テセウスとミケナイ王
大空を見上げて、ため息をしているテセウスのもとへ、ヘラクレスの息子ヒュロスが訪ねてきた。
ヒュロスはヘラクレスの母アルクメネを支えながらテセウスの前に進み出た。
アルクメネ:「テセウス様、どうか私たちをかくまってください」
ヒュロス:「父が亡くなって以来、ミケナイ王が王位を奪われるとおもい我々を弾圧してきたのです」
テセウス:「我が友ヘラクレスのご家族のたのみとあらば、喜んでお力になりましょう」
ミケナイ王エウリュステウスは、ヘラクレスに10の試練を与えた王さまで、一時はヘラクレスに王位を譲ろうとも考えたが、ヘラクレスが亡くなると、息子のヒュロスに王位を奪われると思い込み。
ヘラクレスの家族を弾圧してきたのだった。
テセウス:「ミケナイ王エウリュステウスとは、あわれな男だな」
テセウスは宙を眺めながら呟き、そして続けた。
テセウス:「お前たちを弾圧するのは、自分に自信がないからだ」
ヒュロス:「そうかもしれません、ですが力のない私たちは、こうして隠れて暮らすことしか出来ません」
テセウス:「確かに、力がなければ押し潰されてしまうこともあるな・・・」
息子ヒュロスと母アルクメネは、テセウスのもとアテナイで暫しの間、やすらかな日々を過ごした。
数ヵ月経った頃、ミケナイから使者がやって来た。
ヒュロスとアルクメネを引き渡せということだった。
テセウスは、使者をおいかえし戦争の準備をはじめた。
アルクメネ:「よろしかったのですか、こんな年老いた老婆の為に・・・」
テセウス:「わたしはヘラクレスには大変な恩がある、それにこの戦いは、あなただけの為ではない」
ヒュロス:「わたしも力のかぎり、戦います」
アテナイは大きな国だったが、ミケナイも最初の英雄ペルセウスが築いた格式のある大きな国だった。
そして、この戦いに反対するアテナイの家臣たちも多かった。
家臣A:「なんで俺たちが、ヘラクレスの家族の為に戦わなければならないんだ」
家臣B:「大体、テセウス様だって、何年もこの国をほったらかしにしていた人物だぞ」
テセウスはアテナイの英雄ではあったが、親友のペイリトオス一緒に嫁探しをして長いあいだアテナイを留守にしていたことがあるのだ。
その時、スパルタの姫ヘレネを連れ去り、ついで冥界の女王ペルセポネに手をだし、
ハデスに捕らえられた。そして何年も忘却の椅子に座らされることになったのだ。
それをヘラクレスが助けだし、アテナイの王として復帰した。
だが、民の心はすでにテセウスから離れてしまっていたのだった。
テセウスにとって、この戦いは必ず勝利し、民の心をもう一度取り戻す為のテセウス自身にとっての戦いでもあった。
戦いは拮抗していたが、テセウスやヒュロス、神や英雄の血を引く者たちの活躍で、アテナイの勝利に終わった。
テセウス:「俺もだいぶ年をとったと思ったが、まだまだやれるもんだな」
ヒュロス:「さすが、ポセイドン様の息子ですね」
テセウス:「お前も、さすが英雄ヘラクレスの息子だけのことはある。で、こいつをどうする?」
そこには、おびえきったミケナイ王エウリュステウスがいた。
エウリュステウス:「た、たのむ助けてくれ~」
アルクメネ:「あなたは従姉妹であるわたしに、ひどい仕打ちをしてきたではありませんか!」
エウリュステウスの頼みは受け入れられることはなかった。
こうして、ペルセウスから続いたミケナイ王の血は途絶えた。
次のミケナイ王は、神託により、黄金の子羊をもつペロプスの息子となった。