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晩飯中

 夕方、再びこの子の飯のために南側の牧場で食事をとらせている。

 逃げ惑う牛たちをあっさりと捕まえ、捕食していく。

 キュイはドラバカと一緒に帰ったが精霊たちは相変わらずドラゴンの近くを飛び回っている。


 そんな光景を見ながら俺も飯を食っている。

 本当はダメなんだろうが胃袋に収めちまえばこっちのもんだ。


「また簡易食糧かよ。王都に居る時ぐらい普通に飯食えよ」


 そう声を掛けたのはマダスだ。

 隣に座ってシルフィにクッキーを与えている。

 ちなみに携帯食料とはカロリーメ〇トみたいな感じの物である。

 これ1本でカロリーだけなら十分にとれる。味はそんなよくないけど。


「確かにな~。でもこの生活が終わるまでだ、しかも明日まで」

「親に帰すんだもんな。寂しいな」

「仕方ない、親元が一番安全で落ち着くだろ。それはどんな生物でも同じだと信じたい」


 きっと群れ総出で来たという事はそれだけ愛されているという事なんだろう。

 ドラゴンは家族愛が強い様だ。


「まぁな。だがどうする、明日迎えに来たとしてその時までにあの子の状態が全快にまで回復しているとは限らないだろ」

「回復させるんだよ。俺の『救世主』にオーラを分ける作業、糞も下痢気味とかじゃなかったし恐らく時間ギリギリって所だろうな。こちらの予想通りに来てくれていれば」


 予想通りと言うのは明日の昼にドラゴンの群れが現れる事。

 国の方も図鑑から得た情報から対策を練っているという話だし、それに一般人のほとんどは既にいざと言う時のために避難を開始している。


 例の国が潰れた情報が入るのが遅かったので急遽という事もあり、かなり忙しい避難となったが半分ぐらいは避難したらしい。

 残りの半分と1部はこの国を守る者と、単に避難したくないと言う者だけだ。


「にしてもよく逃げないよな。騎士とか魔物使いの防衛班」

「バカな事言うなよ。こういう事態のためにわざわざ税金から給料が出されてるんだぞ、働いてもらわないと困る」

「それでも1部避難誘導という安全地に逃げた連中もそれなりに居るみたいだけどな」


 ぼんやりとドラゴンを見ながら皮肉交じりに言ってみる。

 まぁベテランのほとんどは王都ここに留まり、ペーペーの新人君たちが避難誘導しているって話だけどな。


「……それも仕事だ。仕方ない」

「マダスは逃げないのか?シルフィを危険な目に合わせたくないんだろ?」

「そうなんだがお前を放っといて逃げるわけにはいかないだろ。それにシルフィも見届けたいって言ってたからな」

「そうなのか?」


 マダスの肩でクッキーをサクサク食べていたシルフィに聞いてみると。


「当たり前でしょ。あの子もまだまだ子供だったし、ちゃんと親に帰してあげたいって気持ちは一緒なんだからね」

「助かるよシルフィ」

「戦闘とかは苦手だけどね。あまり期待しないでよ?」

「戦闘はどっちにしろマダスがダメだっていうだろ。それより例のドラゴンたちは」


 シルフィは風属性の精霊、とても音に敏感だ。

 風も音も空気の振動によって起こる現象らしいし、そう考えると納得の特性だ。

 その恩恵のせいかマダスは耳が良い。


「う~ん、予定より早く来るかも」

「具体的には」

「早朝ぐらいじゃないかな?」

「…………なら間に合うかも知れねぇな」


 体調と言う部分だけを見れば早朝でも問題ないかも知れない。しかし朝の腹ペコの状態で空を飛ばせるのは不安がある。

 かと言ってさらに早い時間に起こして無理矢理飯を食わせるのもな……


「本当に間に合うのか?昼頃に体調がよくなるように調整してたんだろ」

「正確に言うと間に合わせるって言った方が正しいな。昼ってのは飯を食わせた後落ち着かせるためってのもあるし、本当に時間がない時は小屋の前で休ませる。一応無事であるところを見せればいきなり攻撃されるって事はないだろ」


