第5話 勇者と騎士王
旅立ったタケル、トモエ、ユウの3人。
まずは、勇者の試練を受けるために必要な許しを得るため、ヤマト国首都 エキョウへ向かう。
澄んだ青空に、それ以上に透きとおった海。
神子の社をでて2時間ほど歩いたが、山育ちの俺はすっかりこの景色に魅せられてしまい、全く疲れを感じることなく歩き続けていた。
「そんなに、海が珍しいのですか?」
微笑みながら、神子 トモエさんが声をかけてくる。
俺はこの微笑みを『天使の微笑み』と密かに名付けているのは内緒だ。
何を隠そう、この微笑みにも俺はすっかりやられてしまっていたのだった。
「海よりもステキな君の笑顔に首ったけさ」
なーんて、くさいセリフは言える訳もなく。
「そうですね、俺は山育ちだったから、海ってあんまりみたことなくて」
「それに、こんな綺麗な海や景色は見たことがないですよ」
隣を歩いていたトモエさんは嬉しそうに俺の顔みつめていた。
これだ。
どうしてこの人は恥ずかしげもなく、真っ直ぐに人の顔を見つめられるのだろう。
そんなことされたら、俺もトモエさんから目を離せななくなる。
「もしもーし?俺がいること忘れてねぇか?」
すっかり、蚊帳の外で口を尖らせて、拗ねた表情をしているユウが後ろから歩いていた。
「忘れてなんかないよ」
嘘だ。
ユウのことなんて、すっかり頭から消え去っていた。
痛いところをつかれて声がうわずってしまった。
「ほんとかよ…」
「姫ちゃんもタケルも自分の世界にはいってんよなー」
ニヤニヤとタケルがトモエさんを見る。
トモエさんは顔を真っ赤にして反論する。
「もう、からかわないでください!」
世界を救う旅だっていうのにイマイチ緊張感がないんじゃないかなとも思うが、最初から肩肘張ってもしょうがないか。
こほん、とトモエさんが咳払いをした。
「もう少し行けば、首都エキョウですから頑張りましょう」
「そこで、王様に勇者の試練を受けるための印をもらうんですよね」
俺たちは、今この国の首都を目指して歩いている。
勇者の魔法『封印魔法』。
4つの心器のカケラに封じられていて、それを手に入れるためには、試練つまりダンジョンに潜る必要がある。
その許可を王様にもらうため、首都へと向かっているわけだ。
「王様に会うのは、随分久しぶりです」
「あったことがあるんですか?」
トモエさんはエヘンと胸を張る。
「私、これでもこの国の神子ですから!」
「こうしてると、そうは見えんけどなー」
「ユウくん!」
「わりいわりい、おっ、見えてきたぜ」
大きな城門をくぐると、賑やかな街が見えてきた。
まず、飛び込んできたのは活気のあるバザー。
そして、メインの通りと思われる道の先には大きな城があった。
「あそこのお城に王様はいらっしゃいます」
「今日訪問することはすでに伝えてありますので、さっそく参りましょうか」
トモエさんとユウの後について、歩く。
左右を見渡すと、みたことのない果物や野菜、食べ物。
ついつい、キョロキョロしてしまう。
完全におのぼりさんが1人完成だ。
ユウに見透かされて、
「おい、タケル!おのぼりさんになってんぞ!」
と笑われてしまったのだった。
お城の中に入ると、更におのぼりさんは進化する。
高い天井。
フカフカのカーペット。
そして汚れの一つもない床。
マジで異世界だわ。
こっちに来てからと言うもの新しいことだらけで、退屈する暇がまったくない。
キョロキョロしながら歩いていると妙に視線を感じる。
「なあ、ユウ」
「どうした?」
「なんか見られてない?」
「そらそうだろう、勇者様のお出ましなんだから」
そうか、俺、勇者だったんだ。
「勇者様がキョロキョロしてたらかっこわるいぜ」
またしてもユウにからかわれてしまう。
ユウなりに気をつかってくれているのが分かった。
「ここが玉座の間です」
一際大きな扉の前に兵士が2人たっている。
