三十七 貴族の子、友人を見かける
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デクがウマを引きながら徒歩、毒舌のお嬢様は一人で馬車の荷台を使い、俺はウマの背中の上で洗濯物になっていた。デクがくれる干し肉やパンで腹を膨らませた。
「何から何まで申し訳ない」
「別に構いやしねえ。目の前で野垂れ死なれる方が面倒だ」
デクって口調は荒っぽいけどまじで良いやつだぜ。
俺が感動に胸打たれていると、そこにお嬢様が口を挟んでくる。
「普通、命を救ってもらったのなら見返りを求めるものよ。だから貴方は木偶坊なのよ」
「見返りっつったって、こいつはなんももってないぜ」
「恰好をごらんなさい。一見すると、この薄汚いぼろ雑巾が身に付けている服は、肉が腐り落ちた骨が纏うような布切れの様にも思えるけれど、よく見ればこれは貴族が身に付ける上等なものよ」
お嬢さん饒舌が過ぎるぜ。そんなにぼろい? ねえ、そんなに?
「面白いこと言ってくれるぜ。こんなおもしれえ所にお貴族様が二人も落ちてるわけねえだろ。最近のガキは冗談のセンスが致命的だぜ」
あれ、お嬢様も夜中に家を飛び出した系?
「雇われている身の癖にホント偉そうね。・・・・・・まあいいわ。雑巾。貴方の家はどこかしら?」
「・・・・・・スティヴァレ伯爵家です」
「──────えっ!?」
雑巾と言われた恨みにお嬢様の顔を睨みつけていたら、途端に間抜けな面になった。
「冗談は止めて。ここは領地の端よ」
「いえ、端はもっと先ですよ」
「そういう話じゃないわよ。スティヴァレ伯爵のお屋敷からここまで一体どれだけあると思っているのよ」
「大体馬車で二日程かと」
「合っているわよ!」
「やったあ」
「何でそんな遠い所に貴族の子供がいるのよ」
「この両の足で来たとしか・・・・・・」
「家出にしたってもっと前で引き返しているわ」
「お前に言われたって説得力ねえよ」
そう言ってデクが大笑いしている様子を見ると、このお嬢様は家出しているんだろう。それもかなり遠い所から。
「まあいいさ。町に着いたら金貸してやっからよ。馬車使ってさっさと家に帰りな」
なんて良い人。至れり尽くせりだ。
町に着くと、デクは食事まで奢ってくれた上に馬車のお金をくれた。この冒険者どんだけ羽振りが良いんだよ。
俺は彼に感謝をして別れた。そして帰るふりをして町の柵を越え、森の中を駆けた。
今いた町は、屋敷から伸びる大きな街道を真っ直ぐ進むと着くことが出来る。この道をさらに真っ直ぐ進むとマリアの故郷に着く。白い花の園は、その二つの町の中間あたりから街道を横に逸れて、森の中を真っ直ぐ進むと着くことが出来る位置にあった。
そうしなかったのは、別れたばかりの彼らと出会うのが気まずいのが一点。そしてもう一点は、自分の方向感覚に自身があったからだ。
正直、夜の森の中を走っても、あの白い花の園にたどり着くことが出来る。それほどに自身があった。
しばらく森の中を進んでいると、俺はふと違和感を覚えた。森の中に、いくつもの動物の死体が無造作に転がっていたからだ。
俺は同じ光景を見たことがある。マリアの故郷で、エイブが通った後の道だ。
強者が通った後には、死骸しか残らないのだ。
やばいかもな。
俺は少し警戒しながら進もうと思った。
瞬間、横から眩い光が飛んできた。その時空中に居た俺は体が硬直した。体は光に触れることなく自由落下して地面に落ちた。俺は辛うじて光を避けることが出来たが、その光が通った後は、何も残っていなかった。木が、葉が、きれいに丸く抉り取られていたのだ。
体中から冷や汗が湧いてきた。過去一番にやばい展開だ。何だ? 何が起こった? 絶対ドラゴンみたいな何かがブレス吐いたろ。
死を連想した。一瞬で無へと還る、死。あの閃光に触れたらそうなっていた。
逃げるべき。頭の中ではそう判断していたのに、足は閃光が飛んできた方向へと向かっていた。馬鹿か? 逃げろよ。
神父の言葉を思い出す。神の道と人の道は繋がっていると。自分のいる位置が、まだ町から近い位置にあることを思い出す。
俺は、ヒロイズムに酔っているだけなのかもしれない。
しばらく走ると、やがて東京ドームくらい広大な開けた場所に着いた。きっと、そこにあった木は皆消滅したのだ。先ほどの光と同様の何かによって。
中心にオオカミが座っていた。頭の位置が、大人の男くらいの高さにあった。でかすぎじゃね? 体毛が帯電していた。すごくモンスターをハントするゲームの3の看板モンスターを思い出した。そう言えば、ボーパルバニーも凍土に出てくるウサギと似た雰囲気があった。
あれ、この世界ってそういう世界観だっけ、などと思っていると、開けた場所の端に人影があった。それは見覚えがあるもので、俺はそれが誰か直ぐにわかった。
エイブ?




