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女の決闘

 魔物使い同士の決闘。それは手っ取り早く言うとポ〇モンバトル的な物である。的と言う理由は完全にそうではないからだ。

 ほとんどの魔物使いはお互いのパートナー1体を選び、戦わせて勝敗を付ける。

 だが戦闘系ではない魔物を使役している場合、魔物使いが前に出る事があるのだ。

 と言ってもこれは本当に稀な状況であり、滅多に現れないのだが……ドラバカ本気の戦闘がこの魔物使いが前に出るタイプなのである。


 キュイ、フェアリードラゴンは決して弱くはないが、他のドラゴンに比べると支援系が多いのが特徴である。そして全属性を使いこなす器用貧乏の面も持っている。

 ドラバカはキュイに支援を受けながら直接体術を使って戦うタイプなのである。


 そして俺は今まで魔物と契約ティムしていなかったので当然決闘は初めてだ。

 俺自身ただの人間が相手ならある程度は戦えるが……相手はキュイに全力で付与をされた状態であり、俺を超えている。身体強化と言っても所詮は人間の範囲内、魔物を相手にするのとそう分からない。

 つまり俺の場合はルビーに指示を出して戦わせるオーソドックスな戦い方となる。


 ドラバカとルビーはお互いに準備運動をしながら決闘の時を待つ。

 場所はルビーがある程度暴れても問題のない広さを持つ牧場、グローク牧場での一戦となった。

 もちろん周囲への被害を抑えるため、ドラバカの姉達のパートナーであるラファエルさん達が全力で防御結界を張ってくれるので戦えると言う面もあるのだが。

 俺はそっとルビーに聞く。


「ルビー。ドラバカを殺さずに倒す事って可能なのか?」

「可能だよマスター。ただの人間の状態ならともかく、キュイの支援を受けた状態なら遠慮なく殴っても大丈夫だろうから。それに殺すとなると別な問題も出てくるし、それに殺したいほどに憎んでいる訳でもないから大丈夫だよ

「そうか。にしても諦め悪いよな、ドラバカ」


 昔見た学校指定の戦闘服に似た服を着て準備体操をするドラバカ。

 戦闘服とは魔物からの支援を十分に受け取る事が出来るように設計された服であり、戦闘の邪魔にならない様に身体全体のラインが出てしまうぴったりスーツだ。

 そのせいか体型に自信のない生徒達から、もうちょっと体型を隠せるものはないかとひと悶着あったらしい。

 実際今ドラバカが着ているスーツは全身を締め上げる様にぴったりとくっ付いているので、ドラバカのスタイルの良さが浮き彫りになっている。

 男は下心をあらわにし、女はスタイルの良さに憧れを抱く。


 それに比べるとルビーの服装はいつも通りだ。普段通りの学生服。

 見た目だけだとルビーは真面目に望んでいない様に見えるが、普段から自身の鱗を変化させた物なのだから格好なんて意味をなさない。

 むしろいつも通りであるからこそ最高のパフォーマンスで行なえると言っていいのかも知れない。

 よく知られたこの国で最も有名な学生服だと言うのに、ルビーが着ていると言うだけで服の価値が何倍にも上がっている様に見えるのだから不思議だ。


「仕方ないんじゃない。それにその方が私は普通だと思う」

「普通?」

「そう普通。私たちドラゴンは何で一夫一妻制なのか知ってる?」

「え?そう言えば……詳しく解明されていないな」

「答えは簡単。雌の独占欲だよ」


 ある程度身体をほぐし終えたのか、俺を真正面から見ながら言う。


「私達ドラゴンは知っている通り宝物に目がない。それは好きな異性でも同じ。好きな異性を宝物として見てその宝物を誰かに奪われなるものか、という感じで独占するの。だから浮気には厳しいし、ほとんどのドラゴンは一夫一妻なの」


 そういう感じだったのか。

 と言うかただの独占欲って……いや、ヤンデレっぽい所があるから要注意情報だな。

 そしてルビーは続ける。


「だから1体の雄を巡っての決闘はよくある事。特に魅力的な雄にはね」

「そんな風に言われてとても光栄です」

「だから力で示すの。私の方が彼に相応しい、いいえ私の方が相応しいってね。それにアリアは私がマスターの事を好きになる前に好きになってた。譲れないのは分かるから全力でやる」

「……やり過ぎるなよ」

「大丈夫。拳で語り合うだけだから指示はいらないよ。女同士の決闘たたかいだからね」


 ちょっとルビーさん?カッコ良過ぎません?

