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三十八 貴族の子、友人と再会する

 オオカミがエイブに肉薄すると同時に、彼は指を鳴らした。突風がオオカミを吹き飛ばしたが華麗に着地。途端に口の中から光を放ち、首を振るうようにして飛び出た光が周囲の木々を薙ぎ払った。俺はピタゴラスイッチの要領で頭を下げたので、光線はぶつからなかった。

 エイブはいつの間に空中に居て光線を回避していた。彼が指を鳴らすと、突風が起きたがオオカミは難なく横に飛んで避けた。

 そして俺の目の前に飛んできたそのオオカミは、どこからともなく現れたワシの爪に腹を切り裂かれた。咄嗟に黄金の笛を吹いてジブリールを呼んだのだ。昨日使ってなくて本当によかった。

 オオカミは急いで飛びのくが、ジブリールによってつけられた傷は致命傷に見えた。それでもジブリールの突進をオオカミは飛び跳ねてかわし、空中に居たまま再び口の中を光らせる。だがパッチンという音と共に吹いた風によって地面に叩きつけられた。

 程なくして、オオカミはジブリールの爪で絶命した。



「ラック!」

「エイブ!」

 俺達は再会を喜んで抱きしめあった。そして、エイブはジブリールにも抱き着いた。もふもふ。うらやましくなって俺ももふもふした。

「エイブ。こんな所で何をしてるんだよ」

「それはこっちのセリフだよ。君はどうして町からこんな遠くにいるんだ」

「それは・・・・・・」

 俺はエイブに貴族の養子になったことを報告した。どんな反応をするかわからなかったので少し不安であったが、彼の反応は俺の発言を全く信じていないものだった。

「いいかラック。お貴族様は森の中には入らないぞ。それに、無知な僕でもスティヴァレ伯爵の屋敷の位置くらい知っているよ。冗談は程々に」

「本当だって。見てよこの服。上物だろ?」

「僕なら雑巾にするかな」

 ねえそんなにぼろいかなあ。異世界人って結構きれい好きじゃない? このぐらい大丈夫だよね?

 俺の服は確かに砂まみれになってはいるが、洗濯すれば問題ないだろ。・・・・・・あれ、洗濯って文化あったっけ?

「それより、エイブはどうしてここに」

「冒険者としての依頼でね。しかし、まさか山の生き物が出るなんて」

「オオカミって山の生き物だっけ?」

「ええっと、山は魔力が溜まりやすいらしくって、そこに住む魔物は特に手ごわいやつらばかりなんだよ。そういう手強い生き物が何らかの理由で森にまで降りてくることがあるんだ。雷はダメージ受けないし、燃やそうにも早すぎるしで、すごく闘い辛かった。ラック、さっきのオオカミ、とても手強かっただろ?」

「・・・・・・俺のジブリールが強すぎるのかな?」

「・・・・・・それは否定できない」

 まあそういうこともあるか、と俺達は笑いあった。

「───────それで、ラックは何しにこんな町の遠くへ?」

「ええっと、万病に効くと言われる霊験あらたかな花を取りに」

「もしかしてカモミールのこと言ってる?」

「多分それ?」

「今は秋だし、咲いていないと思うんだけど」

「そんな馬鹿な。去年は咲いていたぞ」

「でも森の奥にある霊験あらたかな花って、スティヴァレ伯爵家が所有している別荘の近くに咲いているカモミール畑しか知らないよ。でも、それにしたって遠いけど」

「・・・・・・なあ、町からその花畑までってどれくらいだ?」

「多分馬車で半日とかかなあ。まあ、かなり遠いことは間違いないよ」

 どうやら、エイブの距離感の認識と俺の距離感の認識にはだいぶ差があるらしい。俺にとって花畑はご近所みたいなものだった。

「まっ、ジブリールで飛んでいけば関係ないよね」

 そう思ってジブリールを見ると、何やら申し訳なさそうな顔をしている。

「ラック。ジブリール様が今日は早く帰りたいって言ってる」

 あれ? もしかしてずっとそう思ってた? 俺パワハラ上司しちゃってた? 話通じない相手って本当に苦労するもんね。俺のことよね。

「・・・・・・今まで、本当に、ありがとう」

「何今生の別れみたいな空気醸し出してるのさ。どうせまたすぐ会えるでしょ」

 ジブリールは光の中へと消えていった。

「・・・・・・とりあえず、花畑まで走っていくぞ」

「距離考えて物を言ってくれない?」

「俺は見たぞ。エイブ。お前さっき風を使って飛んでいただろ」

「まあ、ね」

 エイブの顔は少し自慢げだった。

「とりあえずあれで付いてこい。行くぞ」

 俺がさっさと木の上を走って行くと、慌ててエイブが付いてきた。


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