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三 赤ん坊、捨てられる

大部書き直しました。2020/4/5

一部名前を変更しました。2020/4/6

サブタイトル変更しました。2020/4/7

一部修正しました。2020/4/9

 やはり、経験や師匠もなしにいきなり魔法が使えるはずもないのだ。それに、女神さまからいただくことは出来なかったが、もしかしたら、俺にはとてつもない才能があるのかもしれないのだ。

 そう前向きに考えることにして、俺は魔法以外の努力を始めた。まずは、世界の観察だ。

 俺の名前は、ルシウス・イタロス。この家の三男坊で、まだ生後数日の赤ん坊だ。

 父親はメディオラヌム・アール・スティヴァレ・イタロス。スティヴァレ伯爵と呼ばれる貴族で、母親はディオと呼んでいるらしい。全く顔を見せない。

 母親はシシリア・アーレス・スティヴァレ・イタロス。いわゆる伯爵夫人というやつだ。父親はシシリーと呼んでいるそうだ。こちらも全く顔を見せない。あれ? もしかして俺、親から愛されてないのか?

 長男のロムルス・イタロスと次男のレムス・イタロスの双子。ロンとレンの二人はバレたら両親に怒られるとわかっているのにも関わらず何度も俺に会いに来てくれる。彼らが会いに来てくれるたびに俺が喜びの涙を流してしまうので、ほとんどの場合彼らは両親に叱られる羽目になってしまう。申し訳ない。

 そして長女のエルトリア・イタロス。愛称はリア。彼女には一度もあったことがない。きっと両親にきつく言い含められているのだろう。

 このように俺が家族に関する情報を集めることが出来たのは、ほぼすべて俺の養育係であるメイドのマリアのおかげである。彼女が家族に関する話をする度に俺が反応するので、喜んだ彼女は湧き水の様に家族の情報を流してくれるのだ。俺と関わる人間は家の中でもマリア一人だけと言っても過言ではなく、彼女のおかげで俺は世界とのつながりを保つことができた。

 しかしマリアの口からは、俺が何故これほど家族から疎外されているのか、その理由を聞きだすことはできなかった。聞き出す前に、両親の口から直接告げられたからだ。

 俺が異世界転生をした事実に気が付いてから約一か月後、メイド服ではなく、茶色い外套に身を包んだマリアが俺を毛布でくるんで抱きかかえた。ようやく外に出掛けられるのだろうか。未知の世界への好奇心が募って、つい喜びの雄たけびを上げると、マリアが少し寂しそうに笑った。

「大丈夫ですよ。私はずっと、貴方のそばにいますからね」

 突然何のフラグを立てたのだ、と困惑する俺を抱えてマリアが部屋を出た時、そこにはロンやレンの面影がある男が立っていた。いや、この男の面影が、ロンやレンにあると言うべきなのだろうか。

「旦那様」

 そう言って恭しくお辞儀するマリアの様子を見て、俺は目の前の男が自分の父親であることを確信した。

「マリア。お前は、本当に我が家を辞めるのか」

「・・・・・・はい。もう、決めましたから」

 辞める? マリアが居なくなっちゃうのか? でも、さっきずっとそばに居てくれるって言ったじゃないか!

 そう声を出そうとして、気付いたら泣いていた。赤ん坊の体というやつは実に不便だ。泣くことしかできない。泣くことでしか、自分の気持ちを伝えられない。マリア。行かないで。どこにも行かないで。

 突然泣き出した赤ん坊を困ったようになだめるマリアに、俺の父親は冷酷に告げた。

「金は毎月ちゃんと出そう。だが、けして手紙を送ってきては駄目だ。ただ、どうしても自分の力では解決できない問題が起きた時は、手紙を書きなさい」

 なんて薄情な男なんだ。マリアは今までこの家にずっと尽くしてきただろうに。彼女は、彼女は俺の「お母さん」なんだぞ。お前らの様に俺を無視するようなろくでなしなんかじゃないんだ。俺の、俺のたった一人の「母親」なんだ!

 泣き止む様子の無い赤ん坊に嫌気がさしたのか、ゴキブリを見るかのような目を伯爵は俺に向けてきた。


「やはり、子供というのは敏感な生き物だな。言われなくとも、これから自分が捨てられるのだという事実をしっかりと理解できているらしい」


 ─────────えっ? こいつ、今なんて言った? 「俺が」捨てられるって、そう言ったのか?

 突然ぴたりと泣き止んだ赤ん坊の様子を奇妙に思ったのか、伯爵は逃げるようにその場を去った。泣き止んだ俺を見て安どの息を吐いたマリアは、そのまま俺を抱えて屋敷の中を移動した。階段を降り、玄関に行き、外の馬車に乗った。そうして俺は、自らの家を後にした。



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