トモエさんがその2人に声をかけると、すぐに扉が開いた。
トモエさんは、軽く会釈をし、中に入っていく。
ユウと俺もその後に続いて玉座の間に入る。
そこに座っていた王様は、俺が想像していた王様像とはかけ離れた若さであった。
そして、その傍らにはもう1人若い男が立っていた。
「お久しぶりです、アーサー王、マーリン様」
どうやら、王様の名前はアーサー。
そして、その傍らに立つ男はマーリンというらしい。
「久しいな、トモエ」
「そして、ユウも立派に成長したな、見違えたぞ」
威厳がありながらも、どこか優しい眼差しで2人に声をかけていた。
若い感じではあるが、一国を統べる王の威厳であった。
「それで、そなたが此度召喚された勇者だな」
「はい王様」
「タケルと申します」
アーサー王は立ち上がり、俺の方に歩いてくると、肩に手を置いた。
座っていたので分からなかったが、かなりの大きさだ。
「ああ、畏まらなくていい」
「かたっ苦しいのは苦手でね」
「こういうのは、弟のマーリンのが向いていると思うんだがね」
そう言ってアーサー王は肩をすくめる。
すると、すぐにマーリン様が咳払いをして、アーサー王を咎めた。
「兄さんはやく本題へ」
「そうだな」
「神子トモエ」
「試練を受けるための印、『聖印』をタケルに授けて欲しいとのことであったな」
アーサー王はトモエさんに問いかける。
「そのとおりです」
アーサー王は頷き俺の方をみる。
この威圧感。
まぎれもなく一国を統べる王のそれだ。
「タケルと言ったな」
「お前の覚悟を試させてもらいたい」
「なに、難しいことではない、少し俺と剣を交えて欲しいだけだ」
「修練場にこい、そこで待つ」
そういうとアーサー王は玉座の間をさっさと出て行ってしまった。
そして、マーリン様ははあっとため息をついた。
「すまないね、タケル君」
「驚いたろう、兄さんの悪い癖なんだ」
たしかに少し驚いたが、悪い気は全くしなかった。
ここまで来る途中にアーサー王は、剣の達人で騎士王と呼ばれていることや、その武勇伝を散々ユウから聞かされていた。
そんな人と剣を交えられるのは、武道をかじっているものとしてはむしろ嬉しいくらいだ。
「いえ、マーリン様、とても光栄ですよ」
「悪いね、少し付き合ってやっておくれ」
「修練場に案内しよう」
マーリン様の後をついていく。
ユウとトモエが心配そうにこちらを見ている。
「2人とも、どうしたの?」
「だってよ、アーサー王めちゃくちゃな強さだぜ」
「はい…絶対ケガしますよ…」
やっぱりそうだよな。
2人の心配そうな表情をみて、すこし怖気付いたが、
しかし、こんなチャンスもう二度とないかもしれない。
そう思うとやはり、やめる気にはなれなかった。
「まあ、やれるだけやってみるよ」
修練場につくと、アーサー王が鎧を身に纏い、長剣を腰に携えて立っていた。
「来たか」
「はい、よろしくお願いします」
桜花を構える。
「ほう、その心器、原案だな」
「楽しめそうだ」
ニヤリとアーサー王は不敵な笑みを浮かべた。
が、すぐに威圧感溢れる顔に戻った。
「言っとくが、全力でかかってこい」
「でなければ、死ぬぞ?」
そう言って剣を抜きこちらに構える。
いざ相対すると、やはり、とてつもないプレッシャーだ。
このことだけで、アーサー王の強さが伝わってくる。
おそらく勝てないであろうことは、この時点で分かっていた。
それくらい力の差がある。
となればだ。
「最初から全力でいきます!」
桜花の集中を発動させ、ありったけの魔力を込めた。
「そのいきやよし!こい!」
俺は、騎士王アーサーに闘いを挑むのであった。
いかがだったでしょうか?
なかなか物語が進展しませんね笑
物語を書くことがこんなに難しいとは…泣
次回はタケルとアーサー王との闘いになります。
早めに更新いたします。
ぜひ読んでやってください!