癖の強い旧友たち
癖の強い魔物使い達の攻撃はまだまだ続く。
ハウンドたちよりも厄介で上位個体、ガルムと言う魔物の狩猟犬の中で最も凶暴と言われる奴が今回参戦していたからである。
そして最も謎な部分はあいつファンクラブメンバーじゃなかったよな?
むしろ俺と同類だったはずだ!
「何でお前らが居るんだよ!ファンクラブメンバーじゃないくせに!!」
「うっせー!!先に結婚までこぎつけやがって!このハーレム野郎!!」
「ハーレムは成金ドラバカだろ!と言うか俺のどこがハーレムなんだよ!」
彼が契約しているのはガルム軍団のボスであるユカリのみである。ちなみに命名は俺、漢字で読むと紫。
ガルムの群れの中で彼のすぐ隣にいる3メートル程の巨大な紫色の毛をした犬。さらにその隣には一回り小さなガルムが俺を警戒しながら待機している。
と言うか前会った時はここまでの数じゃなかったはずだ。契約しているのは相変わらず彼の相棒であるガルム1体だけの様だし、まさか……
「いつだってハーレムに出来る構成だろうが!!アイリアさんの姉妹とか!さっき戦った後輩とか!!」
「俺はそんなつもりで付き合った覚えはない!やましい気持ちを持ってあいつらと付き合えるわけないだろ!と言うかお前このガルムの数、どうやって用意した!!」
「野生のガルムのボスを倒してこの日のためにガルム軍団を築いておいただけだ!!それからうちの子は俺より先に結婚した……」
やりやがったなあの野郎!!
ガルムの習性、と言うかこの世界の犬や狼の魔物はヒエラルキーがとてもハッキリしている。
強者に服従し、その強者が新たな強者に敗れた場合、また新しい強者に従うという習性だ。
詳しい理由までは分からないが、彼らの先祖は元の世界でも有名なフェンリルの子孫説が最も有力で、フェンリルが元々フェンリルを創った神に従順だったのがDNAに刻まれているのではないかと言われている。
そのため一度軍門に下ったガルム達は彼の相棒であるガルムに余程の事がない限り絶対服従なのである。
そしてぴったりと隣に居るのは番の相手だったか。
「ちなみに妊娠してるので今度エネルギーが付く料理作ってくれ。結構お腹の中に子供がいそうなんだ」
「了解。結婚祝いと妊娠祝いに美味いの作ってやる」
ガルム達の猛攻の中、そんな会話が出来ているのは友人と言う関係があるからだろう。
それに長距離からの魔法攻撃はルビーが防いでくれているので、ある程度の余裕があるのも本当だが。
そしてこのガルム達の攻撃を終わらせるには相手のボスを倒さなければならない。
この徹底的なヒエラルキー制度の中で生きている魔物達を一気に制圧する方法の1つである。
そのためには彼の隣にいるガルムを倒さなければならない。まるで1つの巨大生命体の様に襲ってくるガルム達を掻き分けて。
泣き言を言っても仕方がないので俺は身体強化を最大にまで引き上げる。
これやると明日は確実に筋肉痛になるから嫌なんだけどな……背に腹は代えられない。
「ルビー、ついて来いよ」
そっというとルビーは黙ってうなずいた。
やるのは救世主による自己回復能力での一点突破。無理矢理この群れを押しのけるのだから当然傷付くし危険な行為だ。
でも勝つにはそれしかない。
彼の隣にいるガルムはいち早く危険性を察知して臨戦態勢を取る。
押して俺は紫の海を掻き分けながらユカリに向かって行く。当然周囲のガルム達はそれを阻止しようと噛み付いて来るがお構いなしに引きずる。
だが俺は直接魔物を殴ったりするのは正直嫌いだし、これまでの関係性が壊れるのも嫌だ。
なのであくまでもこの身体強化はユカリの所まで行くための手段でしかない。
俺の動きを止めようと、他のガルム達に噛み付かれ過ぎて全身毛皮のコートを着ている様な状態になっている。
正直暑いが勝負を決めるために俺はとにかく進む。
他の噛み付くところがないガルム達には少し怯えの表情がうかがえる。全身噛みつかれているのに歩みを止めない俺に驚いているんだろう。
殴らないけれど喧嘩の仕方は知っている。俺はユカリの前に立ち、ゆかりも俺を真正面に立って立ち向かう。
獣同士の喧嘩の仕方。それは睨み合い。
互いに目線を逸らさずに気迫だけで戦う最もシンプルな喧嘩の付け方。
俺とユカリは直接殴らない代わりに敵意と言うか、殺意と言うか、気迫だけの喧嘩を0距離で行う。
いつの間にか周囲の魔物達は俺達の喧嘩を邪魔しない様に攻撃を止めていた。俺に噛み付いていたガルム達は尻尾を巻いて逃げた。
俺達はただ無言の意思による殴り合いを続ける。
眼を逸らした者が負けという原始的な気迫だけの戦い。
それを邪魔する物は誰もいない。
長い時間睨み合っている様な気がする。何時間も何日も、にらみ合いを続けていたように感じたが、ふとユカリが伏せた。
そして腹を見せて降参のポーズをとる。
やっと終わった……
気が緩んだせいか、ふらついたがすかさずルビーが支えてくれる。
