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剣と魔法のこの世界で  作者: 寳凪 洋
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プロローグ

「剣と魔法のこの世界で」のプロローグとなります。

マイペース更新となりますが、頑張って描ききりたいと思います。

初の連載投稿で拙い点多々あると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。

勇者に憧れていた。

世界で一番強くて優しい。

スーパーヒーローだ。

そんなヒーローに俺もなりたい。

そう思っていたんだ。




声が聞こえる。

消え入りそうな女の子の声。

私の声、届いていますか。届いているならどうか、お願いです。

私たちを助けてください。


勇者様。




「タケル兄さん、朝だよ。早く起きないと遅刻しちゃうよー。」


目を覚ますと声の主が顔を覗き込んでいた。

おはよう。と声をかけて体を起こすと、妹分のサクラが満足そうに微笑んだ。

「あら、タケル兄さんがすぐに起きるなんて珍しいね。今日は大雨かなぁ。」

サクラはそう言っていたずらっぽく笑った。

「俺だってたまにはすぐに起きるさ。」

「いつもそうなら助かるんだけどね、お寝坊大魔王さん。あっ、父さんたちもうリビングにいるから、早く降りてきてね。」

忙しそうにバタバタと部屋から出て行くサクラの背中におーう。と間の抜けた返事をしてベッドから降りた。

サクラが父さんの経営する孤児院『宝の庭』に来てからもう5年になる。

最初は父さんの後ろに隠れているばかりだったのに今ではすっかり『宝の庭』のお姉さん役だ。

料理やその他の家事も完璧。おまけに才色兼備ときている。この間の期末テストでは学年トップの成績だったらしい。

よくもまあ立派に成長したもんだ。妹分の成長に思わず頬が緩んでしまう。

近い将来、サクラが恋人を連れてこようもんなら『宝の庭』には血の雨が降ることは必至だろう。

罪深い妹だ。


それにしても、変な夢だったな。

助けてくださいって。

それに、勇者様だってさ。

昨日遅くまで、ゲームやりすぎたかな。


真新しい制服に袖を通し、身支度を整えて食卓へと降りると『宝の庭』の家族が全員集合していた。

「おはよう。父さん。みんな。」

「おはようさん。おっ、タケル、新しい制服よく似合ってるじゃないか。」

父さんが言う。

「ほんとよく似合ってる。かっこいいよ、タケル兄さん。」

サクラを始め家族の面々が口々に褒める。褒める。

8人の家族からそう言われると少し照れくさい。

「ありがとう。父さん。みんな。」

「タケル兄さんの高校の女子制服って可愛いんだよね。私も来年は兄さんと同じ高校に行きたいな。」

今年受験生のサクラが言う。

「サクラならもっと上のランクの高校充分狙えるじゃないか。」

「ううん。兄さんと同じ高校に行きたいの。」

「はは、サクラは本当にお兄ちゃん子だな。」

「もう、からかわないでよ父さん。」

サクラがむくれて言う。

それを見てみんなが一斉に笑い出す。

いつもの朝。

だけどかけがいのない大切な朝。


『宝の庭』のみんなとは血の繋がりはない。

みんな、親を亡くしたり、捨てられたり、それぞれに過去を背負ってここに来ている。

でも、それでも俺たちは本当の家族のように暮らしている。

本当の家族でなくとも確かな絆で繋がってる。

そんな大切な家族に褒められ、祝福され、不覚にも俺は少し涙ぐんでしまった。

それを隠すためにいつもより少し大袈裟に

「いただきます。」

食卓につき父さんとサクラの作った朝食に取りかかる。

「しかし、タケルが今日から高校生とはなあ。時間が経つのは早いもんだ。」

父さんが感慨深げに言った。

「母さんにも後で見せてやれよ。制服姿。きっと喜ぶから。」

「分かってるよ。父さん。」


母さんは俺が5歳になる頃に死んでしまった。

母さんの手のぬくもりや誰よりも優しい眼差しは今でもよく覚えている。

父さん天上ヤマトと母さん天上ヤヨイは結婚と同時にこの孤児院を立ち上げたそうだ。

当時はお金もなく苦労したそうだが、1人でも多くの子供達の笑顔のためにと寝る間も惜しんで働いたらしい。

その甲斐もあってか、いまでは、父さんに賛同してくれるスポンサーもつき経営も安定するようになった。


