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二 社畜、赤ん坊になる

大部修正しました。2020/4/5

サブタイトル修正しました。2020/4/7

 そして、俺は目覚めた。

 随分と突飛な夢を見たと、半ば自嘲気味に笑いながら体を起こそうとして、そして起き上がることが出来なかった。


 馬鹿な!


 慌てて手足をじたばたさせる俺の目に移りこんだのは、小さな小さな手だった。指が短く、爪もほとんどない。まるで赤ん坊の手だ。

 近くに幼児でもいるのだろうかと首を回そうとするが、動かない。


 馬鹿な!


 慌てて声を上げる俺の耳に飛び込んで来たのは、赤ん坊の甲高い鳴き声だった。言葉になっておらず、おぎゃあおぎゃあ、とただただ繰り返す。

 やはり近くに幼児がいるのだと声を上げるのを止め瞳を動かすも、途端に声は聞こえなくなり上手く周りを見ることもできなかった。

 どうしようもなく困り果てていると、ドアを開け放ったような音と共に、メイド服の若い女性が目の前に現れた。なかなかの美人ではあったが、夢の中の女性をはっきりと思い出すことが出来てしまったために、あまり感動することが出来なかった。

 この女性は一体どうしたのだろうと思っていると、女性は俺に対し手を伸ばしてきた。何をするのだと思った時には既に、浮遊感があって、そして目の前に女性の顔があった。

 俺の体を軽々と持ち上げる女性の怪力驚き目を丸くしていると、彼女は優しく俺に話しかけてきた。

「どうしましたぁ。怖い夢でもみましたかぁ。大丈夫ですよぉ。大丈夫ぅ、大丈夫」

 不思議と語尾が伸ばされるその話し方に、俺は聞き覚えがあった。小さい子、特に自分で話すこと出来ない赤ん坊に対して話しかける時の方法だ。

 俺は赤ん坊ではないぞ。そう声を上げようとして、こんな声が聞こえてきた。

「あー、うー」

「はいはい。そうですよぉ。マリアですよぉ」

 彼女は一体誰と話しているのか。夢の中の様に、俺の心の声に反応してくれる人物がいるはずもなかった。

 マリア、と名乗った女性は、持ち前の怪力で俺を運びながら、部屋の中を巡回していた。そして偶然鏡の前に彼女が立ち寄った時に、驚くべきものが俺の目に飛び込んできた。

 鏡の中に映るメイド姿の女性。その女性の手に抱かれていたのは、生まれて間もない赤ん坊の姿だった。


 馬鹿な!


 俺は頭に浮かんだある仮説を全力で否定しようとした。しかし、その仮説を一度受け入れてしまえば、今起きている事態も、ましてや夢の中の出来事すらもきれいに説明してしまうことが出来た。

 だから、俺はその仮説を、一度言葉にしてみることにした。


“俺は、赤ん坊に生まれ変わったのかもしれない”

「ああうー、あうおあおおおあおうあお」


「あは。坊ちゃん、楽しいですかぁ」

 マリアは、俺が喜んでいると思ったらしい。

 恐らく、間違いない。俺は、赤ん坊になってしまった。そして赤ん坊出るにもかかわらず、こうはっきりとした意識があるということは、きっと夢だと思っていた出来事が、全て実際にあった出来事であるということだろう。俺は『記憶保持』の能力で前世の記憶を保ったまま、赤ん坊として生まれ変わったのだ。

 俺の機嫌がいいことに満足したのか、マリアは俺を赤ん坊用のベッドに戻し、スキップしながら部屋を出て行った。あの様子だと、記憶を取り戻す前の俺は、一度ぐずるとなかなか泣き止まなかったのだろう。

 いやそんなことよりも!

 夢の中のことが真実だというのなら、俺は今、剣と魔法の世界にいるということになる。これは異世界ものの小説でお馴染みの「赤ん坊の頃から修行している俺最強」というお約束の展開に違いない。

 ビバ! 魔法ライフ!

 虚空に手を向けて力を籠めるも、特に何も起きなかった。一時間程度の挑戦で何の効果も得られなかったので、俺は諦めて寝た。


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