最後の戦い
腹ごしらえも終わり、まだ決着をつけていないガンつけ勝負が終わったのはすでに夕方となっていた。
各種族のボスが俺と睨み合いを付けたのだが、中にはなかなか折れない連中もいたのでどうしても時間がかかったのである。
まぁすぐに尻尾を巻いて逃げた魔物達も居たけど。
なんにせよボスだけでも1対1の状況にどうしてもなるので時間がかかるのなんの。
体力よりも気力的な部分で疲れた。
もうやだ~。ルビーに甘えて今日は終わりにした~い。
「よしよし。もうすぐお城につくからね~」
わざとらしく弱った姿をルビーに見えると甘やかしてくれた。
あ、ちょっと包容力あって癖になりそう。胸も大きいから柔らかいし……
「ちきしょう……あんな風にイチャイチャしやがって!!」
「俺達の『魔物と本気で恋愛同盟』で唯一の成功者っ!」
「ユカリ~やっぱ俺じゃダメかな?」
あ、ガルが怒ってた部分ってそこだったんだ。すっかり忘れてた。
俺とガル、そして1部の変態達で作った同好会。それが『魔物と本気で恋愛同盟』だ。
まぁ~簡単に言うと、魔物が好き過ぎて恋愛感情に発展しまった変体共の巣窟である。
ガルの場合は当然ユカリの事を指すし、他のメンバーたちも自分のパートナーの事を嫁と言ったり、彼女と言っている。
しかし世の中は残酷だ。
人間と交配出来る魔物はそう多くない。最低でも同じ人型種でないといけないし、魔物達は当然優れた種族と交配し、強い子孫を残そうとする。
一応理論上できてもおかしくないんじゃない?と言われるのが天使族や悪魔族と言った限りなく人型に近い魔物達の事を指すが、当然彼らの種族にも雄と雌に分かれている訳で、普通にどう種族間で子供を作る。
と言うか交配できる存在にしか性的な物を感じる事が出来ないのはむしろ普通だ。異常なのは交配できないと分かっておりながら性的な物を覚える変態達である。
ルビーが大丈夫的な事言ってた訳だけど。
そしてぞろぞろと旧友たちと一緒に最後の試練、0000が待ち構えている。
待ち構えている人数は10人。え?9人じゃないのかって?
その理由は大ボスであるナンバー0、つまり国王が待ち構えているからだ。しかも国宝である鎧とか剣と全部持ち出しての完全装備である。
さらにドラバカの母親と姉達も全員集合し、ドラバカが幼いころから世話になっていたと言う身内メンバーばかり。しかも全員魔物使いとしてはトップクラスの実力者たちばかりだ。
流石のこれには旧友たちも驚いている。
「よくぞここまで参ったな。マスターよ」
「あ~うん。なんで国王が居んの?今まで居なかったのに」
「少々事情があってな……これが最終通告か。アエリアと結婚しろ。これは王命だ」
「マジでどんな王命だよ……」
あれだけ結婚させまいとしていた人がここまで変わるって一体何があった?
ついこの間まで一緒に居るのが気に入らないと言っていた人と同一人物だよな?ドッペルゲンガーとなり替わってたりしない?
「王様!それ正気ですか!?ずっと前から否定してましたよね?結婚する気ないと言った時は喜んでましたよね?」
「それは……今もそうなのだが、皇帝からの誘いが本当にしつこいのだ……」
「それって成金ドラバカ?」
そう言うと国王は苦笑いをしながら肯定する。
「奴をその様に言えるのは貴様ぐらいだろうな。あ奴は傲慢ではあるが確かな実力がある分かなり厄介なのだ。頭もキレる、容姿もよい、血筋も問題ない。だが、これは国王としてではなく、1人の父として娘には幸せになってもらいたいのだ。そのために様々な所から相手を集めた、娘に気があると言う男達を全員調べ、娘が結婚しても構わない相手を探し続けた。だが……皇帝の力で他の者達は対抗できん。後はもう、貴様しかいないのだよ」
ドラバカのため、か。
父親として国王は確かにいい人なんだろうよ。国王としてこの国のために頑張ってきたのも確かなんだろうよ。
でもそれは――
「悪いが何度だって断る。俺は王族何て言う立場にはなりたくないし、責任だって取れない。確かに俺の魔物使いとしての技術や知識は価値のあるものかも知れない。でもそれだけで王族は務まらないだろ?経済だの、他国との交渉だの、俺には無理だ。出来ない事を出来る様になるよりも、今好きな事を仕事に出来ている今の方が断然いい。それに国王の命令で結婚なんてしてたまるか」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ。それに俺は肝心な相手から何も聞いてない」
「なに?」
どう言う事だと聞く国王に俺は素直に言う。
「俺は直接ドラバカから告白された事はない」
そう言うと周りの旧友たちはあっと言った。
確かにドラバカが俺に異性として好意を示している事は前から知っていた。でも示しているだけで告白してきた事など1度もない。
真正面から告白してきた訳でもない相手と結婚って正直する気がない。
それでもまぁ王族の仲間入りはしたくないのも本音だが。
「ドラバカの恋を成就させようとしているのは親として間違っていないのかも知れないけど、俺は直接告白されたわけでもない相手と結婚なんてしたくない。好意を持っているのは目に見えてるから結婚してやれ?は、それじゃ野良猫はどうなんだよ。あいつは実力でマダスを恋人にしたんだぞ。マダスに真正面から告白して一緒になれる様に頑張ったあいつがバカらしく見える。それぐらいドラバカの親友って女は1人の男を手に入れるために努力したんだぞ」