覚えていることといえばもう一つ。

ある時、俺は母さんに興味本位でこんな事を聞いたことがある。

「母さんはどうして、父さんと結婚したの。」

母さんは少しびっくりした顔をして、

「急にどうしたの。」

だけどすぐに優しい顔で、

「そうねえ、父さんは私にとっての勇者様だからかな。」

そう言った。

「勇者様ってなに?」

「勇者様はね、誰よりも優しくて、頼りになって、そして誰かを守るために戦う勇気がある人のこと。」

「父さんはね、私が悲しい時、苦しい時、一緒にいてくれて、戦ってくれて、そこから救い出してれたの。」

「だから、父さんのことが私大好きなのよ。」

「へえー。父さんってすごいんだね。勇者様なんだ。」

「そう。だから、タケルも父さんのような優しい勇者様になってね。そして、大切な誰かを守ってあげてね。」

「うん!」

ただいまー。

「あっ、父さん帰ってきたね。ねえ、今の話父さんには内緒よ。恥ずかしいから。」



「母さん俺今日から高校生だよ。制服似合ってるだろ。」

写真に語りかける。

写真の母さんは優しい笑みを浮かべている。

「母さんの言っていた勇者様に少しでも近づけているかな。」

母さんとの約束もあってか俺は勇者という存在に憧れ、そして、父さんを尊敬している。

父さんは母さんの勇者様であったが、母さんが死んだ後も俺を、『宝の庭』のみんなを育ててくれて。

そんな父さんを誰よりも尊敬し、自慢に思っている。

「いつか、父さんみたいな誰かにとっての勇者になるよ。それまで見守ってて。母さん。」

兄さん、そろそろ行くよー。

サクラが玄関から呼びかけてくる。

「じゃあ、行ってくるよ母さん。」



高校生活初日は何事もなく終わった。

ただ一つを除いて。

あたりはすっかり真っ暗だ。

また、サクラに怒られる。



「天上、この後みんなでカラオケ行くんだけどお前も来ないか。」

事の発端はそう誘われてカラオケにクラスメイトと行ったことだ。

とても有意義な時間だった。

しかし、いざ帰ろうとした時に不良に絡まれる女の子をみつけてしまった。

「ねえ、君可愛いね。俺らといいとこいこうよ。」

不良のテンプレートのような風貌にこれまたテンプレートなセリフ。

「やめてください。」

女の子は明らかに嫌がっていた。

おい、行こうぜ。

クラスメイトの誰かがそう言った。

「いい加減にしろよ。優しくしてりゃつけ上がりやがって。」

女の子の手首を掴んで強引に連れて行こうとしていた。

「やめろよ。」

気づけばその不良の肩を掴んでしまっていた。


ああ、またやってしまった。

サクラには危ないことに首を突っ込まないように言われているのに。

いや、でも困っている人を見捨てるようでは勇者にはなれない。

幼い頃から父さんに「力の伴わない人助けはただの偽善だ。」

そう教え込まれ、剣道なんかの武道の基礎も父さんに教えてもらった。

不良のリーダー格をのすと後はちりじりだった。

しょうもない奴らだ。

そんなことをしているうちにサクラに伝えた帰宅時間をすっかりオーバーしてしまった。

「すっかり、遅くなったなあ。サクラに怒られそうだ。」

帰路を急ぐ。

…て。

…けて。

わた…えて。

えっ。

思わず振り返る。

誰もいない。

疲れてんのかな。初日だったしな。

サクラのお小言は明日に延期してもらって今日は早く寝てしまおう。


そうだ、こっちの道にはいれば、家の裏手の神社にでるはず。

そうすればいつもより大分早く帰れるはず。よし、ショートカットだ。


目論見通り、すぐに裏手の神社へでることができた。

大分短縮できたぞ。

少しはサクラの怒りを軽減できればいいが。


「助けて…。私の声に応えて…。」

そんなことを考えていたら、今度はよりはっきりあの声が頭の中に響いた。

女の子の声。

ああ、今朝の夢の声だ。でも夢の中より、酷く憔悴してるような感じがする。

今にも、消えてしまいそうな声だ。


「お願い。届いて。私の声に応えて。」


君は誰?


瞬間。


「届いた。」

安堵した少女の声が響き、目の前が真っ白になった。



運命の扉が開いた瞬間だった。




近いうちに第1話を投稿します。

感想など気軽にコメントいただければ嬉しいです。

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