治療中
ぱっと見、何もしていない様に見える仕事は不興を買いやすい。
俺に目に前に居る奴はどうやら何の仕事もせず、ゴロゴロしている様に見えるらしい。
「……何をしているんです」
「見ての通りだ」
「ドラゴンに寄り掛かって寝ている様にしか見えませんが」
目の前にいるのはドラバカだ。
何しに来たんだろう?
「なんか進展あったか?」
「明日の正午にはドラゴンの群れが到着するそうです。あなたの考えではあまりにも遅いのでは?」
「明日か明後日って言ったろ?なら出来るだけ明日には健康な状態にできる様に頑張ってる所だ」
「……ですから寝ている様にしか見えませんが?」
「オーラを分けてるんだよ。そのぐらい察しろ」
こいつとは昔から気が合わない。
真面目で誠実、そして努力家と絵にかいたような優等生だと俺も思う。
でもそれが俺に対する気に入らない所だった。
俺は教科書などは最低限読むだけだったり、よく分からない病気などで教科書を引っ張り出してきた時だけ読んでいた。
あとは実際に魔物と触れ合ったり、スキルで癒したりと教科書より直接魔物を通して病気や怪我などの状態を調べてきた。
そう言う時いつもあいつは「教科書を読んでいればすぐ対処できる」「いい加減予習しろ。知ってればもっと早く対処できる」などなど多くの小言をもらった。
けれど俺は適当に聞き流しゴーイングマイウェイ。我が道を突っ切った。
俺の中ではドラバカと俺とのやり方はまるで違う。
教科書で学んだことを実践するドラバカ、経験から学ぶ俺。
確かに俺も確認だったり、図書館で見た事ない種を図鑑で学んだりとしてはいるが基本的に俺は経験から治療や育て方を考えている。
なのにこいつは俺を敵視する。
いい言い方で言えばライバル視してると言っていいと思う。
学生時代ではよくテストの点数で戦った事もある。特級の資格を取る時もどっちが先に取れるか勝負した事もある。
だから俺には分からない。
何でこいつが俺に突っ掛かるのか。
俺は平民でドラバカは王女様だ。家族との仲も悪くないと聞くし普通なら俺なんて歯牙にもかけない存在のはずだ。なのに敵視する。
それともこれは俺が意識し過ぎているだけなんだろうか?
卒業後は互いに仕事やらで忙しいし、こうして顔を合わせるのも大分久しぶりだ。
いっその事今聞いてみるか。
「なぁちょっと聞いてみていいか?」
「何です?」
「その前にいい加減その言い方止めてくれ。なんか違和感が半端ない」
「……これでも王女だから素で話したくないんだけど?」
「もう話してるじゃねぇか」
軽く笑いながら言うとドラバカは一つため息を付いた。
「それで何?国としてはあなたの提案に出来れば乗りたいところだから強硬手段には出ないわよ」
「そういう話の詰め合いじゃなくてさ、何で学生時代によく俺に突っ掛かって来たんだ?テストとかじゃいつもお前の方が上だったじゃん」
「……テストだけ、だけどね」
「なんか含みのある言い方だな」
「そうじゃないの実際に!!今だって大きな差を見せつけられてるのよ!」
差?一体何を見せつけてるってんだ?
「バカにも分かる様に言ってくれ」
「そうやってドラゴンや精霊に囲まれてるくせに!!しかも私のキュイまであなたの所に……」
キュイはドラバカと一緒にこの小屋に入ってから俺の頭に移動していた。多分俺がドラゴンにオーラを分けているからそのおこぼれにあずかっているんだろう。
フェアリードラゴンも自然に強く影響されるらしいし、そこはこの子と同じか。
「あ~そういやお前も俺と似たところあったな。ドラゴンにモテたいんだっけ?」
「……そうよ。昔からの憧れの魔物だったし、今だってそう。なのにあなたはそうやってすぐ色んな魔物に囲まれて……」
あ~つまりあれか?
同族嫌悪的な奴なのか?それとも嫉妬の対象?