「…………」
「それに比べてドラバカは告白する勇気がありません?王族のプライド?下らない。俺は欲しい物を全力で手に入れようとしている奴がとても魅力的に見える。だから俺は正面から好きだと言って、一緒に居たいと言うルビーに惹かれた。俺がルビーを選んだ最大の理由はそこだ」
「……マスター」
ルビーは嬉しそうに言う。
過保護な家族はアイコンタクトでどうするか相談している様に見える。
それに一応言っておくと、この国は一夫一妻制である。だが、魔物との婚姻は含まれない。
つまり人間同士であれば1人につき1人までだが、仮に人型の魔物でハーレム築いても何の問題もないと言う事だ。
と言っても本気で人間と魔物が結婚する事態が非常に少ないし、契約があるので婚姻ではなくてもいいのではないかと言う点もあるのだが。
「ごめん。通して」
そう言って家族の後ろから現れたのはドラバカだ。その後ろには野良猫とマダスがいてまるでセコンドの様だ。
ドラバカの登場に、俺の前に並んだご家族は道を譲る。
そしてドラバカは俺の前で止まり、震えながら言う。
「マスター……私がここで告白したら結婚してくれる?」
「したくねぇってずっと言ってんだろ。俺は王族になりたくない。理由はずっと前から知ってるな」
「ええ。王族になったら自由に魔物の観察に行けない、自由に好きな場所に行って魔物達と出会う事が出来ない。だったよね」
「ああ。王族って権力には必ず自由が奪われる。俺はごめんだ。俺は初めて夢中になれるものを見付けて、しかもそれを職業として成立する事が出来た。これ以上の幸福はない。これ以上充実した生活はない。だから俺は今まで通り自由でいたい」
学生時代からよく言った言葉。
転生して、本当に魔物と言う不思議な生物と触れ合えて、職業にも出来て、本当に幸福だ。
前世では夢らしい夢はなく、ただ淡々と作業をこなすだけで未来に対する楽しみなど一切なかった。
でも今は違う。
前世では得られなかった親友と言う者に出会い、考えの違いでライバルと言えなくもない奴にも出会った。
初めて見る生物を触れる事が出来た、伝説の中、空想でしかないはずの生物と触れ合えた。
恋人が出来た。
前世と今世じゃ大違い。
充実してる。俺の心は空っぽではない。楽しい事や嬉しい事で満ち溢れている。
想像の世界で現実から目を逸らすのではなく、現実の中から楽し事を見付ける事が出来ている。
だから俺はこのままがいい。
このままでいたい。
「でも、マスターは意志の強い女の子に弱いよね」
「まぁ……確かに。ルビーも押しかけ女房って感じだしな」
「マスター!?」
ルビー……驚いているところ悪いがこればっかりは事実だぞ。
肯定するとドラバカは笑ってから覚悟を決めた様な表情になった。
「それじゃまず……マスター。私、アイリア・ドラグ・ノートはマスターの事が好きです」
俺はドラバカから告白された。
そしてドラバカは続ける。
「最初の頃は品がないし、教科書も読まないし、魔物に突っ込んでいくばかりだと思ってたけど。あなたは魔物の事にとても真剣で、いつも魔物達を怯えさえない様に優し気に微笑んでた。私は……その微笑みを私にも向けて欲しい。ルビーちゃんだけじゃなくて私にも、その微笑みを向けて欲しい。友達に見せる笑った顔も好きだけど、あなたの特別になりたいです。結婚を前提に、お付き合いしてください。お願いします」
そう言って頭を下げた。
俺はそれに対してきちんと誠意を込めて、断る。
「ありがとうなドラバカ。でも……俺はやっぱりルビーを選ぶ。今俺が1番好きなのはやっぱりルビーだし、一度に複数の女性と付き合うような根性はない。それは……不誠実だと思う。だからごめん」
そうきちんと断った。
これで俺とドラバカの微妙な関係は終わり。
そう思っていた。
「うん。そう言うと思ってた」
「……悪いな」
「謝らないでよ。これから決闘を申し込むんだから」
「………………は?」
「マスターとルビーちゃんに決闘を申し込みます。勝ったら結婚して」
「は、はあ!?」
いきなりの話に俺は驚く。
と言うか本当に驚いた。これで終わりじゃないの!?
「ルビーちゃん。私、やっぱり諦めきれない。私はルビーちゃんよりもずっと前にマスターに恋をして、ずっと好きって感情を持ち続けて来た。だからこれは、ルビーちゃんでも譲れない」
「いいんだね?ドラゴン相手に真正面から決闘を申し込んだね。もう取り消せないよ」
「取り消す?そんな事をしたらマスターを手に入れる事が出来ない。むしろ逃げないでよ」
「マスター。この女、本当にいい性格してるよ。滾ってきた」
ルビーの闘争心に火が付いた!?と言うか何でこんな事になった!?
キュイは……ドラバカの助けをする気満々だ。
ご家族に助けて目線を送ると、国王が頷いた。
「これより!アイリア・ドラグ・ノートと、マスターの決闘を承認する!!」
そんな気ないんだけど!?
こうしてこの日最後の戦いは、ご家族ではなくドラバカ本人との決闘になってしまったのだった。