 なんだか男らしさの方が強く出ている様な気がするルビーに向かい合うように立つのがドラバカ。キュイはドラバカの肩に乗り、いつもの位置にいる。

 俺はルビーの後ろに立って見届けるだけに過ぎない。


 両者の間にはすでに国王が見届け人として立ち会っている。

 国王が決闘開始の合図を出す前に、ルビーは振り返って俺に言う。


「あ、言い忘れてたけど魔力供給も回復のオーラも要らないから」

「え?要らないの?マジで」

「うん。これは女同士の問題だからマスターはただ見守ってて」


 正直言って俺は不満だったのだが、強い意志のこもった目線のせいで否とは言えなかった。

 ドラバカはルビーを睨みつけながら言う。


「それって手を抜いてるって事。もしそうなら甘く見ない方が良いわよ」

「そんなつもりはないに決まってるでしょ。これはマスターをかけた戦い。それなら私1人でやるのが筋でしょ、マスターは見届けてさえくれればいい」

「そう。でも私は容赦なくキュイの力を使わせてもらうわよ」

「ええ。それがアイリアの全力ならそれでいい」


 もう既に女同士の力がぶつかり合っている。

 ルビーのオーラとドラバカのオーラがぶつかり合い、すでにバチバチと本当に火花が散っている。

 オーラ同士がぶつかり合うとこのような現象が起こるのだ。


「それではルビーとアイリア・ドラグ・ノートの決闘を始める!」


 2人共ただ拳を握り締めた。


「始め!!」


 国王がそう叫んだが、2人とも動きはゆっくりだ。

 しかし感じるのは嵐の前の静けさの様な言い難い不安と恐怖。2人とも拳1つ分開いた距離まで近付くとそこで1度立ち止まり、さらに睨み合う。


 先に手を出したのはドラバカだ。

 キュイの魔法による身体能力の向上、ルビーが苦手とする水系の付与、さらに拳を速く繰り出すためか風の魔法も使っている。

 その状態でドラバカはルビーの顔を殴った。


 鈍い音が響く。どうして鈍い音なのかと言うとグーで殴ったからだ。パーではない、グーだ。

 ルビーは守る事をせずただ殴られ、お返しとばかりにオーラを拳に集中させた拳で殴り返す。

 そして気が付いた。ドラバカはいきなり本気だと。

 それは何らかの動作があった訳ではない。ただルビーの拳が当たった瞬間に判明しただけだ。


 現在のドラバカには四元素全ての付与が行われている。

 ルビーの弱点である水で拳を覆い、風でより速くする。それだけではなく拳を含めた全身に小規模の結界を張る事で身を守り、火の魔法で筋肉の状態を適温に保ち続けている。

 つまり火の魔法で本来スポーツ選手が入念に行うウォーミングアップを火の魔法で肉体を最高の状態にしていたと言う事だ。


 これらだけを見ればすでにいくつもの準備をしていたドラバカの方が軍配が上がりそうだが……ルビーも負けてはいない。

 第一そこまでの準備をしていないと同じ土俵には上がれないのが現状なのだ。

 ルビーの本来の姿はドラゴン。しかも超希少種であるエレメンタルフレイムドラゴンだ。生まれた時から鉄よりも堅い鱗に包まれ、防御に関しては結界を使う必要がない。

 しかも得意な魔法は炎、元々攻撃力に特化したドラゴンだ。


 しかも2人の拳は全て顔面に浴びせ、鈍い音と地鳴りのような音が響き渡る。

 殴った事により衝撃波が出てそれだけで結界が震える。と言うかひびが入ってる。

 ひびが入る度にラファエルさん達が修復しているが、これがいつまでも続くかと思うと恐ろしくて仕方がない。

 でも俺は2人から目を離さない。

 これは俺が見届けないといけない事だから。俺が原因なのだから見届けなければならない。

 ちゃんと断ったつもりだけど。


 お互いに顔面パンチだけの決闘で先にぶっ飛んだのはドラバカだ。

 ルビーの拳でぶっ飛び、結界に激しい音と衝撃波が結界の中で駆け巡り暴れ狂う。


 結界のおかげか肉体的ダメージはなさそうだが、それでもキュイはもう既にダウン。ドラバカはキュイに魔力を渡し過ぎてグロッキー状態だ。

 四つん這いに倒れた後、立とうとするが想像以上に足にきているのか中々立ち上がれない。何度も立とうとするがまたすぐに倒れてしまう。


「…………これで終わり、それならマスターは貰っていく」

「まだ……諦めてない」

「でももう立てないでしょ。私の勝ち」

「奪われて、たまるか!私は、ずっとマスターの事が好きだった。諦められるなら、とっくに諦めてる!!」


 そう言って震える足で立ち上がりながら、もうキュイの支援なしでルビーに立ち向かう。


「何度も好きだって遠回しに伝えて、ただの友達としか向けられなくて、悔しくて。色々アピールしたけど、王族が面倒臭いって言われ、初めて王族じゃなければって思った」


 胸の内を吐き出しながらドラバカはルビーに向かってフラフラの足で歩く。


「家族は何も悪くない。お父様も、お母様も、お姉さま達も何も悪くない。でも、初めて王族である事を悔やんだ。ただのドラゴン使いだったらもっと早く、付き合えたのかなって何度も想像した。卒業後は中々会えなくなるし。会ってもちょっとしか話もできなくて、もっと話したいと思って好き勝手にフィールドワークに行くし。諦めたら楽になるって分かってても、諦めきれなかった……」


 再びルビーの前に、拳を握って対面する。

 そして気合いを入れる様に言葉を発し続ける。


「私は、マスターが好き。諦めきれないし、急に出てきたあなたに負けたくない!奪われたくない!だからここで私は!ルビーからマスターを奪う!!」


 そう言った後、ただの拳でルビーを殴った。

 今までで最弱の攻撃。ただの人間の拳はルビーの顔面を捕らえたが、倒れる事はない。

 ルビーは最後にドラバカの額に向かって指を構える。いわゆるデコピンのをする様に構えた。


「いい心だよ。素直で真っ直ぐな拳。でも私だってマスターを取られたくないんだよ。だから――」


 ルビーのデコピンがドラバカにあたった。

 するとドラバカは気を失い、ルビーに支えられる。


「――私も負けられないの」


 完全に気を失ったドラバカに立会人である国王が宣言した。


「それまで!勝者、ルビー!!」


 歓声はない。拍手もない。これはただの原始的な喧嘩。1人の雄を巡って行われただけの喧嘩。

 俺はルビーとドラバカ、キュイを治療した後、城に通されたのだった。

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