 と言っても本当にこれはあの子を飛び出たせる事が出来ない場合のみの話だ。人間が居たらあの子の親も安心出来ないだろうし、騎士や魔物使いの誰かがパニックを起こす可能性だってある。

 パニックが起きないようにベテランを中心に編成したんだろうが、全員ベテランという事はないだろう。


 力のある魔物と契約関係にあればベテランでなくても王都に残っている可能性は高いし、重要な戦力となるだろう。

 ま、本当に戦う様な事にならないよう頑張って入るんだけどな。国もドラゴンの群れと一戦とはいきたくない様だし。


「その予想あたるのか?子供を連れて行った瞬間この国が火の海になる様な事は」

「……そこまでは流石に……そうならない様に今あの子を元気にする事で敵意はありませんって言いたい訳だからさ」


 その辺はあの子頼みだ。あの子が俺たちを良い奴と言って攻撃されない様に今頑張ってる最中な訳だからこうしている訳だし、その辺はあの子にどのぐらい信用されたかが重要だ。


 俺たちの心配をよそにあの子は牛を追いかけて捕食する。普段はどんなもの食ってたんだろうな……

 赤のドラゴンフルーツはよくあるだろうけど、肉とかの動物性たんぱく質に関してはいまだ不明だからな……何食って生きてるんだろう。


 そう少し考えているとあの子が俺の方に帰ってきた。

 帰って来てじっと木箱の方を見る。


「デザートの時間か。今やるからちょっと待ってな」


 木箱を開けてドラゴンフルーツを取り出す。

 この子は口を開けて待っているのでちょっと笑いながら2、3個口の中に放り込むと閉じて咀嚼する。

 また口を開けるのでそこにまたドラゴンフルーツを放り込む。


「……なんか親子みてえ」

「親子?俺とこの子がか?」

「あぁ。何だかほっこりするというか、信頼し合っているというか」


 他人から見るとそう見えるんだろうかと少し不思議に思う。

 この子はそんなに気にした様子もなく普通に口を開けてドラゴンフルーツを待っている。


 確かにサイズはだいぶ違うだろうけど口を開けてエサを待つ姿は雛と同じように見えるのかもしれない。そうなると俺は親鳥の立場なのか?

 そこまで深く考えた事はない。


 木箱の中にあるドラゴンフルーツを全て食べ終えると口の周りがべたべただ。俺は昨日と同じ布でこの子の口を拭いてあげる。

 そうするとこの子は小屋に居た時のように俺を中心にして小さく丸くなる。


「おいおい、寝るなら小屋で寝るぞ」


 鼻先を撫でながら言うがこの子は起きようとしない。どうしたもんかな……


「俺もそっちに行って大丈夫か?」

「多分この子もうおねむだ。どうにか小屋に移動できないか?」

「俺たちだけでか?無理だろ」


 だよな。

 どうにか起こして自力で帰ってもらうってのが一番なんだが……言う事聞いてくれるかな……

 せめてもうちょい担げるぐらいに小さければ俺が運ぶって手もあったんだが……このサイズじゃ無理。どうすっかな?


 そう思っていると突然目を覚まして首をあげた。


「どうした?」

「おいおい!マジかよ!」

「マスター!!ちょっとヤバいよ!」

「え、何が?」


 突然マダスとシルフィが慌てだす。


「俺にも分かる様に言ってくれよ」

「まだ聞こえないのか!?もう来やがった!!」


 何が来たと言おうとする前にドラゴンが咆哮を上げた。

 以前のような怒りのような感情は感じない。むしろ何かに伝えようとしている様な。


「まさか、来たのか。ドラゴンの群れが!!」

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