「私だって色んなドラゴン達に囲まれたいのに全部あなたに取られちゃうんだもん。悔しいに決まってるでしょ!!」
「もんって。そんな可愛い言い方できたのか」
「そんな細かい所に突っ込まなくていいの!!どうでもいい所に昔から突っ掛かって来るわよね」
腕を組んで怒るこいつにちょっとだけ落ち着いた。
王女として話していたから違和感がすごかったし、この方がドラバカらしい。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「大した事ない。何なら触ってみるか?この子に」
寄り掛かっているこの子に触りながら言うとすごい勢いで食い付いた。
「本当に!!でも前はストレスになるって」
「あ~あれはごめん。言い過ぎた。この子のストレスの元はあのクズ魔物使いたちだけだった」
片手をあげながら言うと分かりやすく怒る。
具体的に言うと顔を赤くして頬を膨らませている。
「もっと早く教えなさいよ」
「わりぃわりぃ、でもいいのか?今ドレスじゃん。干し草とかで汚れるぞ」
「構わないわ。王女でもあるけど魔物使いでもあるんだから」
そう言って檻の扉を開けてこの子を驚かさないためか、そっと入る。
マジでドレス気にせず入ってきたよこいつ。
早速この子に触ろうとするが俺がちょっと止める。
「はいストップ。手は上からじゃなくて下からそっと差し出す様にしろ」
「ちょ!何であんたが私の手触ってんの!?」
「だって仕方ないじゃん。触んなきゃ止めらんないし」
普通に言うと俺の手を激しく振り払う。
そんなに嫌わなくても。
「何で上から撫でようとするのがダメなのよ。キュイは嫌がらないわよ」
「それは慣れてるからだ。ろくに知らない相手が腕を振りかざしてみろ、絶対ビビるから」
そういうと納得したのか言われた通りに手を下からそっと差し出す。
そうするとドラゴンは軽く匂いを嗅いだ後ドラバカの手を舐めた。
「大丈夫そうだな」
「抱き付いても問題ない?」
「多分な」
再び腹の方で寄り掛かる。
ぼんやりと天井を見ているとドラバカから声が掛けられた。
「ねぇ。あなたは何で魔物と契約しないの」
「突然だな」
「だって普通魔物使いだったら懐いたドラゴン相手には必ず契約するものよ?なのにあなたは一向にしようとしない。学生の頃から」
「俺にだって考えはあるんだよ」
「例えば?」
俺は指を1本1本数えるようにしながら答える。
「理由その1、単にそいつらに食わせる金がない。駆け出し研究者だしな。理由その2、前から言っているように俺は自然の中で生きる魔物たちが好きなんだ。だから俺から契約するつもりはない。理由その3、あまり強力過ぎる魔物と一緒に居ると弱い魔物に警戒されてろくに研究できない。確かに強力な魔物と契約できればそれだけ大きな見返りがあるが、だからって今の俺には大したメリットはない。そんなステータスだか何だか知らねぇがそんな理由で契約したくはねぇよ」
「……意外と色々考えてたのね」
本当にさらっと失礼な事言う奴だ。
これらの理由がある訳だが食い扶ちに関してはどうにか出来ない訳ではない。元々フィールドワークメインな俺だから出来る事だが別に魔物が魔物を食うのは普通の事だ。
つまり外で狩って食わせるという事だ。
あまりできないし人に飼われている魔物は狩りをしない。普通に買った飯を調理して魔物に食わせる。どれだけ特訓で強くなったとか言っていても野生の魔物の方が強い事が多いのはそういう背景もあったりする。
体調管理や筋力強化用の飯を食わせていようが何だろうが野生の生きるという本能には飼われた魔物には勝てない。
「食い扶ちすら用意出来ないんだ。それなのに契約したところでそいつが不幸になるだけだ」
「でもこの子はそんな事関係なさそうだけどね」
「何で?」
「女の勘って奴よ。あなたみたいないい人ならきっと問題ないでしょ」
「…………自信ないな~」
そういうとドラバカは笑うのだった。