な学園生活に繋がると言って過言ではないだろう。

 しかし、果たしてそれは、万が一の時の保険なのか、かなり使う可能性が高い保険なのか。

 前にレンが言っていた恋仲の相手の話。もし仮にいるとしたら?

 まあ、情報が無い状態であれこれ考えても錯綜するだけだ。

 そんなことを考えていると、今朝方マルセイジュの密会を覗いていたパパラッチとその話し相手が、食事が終わったのか立ち上がった。その様子を見ていた俺は、夕食をささっと口の中に掻き込んだ。

「すいません。俺、やらなくちゃいけないことがあるから。お先に失礼します」

「おう」

「ああ」

 俺は一人先に席を立った。

 俺より一足先に席を立った、パパラッチと向かい合っていた男の後姿を追う。

 早足で歩いて男を抜き去り、すれ違いざまにその顔を確認した。・・・・・・ロバート・コンクェスト?

 彼は一体何の為にマルセイジュの情報を集めているんだ。それに、誰とハトでやり取りしているというんだ。

 今度レンに聞いてみるか。

 そう思いつつ、俺は学生寮へと向かった。その道中、俺は偶然にも見知った顔の男を見かけてしまった。・・・・・・果たして、向こうが俺のことを覚えているかわからないが。

 アーカヴィーヴァ・サマリノ。かつて、イタロス家の別荘を燃やした男だ。

 アーカヴィーヴァは誰かと話しているが、相手はマント姿にフードを被っており、誰だか判断がつかない。

 そして、俺がその二人の近くを通った瞬間、たまたま耳に聞こえてきた。

「私のことを、覚えていないのですか?」


 ───────マクマホン。


 俺は半ば反射的に、フードの男に飛びかかっていた。


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