第1話 勇者と神子
真っ白な世界。
気がつくと俺はそこに立っていた。
なんだよここ
俺どうしてたんだっけ
ああそうだ、神社で声に返事をしたんだ
そしたら、急に目の前が真っ白になって・・
「やあ」
また、頭の中に声が響く。
でも、これはさっきまでの少女の声とは違う声だ。
男の声でも女の声でもない。
形容しがたい不思議な声だ。
「混乱しているね」
「あんまり気にしないほうがいいよ」
「君たち人間の理解が及ばないことなんてこの世には沢山ある」
「ここもそう、ここは、世界と世界の狭間
どこにでもあって、どこにもない存在しない場所さ」
君は誰?
「ああ、僕のことは気にしないで」
「だって自己紹介しても、君はきっとすぐに忘れてしまうだろうから」
「それに今はそんなゆっくり話している時間はないんだ」
「すぐに目を覚ませば忘れてしまうだろうけど、君にどうしても伝えたいことがあってね」
「とっても大事なことなんだ」
これは夢?
「君は、これから想像もつかないようなことに巻き込まれる」
「その中で、苦しいことも、悲しいことも、楽しいことも、平等にやってくるだろう」
「けれど、決して諦めてはいけない
なぜなら、君にはそれを乗り越える、力がある」
「いいかい」
「大事なことは、困難に直面した時、勇気を持って一歩前に踏み出すこと」
「そうすれば、きっと乗り越えられる」
「怖がらなくていい」
「君には僕がついている」
一方的に語りかけられ理解が追いつかない。
「おっと、そろそろ時間切れだ」
意識が遠のいていく。
「もう少し話していたかったんだけどしょうがないね」
「君が最高の勇者になれるよう祈っているよ」
・・勇者・・?
「そう、君が憧れた勇者さ」
・・・・
意識が急激に覚醒するのを感じた。
何か夢を見ていた気がする。
ゆっくり、目を開けると、目の前には少女が立っていた。
「ああ、良かった!成功した!」
その少女は一瞬、ほっとした表情を浮かべた。
だが、すぐに真剣な表情へ変わり俺に向かってこう言った。
「勇者様、私達の世界をどうかお救いください」
・・・・・
俺は別室へと案内されていた。
多分、客間・・だろうか。
見るからに高そうな椅子と机が並べられている。
案内をしてくれた女性に促され、その一つへと腰掛ける。
「神子さまがすぐに参られますので、こちらでお待ちください」
「神子さま?」
俺の問いかけには答えず、その女性は静かに扉の横まで歩き、ピンとした姿勢でその場になおった。
なんなんだここは。
まさか、変な宗教団体じゃないだろうな。
俺、誘拐された?
いやいや、俺を誘拐したってなんのメリットもない。
そんな自問自答を繰り返していると、先ほどの少女が部屋へと入ってきた。
「先ほどは、不躾に申し訳ありませんでした」
「ミサキ、お茶をお願いできますか?」
案内をしてくれた女性に少女が言った。
「かしこまりました、神子さま」
どうやら、この少女が神子さまらしい。
「自己紹介がまだでしたね」
「私は、トモエと申します」
「このヤマト国の神子を務めさせていただいております」
ヤマト国・・?
