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二十八 貴族の子、キョウダイに悩まされる

一部修正しました。2020/4/12

 姉との接触を試みたが、結果は芳しくなかった。日中は勉強にマナーに技芸等々、疲れ果てるまでやらせれる。ようやく空き時間があると思えば、オヤジや奥様に捕まると、今の生活はどうなのかとか、町での生活はどうだったのか、とか色々話さなければならず、彼らに見つからずようやく姉の許に辿り着けたと思ったら、居間でお話ししましょうとか、今日はやりたいことがあるからとか言われ、二人きりで話す時間など取れはしなかった。

 もしかしてこいつは、関わって来るなというサインなのだろうか。女性と付き合ったことなど無いからさっぱりわからないんだけど、と自室で一人頭を悩ませていると、思いがけない人物が部屋を訪ねてきた。

「入るぞ」

 記憶にある小さな少年が、いつの間にやら貴公子と呼んで差し支えないほどの立派な青年へと成長していた。そんな感慨深さを起こさせる兄、レンが少し苛立たし気様子で俺の部屋に入って来た。

「ルシウス。君に言いたいことがあって来た」

 そりゃ用が無かったら会いに来ませんよね。 あれ? 僕は君が実の弟だって覚えているよ、っていう感動の展開かな?

異常に緊迫した空気間に耐えられず、俺は心の中で現実逃避をしていた。

「最近リアに付き纏っているそうじゃないか。君、リアに惚れただろ?」

 真実なだけに否定しづらい質問来た~。惚れたって言うか既に惚れていたって言うか。まあどっちでも変わらんか。これあれでしょう? 見知らぬ男に対して兄が「妹に手を出すな!」ってなるパターンでしょ? わかったよ。もう見えたよ展開が。

「例え血が繋がっていないとは言え、僕達は兄弟だ。礼節を弁えてもらわないと困るんだ」

 ほらあ、やっぱり。しかも俺が実の兄弟だって覚えていなかったパターンじゃん。これはもしかして姉の方も俺と血が繋がっていること知らないな。つまり、彼女が俺と距離を取ろうとしているのは、俺が義理の弟になったからなんだな。そりゃ少女漫画みたいな展開にはなりませんて。世間体気にして猛反対ですわ。

「もちろんですよレムス様。家族ということになったとは言え、俺は平民の子。越えてはならない境界というものは、十分弁えているつもりです」

「どうだかな。君はその、越えてはならない境界というものを平気で越えて、魔獣狩りという称号を授かったそうじゃないか」

 いや、そうですね。全く貴方の言う通りです。さすがお兄様です。

「兎に角、あまり身勝手な行動はするなよ」

 最後に俺に釘を刺して、レンは部屋を出て行った。現状、これ以上家族関係を悪化させない為にも、ここは何もしない方針でいこう。

 それからというもの、俺は家族との接触をそこそこに生活するように努めた。無論オヤジと奥様にキョウダイ仲が悪いとは映らない程度の関わり合いを保ちつつ、レンの琴線に触れない距離感を維持するのだ。かなり疲れる作業ではあったが、前世の話が通じない上司と関わるよりは百万倍楽だと思えた。



 そうこうして一月ほど経ち、夜、俺の部屋にノックの音が響いた。

「入ってもいいですか?」

 姉の声だった。

 これが世に言う「押して駄目なら引いてみろ」作戦か。こうかは ばつぐんだ! いや効果出ちゃ駄目だろ!

 俺は姉が部屋の中に入ってくる前に扉を開けて出迎えた。

「何か御用ですか、姉上」

 俺は戸口に立って姉に話しかけた。

「・・・・・・少し、貴方と話がしたいのですが」

 俺から言った時は、全てつれなくあしらったというのに。俺を皮肉のつもりで、前に姉が俺に言った言葉を返す。

「・・・・・・では、居間でお話ししましょう」

「姉弟水入らずの会話をしたいのですが」

 俺は、彼女に対し無性に嫌がらせをしてやりたい気分に駆られた。ひと月前に俺がそう言って食い下がった時に、彼女は俺に言ったのだ。「姉弟の会話なら、家族に聞かれても心配ないでしょ」と。一か月前の俺と彼女の立場を入れ替えて、俺達は今同じ会話を繰り返していた。彼女は意図的に、俺が使った言葉と全く同じ言い回しを選んだのだ。

 君は俺を試しているのか!? 君が俺と話をしたくてここに来たんじゃないのか? どうして俺が断りの言葉を口にするように話をもっていくんだ。ちくしょう。ちくしょう。

「・・・・・・わかりました」

 俺はそう呟いて彼女を部屋に招いた。万物を支配するこの世の理に俺の口が支配されてしまったような、そんな気分になった。

 部屋に入った少女は、俺のベッドに腰を掛けた。他に俺が普段座っている椅子しか座るものが無いからって、普通そこに向かうだろうか。彼女の指が、俺のベッドの表面を這うように動いた。

 触らないでくれ。君の跡を刻まないでくれ。どうしようもなく、そう叫びたくなった。

 俺は扉の前に立ち尽くしたまま、開いてしまった少女との距離に、言いようのない寂しさを感じていた。

「不思議な気分。貴方が義弟になるなんて」

 敬語が抜けた彼女の声が、一年前の記憶を否応なく呼び起こす。

「俺も、今でも信じられないよ。君が義姉なんて」

 彼女の存在が俺の心をざわつかせ、彼女の声が俺の心を凪ぎさせる。

「俺は、シラクサという女の子が、幻だと思っていたんだ」

「私は、ラックという男の子が、夢の中の話だと思ってた」

「・・・・・・じゃあ、これは夢の続きかい?」

「いいえ、もう夢は終わり。明日から、私達は姉弟よ」

 明日からなんて条件を付けないでくれ。俺に希望を抱かせないでくれよ。

 俺はゆっくりと、少女に近付いた。座る彼女は逃げる様子も無く、優しい瞳で俺の顔を見ていた。彼女の前で、俺は立ち止まる。

「明日からというのなら、今夜は、まだ触れてもいいだろう?」

「・・・・・・姉弟で触れてはいけない所なんて、あるのかしら?」

 俺はぎこちなく少女に近付いて、震える手で頬に触れた。迷う指で唇に触れた。唇で、唇に触れた。

 正しくないわと彼女が言った。俺は彼女に、何度も、何度も間違いを訂正させられた。


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