俺はルビーに笑いながら「ありがとう」とだけ言って頬をこすり合わせる。
そしてすでに伏せの状態に戻っていたユカリに言う。
「後で元気な子供産めるように飯作ってやるから、もうちょい待ってろ」
そう言うとユカリは嬉しそうに吠えた。
尻尾も振っているのでどうやら期待している様だ。
そしてユカリのパートナである彼は言う。
「まさかここまで育ったユカリが負けるとはな……」
「直接殴り合う喧嘩だったら勝負になってねぇよ。随分強くなったじゃん」
「まぁ……な。俺としては複雑だけど」
育てた親の心境と言う奴だろうか。彼はユカリを撫でながら複雑そうに、寂しそうに笑う。
そんな喧嘩に負けたユカリの側にはおそらくユカリの夫であるガルムがそっと付き添っている。
魔物達は意外と純愛で、1度結婚した相手と生涯を共にすると言う。ユカリに比べると大分小さく見えるが……こっちの方が普通か。
ユカリが戦闘向きに育ち過ぎただけだろう。
さて……残りはどうした物かと他の魔物達を見ると、そこには整列した魔物達の姿が……
「これってまさか……」
「ガンつけ合いの勝負開始だね、マスター」
気迫だけなのでケガなどをする可能性はこれ以上ないだろうが……長期戦になりそうである。
――
長期戦になったので昼休憩入ります。
そしてこいつ等はこういう戦闘と関係のない時だけはとても友好的だ。
俺とルビーの分も弁当と茶を用意してくれているのとても助かります。普段は1つ前の00辺りだったんだが、ルビーのおかげでだいぶ早く進めている。
ちなみにガンのつけ合い勝負は当然俺の圧勝。全員俺が下したのである。
情けないぞ~お前ら、人間に負けるなんて。
そして俺の隣りには付喪神の使い手である後輩と、ガルムを使っている彼が隣にいる。
ルビーの隣はユカリと付喪神たちだ。何か戦闘による意見交換をしている様に見えるが……また強敵になるのかな?こいつら。
「それにしても先輩。ドラゴンと契約するなんてすごいですね!と言うか何で突然契約を?」
「聞いてなかったのか?あのドラゴン、ルビーちゃんとマスターが結婚するって言うのがこの戦いの切っ掛けだろ」
「それは聞いてますけど……契約しない事が信条かと思っていましたので……」
俺そんな風に思われてたの?まぁ確かに避けては居たけどさ……
「信条と言うか、出来るだけ野生の状態に戻して解放するのが俺の信条だからな。ティムして一生俺が縛り付けるのはなんか違うって思ってたんだよ」
「お前は本当にそれな。あの成金と反りが合わないのもその辺だし」
彼、今さらだが彼の名前はガル。犬、もしくは狼としか契約できない特殊な魔物使いである。
彼は代々犬や狼と契約してきた家系であり、その血が余りに濃すぎるとたまに特定の魔物としか契約できないという、未だ解明できていない血筋の謎が起こるのだ。
後輩もその類ではないかと噂されていた事もある。
「ま~な。お互い実力だけは認めてたし、後は考えの違いだけだからな。これからあの成金ドラバカは駆け上がっていくだろうよ」
「す、すごいですね……成金ってあの皇帝ですよね?この間新聞でドラゴンの人工繁殖に成功させたって」
「その成金ドラバカだ。あいつはあいつで成功してるし、俺は不器用だから進むのが遅いんだよ」
「でもフィールドワークで野生生物の研究成果はピカイチですし!先輩も負けてませんよ!!」
「そうだといいんだけどな……」
フィールドワークをバカにされる事はなくても、何でしてるの?っと言われる事は多い。
実際成金ドラバカは俺の行動に大きな疑問を持っていた。
俺の調理技術で財を成す事も可能、俺の魔物に好かれるという力を使えば気難しい魔物でも安全に治療する事が出来る、それだけの行動力があればどこででも成功する事が出来る……
そんな事をあの成金ドラバカは言っていた。
確かにあいつが他者を評価する事はとても珍しい。
俺の記憶では………………あれ?俺以外に評価している相手っていなくね?最低でも学校では俺以外に対等に扱ってる姿を見た事がない。
さらに言えば俺が進路を考えている時に我の元に来いとまで言っていた。
「…………ま、あいつはあいつで俺の行動を全否定していた訳ではない。本当にただ、ただ見ている物が違っただけだ。多分ゴールに関しては似たようなものだと思うんだが……」
「お前があの成金をそう言うなんて珍しいじゃん。一時期はアイリアさんよりもぶつかってたくせに」
「だから方向性の違いだけだって。俺はあいつを認めてたし、あいつも俺の事を多分認めてた。でなきゃぶつかる事もない」
喧嘩をするのは同レベルの人間同士だけ。
そのレベルは高いのか低いのか分からないが、別にあの成金ドラバカとのぶつかった記憶は悪い物でもない。
ただ道順が違うだけ。
それだけの違いだろう。
さて、でもまずは次の事に集中しますか。
この昼休憩が終われば、またあの城に行くために頑張らなくてはならないのだから。