聞いたことがない。
「あの、お名前をお聞きしても?」
「あっ、俺は、天上タケル、です」
「タケル様・・いいお名前ですね」
トモエと名乗った少女はニッコリと微笑んだ。
思わずドキッとした。
よくよくみれば、トモエという少女は俺とそんなに年は変わらないではないだろうか。
さっきまで見せていたどこか凛とした表情と年相応の可愛らしい女の子の表情・・。
かわいい・・。
いやいや、今はそんな場合じゃないだろう。
気を取り直して尋ねる。
「あの」
「ここは一体どこなんですか、ヤマト国なんて全く聞いたことがないんですが・・」
それと同時にお茶が運ばれてきてた。
とてもいい香りだ。
「そうですね」
トモエさんは運ばれてきたお茶を一口飲むと、こう続けた。
「ここはあなたのいた世界と対となる世界、インディトラ」
「あなたのいた世界からみると、ここは異世界・・という事になります」
「異世界・・?」
「そうです」
「そして、タケル様をこのインディトラに召喚したのは私です」
「タケル様、いえ、勇者様」
「あなたに、この世界を救っていただくために」
なんの冗談だ。それともドッキリか。
トモエさんのあまりにも真剣な表情にそういう類のものではないのだということだけは理解できた。
ただ、この現実離れした状況をすんなり受け入れられるほど、俺は人間ができちゃいない。
「いきなりそんなこと言われても、信じられません」
「それに、世界を救うって」
「俺にはそんな特別な力はないし、ましてや、勇者だなんて」
トモエさんは俯いていた。
その表情は少し暗い。
「そうですね、すぐには受け入れられないのも無理はありません」
「ただ、貴方には特別な力、勇者としての力が備わっているのは間違いありません」
「その力にあなたはまだ気がついていないだけなのです」
トモエさんは真っ直ぐに俺の目を見て続けた。
「私が行ったのは『勇者召喚』と呼ばれる特別な召喚魔法です」
「勇者としての才覚のある人間と縁の糸を結び、召喚する」
「この世界に召喚されたということは、つまり、タケル様には備わっているはずなのです」
「勇者の力が」
これじゃまるで漫画かゲームかアニメだ。
しかし、トモエさんの真っ直ぐな瞳をみるととても嘘とは思えなかった。
落ち着きたくて、目の前に出されたお茶を一口飲む。
「美味しい・・」
思わず口から漏れたその言葉に、トモエさんは嬉しそうに表情を崩した。
「そうでしょう?ミサキが淹れてくれるお茶は世界一なんです!!」
その言葉に思わず笑ってしまった。
少しスッキリした。
とにかく今は話を聞いてみよう。
いろいろ考えるのはそれからでいい。
「世界を救って欲しいって、なにか、脅威となるものがあるんですか?」
「はい、驚異の名は魔王ディアボロス」
「かつて、魔物の大群を率いてこのインディトラで破壊の限りをつくした魔界の実力者です」
魔王。魔界。魔物。
いよいよもってファンタジーだ。
「かつて、というのは?」
「今は、封印されているのです。」
「三代前の神子が召喚した勇者の活躍により、ここヤマト国から遥か北の孤島へ封印されました」
「今から200年前のことです。」
「魔王の封印により、各地の魔物も弱体化され世界は平和になりました」
「しかし、2年ほど前から魔物が活発化し、また人々を襲うようになったのです」
「封印の孤島へと調査団を派遣した結果、封印が弱まっていることが分かりました」
「方々手を尽くし、なんとか封印をかけ直そうとしましたが、ことごとく失敗しました」
「そうこうしているうちに更に封印が弱まってしまい・・
なんとなく飲み込めた。
「つまり、勇者がかけた封印術をもう一度かけなおすために、『勇者召喚』をしたってことですか?」
トモエさんがびっくりしたような表情を浮かべ、すぐに大きく頷く。
「その通りです。」
「魔王を封印している封印術は勇者様だけの特別な力であるというのが、私たちの出した結論です」
ボーンボーンと部屋の隅に押されている大きな時計の音が響いた。
「あら、もうこんな時間ですか」
「タケル様も今日はお疲れでしょうから、続きは明日にしましょう」
「ミサキ、タケル様をお部屋にご案内をしてもらえますか?」
ミサキさんに案内してもらった部屋に入り、ベッドに腰掛ける。
ふとポケットの携帯電話をみる。
「やっぱ、圏外か」
「皆、心配してるんだろうな」
今までの話。
作り話にしてはたいそれている。
それに、神社でのあの声。
あれは、間違いなくトモエさんの声だった。
わからないことだらけだ。
いろいろ考えている内に強烈な睡魔に襲われた。
とにかく今は休もう・・・
目を閉じ、眠りにつこうとした、
次の瞬間。
大きな爆発音と大きな声に飛び起きた。
「敵襲!!敵襲!!」
部屋の外へ出て、声のする方へと走る。
そこには、異形の生物が壁を破壊して立っていた。
そんな生物は、当然見たことがない。
だけど、唐突に理解した。
これが、魔物なんだと・・
第1話 いかがでしたでしょうか。
ここから、タケルとトモエの物語が始まります。
気軽に感想くださいねー
とても励みになります
では第2話でまたお会いしましょう。