二十 少年、神父と話す
目覚めると、俺は自分の家の布団で眠っていた。
昨日の宴会以降の記憶が曖昧で、正直、何をしていたのかほとんど思い出せなかった。マリアに尋ねると、どうやら宴会を抜け出してそのまま家に帰り眠ってしまったらしい。
そう言われれば、そんな気がしなくもない。
町の集会場に顔を出すと、多くの者が酔いつぶれていた。その中にバルの顔は無く、程よい時間で帰宅したことがうかがえた。貴族と町長の姿もなかったので、きっと昨晩は奴は町長の屋敷に泊まったのだろう。
森へと向かうと、今日もエイブが魔法の練習をしていた。
「今日は何の練習だ?」
「索敵魔法っていうやつを練習中」
「索敵魔法?」
「うん。複合魔法の一つで、周囲の動物や人間の位置がわかるんだ」
「それめちゃくちゃ便利じゃん」
「そうなんだよ。冒険者になるためには必須だって、師匠が教えてくれたんだ」
「へ~、そいつは良かったな」
俺は教会の神父の顔を思い出そうとして、上手くいかなかった。ただ単に神父が影の薄い人物なのか、それとも俺が記憶障害なだけなのか。
「神父って基本ずっと教会にいるよな?」
「うん。ずっと教会にいるよ」
「なるほど。ちょっと俺、教会に行ってくるわ」
そう言って、俺は町の方へ戻ることにした。エイブの師匠がどんな人間なのか、非常に興味が湧いてきたのだ。
「え? 師匠に会いに行くの? 待って。僕も行く」
「お前はいつも会ってるんじゃないの? それに、索敵魔法の修行しなくてもいいのか?」
「いや、ちょっとコツが訊きたくなって」
「はいはい」
俺とエイブは町の教会を目指して歩き出した。
町に着き教会の前まで来ると、丁度クソ貴族が町を出るところが見えた。町のほとんどの人が見送りに参加していて、中にはバルやマリアの姿もあった。
笑顔で手を振り馬車に乗り込むクソ貴族。走り出した馬車が見えなくなるまで、皆が手を振っていた。
俺は白い目でその様子を眺めていた。何故奴が人々から尊敬を受けるのだろうか。
深呼吸をして気持ちを切り替えた後、見送りを終え散り散りになる人々の中に神父の姿を見付け駆け寄った。
「神父様、おはようございます」
「師匠、おはようございます」
俺が声をかけてきたためか一瞬驚いた様子を見せた神父であったが、直ぐに柔らかい笑みを見せた。
「おはようございます。ラックくん。エイブ」
「エイブから、貴方が師匠だと聞いたんですが」
「ええ。まあ、師匠と呼ばれるほど指導しているわけではないのですが、私が魔法のことについて、少しエイブに教えましたよ」
「あの、実は、俺も魔法に関して、少し教えていただきたいなあと思いまして」
「もちろん。構いませんよ。立ち話も何ですし、教会の中で致しましょう」
そうして、俺とエイブと神父は、教会へと向けて歩き出した。
「そう言えば、この前エイブが、あなたが『発火』を上手く発動できなかったという話を聞きましたが、魔法を上手く使えるようになりたいという話でしょうか?」
移動しながら、神父が俺に話しかけてきた。
「ええっと、個人的には魔法を使うことに関しては完全に諦めているんですよ。才能がこれっぽっちもありませんから。強いて言うなら、知的興味、というやつでしょうか。純粋に気になるんですよね」
「なるほど。そういうことですか」
そう言うと神父は立ち止まり、少し考えるような仕草をした。
「もしよろしければ、定期的に、エイブと一緒に私の話を聞いていただく、という形式でも構いませんか」
「僕は構いませんけど、理由を教えていただけますか」
「はっきりと申しますと、エイブは感覚型で、座学が苦手なのです」
「・・・・・・なるほど」
「今まで師匠に教わったことは全部覚えていますよ!」
「それは理解できるまで何度も繰り返したからだよ、エイブ。それに、私はお前が座学が苦手なことを責めているわけではない。理論を私以外の人の口から説明してもらうことが、お前の理解の助けになると思ったんだよ」
「ですが神父様。俺、魔法はからっきしなんですが」
「理論が理解できるかどうかという話ならば、魔法が実際に使えるかどうかは関係ありませんよ。それに私の経験上、勉強というものは、皆でやる方が楽しいものなのですよ」
「わかりました。では・・・・・・、どのくらいの頻度で教えてもらってるの?」
俺はエイブに尋ねた。
「うーん、僕は実際に試してみて、わからなくなったら訊きに来るから・・・・・・」
「大体三日に一片は来ますね」
「じゃあ三日に一度、お世話になります」
「いえいえ、私も人に教えるのは好きですから」
俺達は教会を目指し、再び歩き出した。




