8話 勇者と船
王宮にて一夜を過ごした俺たちは、マーリン様に呼び出され、玉座の間へと向かっていた。
「朝早く呼び出してすまなかったね」
「いえ、マーリン様、昨夜はお部屋を提供していただいてありがとうございます」
「おかげでゆっくり休むことができました」
代表してトモエが一歩前に出て礼をした。
「いやいや、ゆっくりできたなら良かったよ」
「おっと、聖印を渡しておこうか」
「勇者 タケル前へ」
マーリン様の前へ出る。
「さて、これが聖印だよ」
綺麗な装飾が施された首飾りをマーリン様から受け取る。
中心に赤い石がそえつけられている。
「その中心にそえつけらている石は聖証石という」
「その石にヤマト国王族が魔力を込めることで鍵の役割を果たす」
「あとは、タケル、君の魔力を込めたまえ、それでその印は君専用の鍵となる」
マーリン様に促され、聖印に魔力を込める。
「さっきまで、赤かったのに、青くなった!?」
「うん、これで聖印の完成だ」
「各大陸にある、ダンジョンの入口の石版にタケルが魔力をこめてかざせば入口が開く仕掛けになっている」
「へー綺麗なもんだなあ」
ユウがしげしげと聖印をみる。
「これ、俺や姫ちゃんが魔力込めても使えるんですか?」
ユウが問いかける。
「いや無理だ」
「聖証石は、僕たち王族の魔力以外は一人分しか入らないし、それ以外の者が使用しても反応しない」
「へー不思議石ですね」
マーリン様はいい例えだと笑う。
「ところで、アーサー様は?」
そう、さっきから玉座の主たるアーサー王がいない。
「ああ、兄さんはちょっと私用でね」
「ところで、これからどこに向かうつもりだい?」
マーリン様はすこし気まづそうな顔をしていた。
それについては、今日の朝、三人で話し合っていた。
「はい、まずは、フラウ公国に向かうつもりです」
「フラウ公国か…」
うんとマーリン様が頷く。
「いいんじゃないかな、あそこはヤマト国との関係も良好だからね」
今日の朝、トモエさんから少し、聞いていた話。
魔王封印以降、四大陸にある国同士の利権争いが激化し、関係が悪化している国があると。
詳しくはきけなかったが、相当に深刻な所もあるらしい。
「それで、マーリン様…」
「フラウ公国に向かう船だね」
「国が所有している船を一隻貸そう」
そして、マーリン様案内のもと港へと向かった。
「トモエ、フラウ公国ってどんなところなの?」
「フラウ公国はこのインディトラの中では一番小さな国です」
「貴族 フラウ家が、代々統治している国ですね」
「国の規模は小さいですが、最も歴史のある国で、魔王封印以前からヤマト国と親交があります」
「ヤマト国民にとっては最も旅をしやすい国と言えますね」
「へー、さすがトモエ物知りだね」
「そんなことないですよ、タケルも少しこの世界を旅すれば分かることです」
「あのさー」
ユウが会話に割り込んでくる。
「お二人さん随分仲良しさんになってねーか?」
「俺だけ蚊帳の外で悲し〜な」
言葉とは裏腹にニヤニヤとユウがちゃかしてくる。
真っ赤になってトモエは俯いてしまった。
「それにしても、フラウ公国たのしみだなー」
「タケル、フラウ公国の名物知ってっか?」
「フラウ餅って言ってな、めちゃめちゃうまいんだぜ」
ユウはいつも、勇者の試練とか神子の使命みたいなことは一切口に出さず、いつも明るい話題を提供してくれる。
何もわからない異世界で、そのことがどれだけ嬉しいか。
「へー楽しみだな!」
「だろー!うまい店知ってんだ、着いたら真っ先に行こうぜ」
どうやら、ユウはフラウ公国に行ったことがあるらしい。
友好国らしいから、旅行とかで行ったんだろう。
先をいっていた、マーリン様が一隻の船の前で止まる。
俺が想像していた船よりはだいぶ小さいが、少人数の旅には充分すぎる大きさだ。
「遅かったじゃないか!」
船の前に立っていた男が声を出して近づいてくる。
「アーサー王!?」
そう、玉座の間にいなかったアーサー王その人であった。
「見送りに来てくださったんですか?」
しかし、アーサー王の服装は昨日のそれとは違いかなり軽装だ。
「違うぞ」
「俺もお前たちの旅に同行する」
「はいっ?!」
でてきた言葉に唖然とした。
アーサー王をが何を言っているか理解できず、マーリン様の方を向くと、マーリン様はやれやれど目頭を押さえていた。
「実は昨日の一騎打ちの後、言い出してね」
「僕も騎士団長も猛反対したんだが…聞かなくてね」
「俺もちょうど、フラウには用があってな」
「とりあえずフラウ公国までは同行させてもらうぞ」
かなり驚いたが、これはかなりラッキーなのではないか。
アーサー王ぐらい強く地位のある人が旅に同行してくれるのはかなり心強い。
ユウとトモエもうなずいていた。
「正直、すごく助かります」
「アーサー様、よろしくお願いします」
アーサー王と握手を交わす。
「マーリン後は任せたぞ」
「騎士団長と2人でうまくやってくれ!」
「わかったよ兄さん、くれぐれも気をつけてね」
こうして、俺たちはマーリン様に別れを告げ、フラン公国へ向け出発したのであった。
船の操舵はアーサー様が、全て指示を出してくれた。
なんでも、昔一人で世界を回っていた時期があって、そのときに船旅も経験したとか。
「フラウ公国のあるスプリンガン大陸までは3日ってとこだな」
「まずは、フラウ公国の海の玄関、港町 フローラルに入る」
「そこから陸路で2日も行けばダンジョンのある首都フラウにつくからな」
大まかなこれからの日程について、地図で示しながらアーサー様が説明してくれた。
トモエが頷く。
「本当にありがとうございますアーサー様」
「私達だけでの旅は少し不安だったので、とても助かります」
「かまわんよ」
「俺もフラウには用があったし、それに…」
アーサー様は俺とユウのほうをちらりとみた。
「タケル、ユウ、お前たち2人に稽古をつけてやろうと思ってな」
「えっ?!」
「まじ?!」
「大マジだ」
アーサー様は腕組みをして続ける。
「トモエはともかく、お前たち二人はまだまだだ」
「どうだ?」
ユウと顔を見合わせる。
「はいっ!ぜひお願いします」
ユウはうっとりした顔で、あの伝説の騎士王に稽古をつけてもらえるなんてとウットリしていた。
「良かったですね!タケル、ユウ君!」
「トモエにも教えてやりたい気持ちはやまやまなんだが…、あいにく魔法職は専門外でな」
「すまん」
トモエは慌てて手をふる。
「大丈夫です!私は本で研究できますから」
「タケルとユウくんのことよろしくお願いします」
「よし、明日からビシバシ行くから覚悟しとけよ!」
こうして、俺の初めての船旅は、スタートしたばかりだ。
いかがだったでしょうか?
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