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五十三 学生、兄の部屋に行く

 人生初の兄の部屋への訪問に際し、緊張よりも興奮が上回ってしまい、危うくノックの後に返事を確認せずに扉を開けてしまいそうになった。

 俺は一度深呼吸をしてから、レンの返事を待って部屋の扉を開けた。

 勉強机とベッドに加え、本棚やクローゼット、ティータイム用の机と椅子のセットといった家具が存在しており、俺の部屋の六倍以上の広さを有していた。あからさまな格差を感じ、その不満が思わず顔に出てしまいそうになった。

 レンに誘導され、俺はティータイム用の椅子に腰を掛けた。

 するとタイミングよく部屋をノックする音が鳴って、執事が一人部屋の中に入って来た。彼はワゴンにポットやカップなどを乗せており、手際よく紅茶を入れると、俺達に前に置いて部屋を出て行った。

俺が来る時間を考慮して予め紅茶を用意していたとなると、相当優秀な執事なのだろう。しかも、俺は彼の姿をレンがイタロスの屋敷にいる時に屋敷の中で度々見かけている。マリアが俺に付いて来てくれたように、レンにもあの執事が付いてきた、もしくはレンが連れてきた、ということだろう。

「そういえば、使用人は普段どこにいるんでしょうか?」

「普段は使用人専用の入居施設に居る」

「一人一部屋ということですか?」

「ああ。そもそも使用人の連れ込みを認めているのは、学園の清掃要員を手頃に集める為なのだから、使用人に個室くらいは与えるだろう。それに、使用人を連れてこられるのは伯爵以上の人間のみ。もっと位が低い人間を多く通うのだから、入居施設を用意するのはそれほど手間ではないからな」

 そう言ってレンは紅茶を飲んで一度話を切った。手にしたカップを皿の上に置くと、彼は別の話を切り出した。

「今回呼び出したのは、僕がこの学園に通う先輩として、貴様にこの学園で平穏に過ごす為の三箇条を教えてやろうと思ったからだ。もし貴様がこの三箇条を守らなければ、貴様自身のみならず、我がスティヴァレ伯爵家にすら様々な面倒が掛かってくるのだ。だから心して守れ。

 一つ目、自分より位が高い人間に極力関わらないこと。特に王族や公爵家には絶対に関わるな。必ず権力抗争に巻き込まれる。その為には何よりも、名前を知らない相手には関わらないことが重要だ。今度僕の友人を紹介してやるから、彼らや僕を介してでなければ人脈を広げるなよ。いいな?

 まあ、ここには一つだけ例外がある。モンス公爵家だ。妹の嫁ぎ先でもあるし、ロマ家とは懇意にしても構わん。

 二つ目、ロートリンゲ、テュルキイェ、クリム、バルカンの四家に関わらないこと。彼らは皆伯爵位以下の家柄だが、彼らに関わると必ず伯爵家より上位の家柄の問題に足を突っ込むことになる。下手をしたら王族と関わるよりも危険だ。だから絶対に関わるなよ。

 最後、三つ目は、他人の恋愛に首を突っ込まないこと。この学園で恋愛を拗らせて爵位取り消しにまで問題が発展した事例があるほどだ。貴様が先程会っていた子女、確かナオミと言ったか。彼女はロンが熱を上げている相手なんだ。爵位持ちならともかく、彼女は平民。伯爵家が平民を正妻に迎え入れることが出来ないのはロンも重々承知しているはずなのだが、あいつはどうしても正妻に迎えると言って一向に折れないのだ。父上が爵位を持たせたら結婚を許すと言ってしまったものだから、あいつは今、ナオミを卒業させようと躍起になっている。

 というのも、この学園を卒業できると平民には男爵位が与えられるんだ。しかし、平民が卒業できた事例はほとんど存在しない。この学園の卒業に必要な研究を行うには、平民だと能力があまりに不足しているからな。だからほとんど不可能な課題なんだ。

 別に妾として迎えるのなら何も問題は無いというのに。まあとにかく、ナオミとは関わるな。兄弟で一人の女を取り合って、殺し合いにまで発展してしまった事例が過去にあったそうだからな」

「わかりました。その三箇条、必ず守ります」

 俺は素直にレンの忠告に従うことにした。

「所で、そのロムルス様に関する話なのですが、俺が先日お会いした時、どうやらイタロス家に養子が入ってことを知らないようなご様子だったのですが」

「それは本当か? ・・・・・・通りでリアの結婚式の招待状を出したのに、本人も返事も帰ってこなかったわけだ。

 ───────もう話は終わりだ。とっとと出ていけ」

 言われて、俺が席を立とうとすると、何故かレンが「待て」と俺の行動を止めた。

「茶は飲んでいけ」

「・・・・・・はい」

 俺はわざとゆっくり紅茶を飲んで、レンとの世間話に興じた。


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