今までで最も過激です
観光客向けの区画から普通に城下町の人達が住む場所に到達した瞬間、どこに隠れていたんだと言いたくなる様な魔昆虫達が風魔法で盛大に歓迎してくれる。
本来戦闘向きではない魔昆虫ではあるが、風の魔法をピストルの弾のようにできるだけ攻撃範囲を小さくする代わりに攻撃するスピードが高くなっている。
しかも特に面倒なのがその数!
全方位から1000を超える昆虫の群れが俺にめがけて魔法をぶっぱするのだからたまったもんじゃない。
これは回避するのは無理だなっと思っていたが、ルビーが翼で大きく羽ばたく事で風の弾丸を全て逸らす事に成功したのだ。
「サンキュールビー」
「確かに一気に面倒臭さが増えたね。この虫たちって全員同じ契約者と契約してるの?」
「いや、多分違うな。こいつ等は普段衣類用の糸を吐いてくれる蜘蛛の魔物だ。あえて言うなら生産用だな」
「それでこの面倒臭さって。本当に私たちドラゴンが来てもある程度は戦えるんじゃない?」
「それはどうだろう?元々標的が俺と言う人間な訳だし、ドラゴン相手にするぐらいなら素直に逃げるんじゃないか?どれだけ人間と共存してると言っても本能的な恐怖には負けるだろうし」
「でもこの子達、どさくさに紛れて私にも糸を吐き出したりしてるんだけど……」
え、マジで?と思って見てみると、確かにルビーにも糸を吐いて足を止めようとする蜘蛛たちが数匹いる。
ルビーがドラゴンである事は分かっている様なのでやけっぱち感もあるが、勇気あるなこいつら。
なんて気がそれている間に俺の足が蜘蛛の糸によって飛距離が足りない!
俺は仕方なく猫のように肢体を動かす事で固い地面に落ちても手足が痛いぐらいですんだ。
ルビーも俺を追って地上に降りてくれる。
そしてすぐさま危険を察した。
こちらに向かって走ってくる複数の足音。聞こえる口呼吸の音。
俺は路地裏から飛び出して逃げる。
「あいつら本当にマジじゃねぇか!!ハウンドは今まで000になってからだったじゃねぇか!!」
ハウンド。それは長い時間人間と共に生きてきた魔物の狩猟犬の総称である。
ドーベルマンの様な犬種からダックスフンドのようなタイプでとても多い。彼らはこの世界で言う警察組織の相棒として働いている。
そしてこの走ってくる音や呼吸音から察するに100を超える警察犬と警察に追い回されるという事の様だ。
「へ~あの子達は戦えるように訓練してるんだね。私に勝てないからマスターだけを狙ってるのも頭がいい証拠かも」
「あいつら……!俺は何の犯罪も犯してないぞ!!俺じゃなくてもっと別な奴らを追いかける時に本気出せや!!」
「黙れコノヤロー!!」
「アイリア様に謝れ!!」
「結婚してやれよ!!」
ハウンドたちの後から走ってくる現役警察官たちの姿まであった。
「結婚してたまるか!!確かにドラバカの事は嫌いじゃないが、王族になるって言うプレッシャーぐらいは共感してくれたっていいだろ!?」
「羨ましいぞコノヤロー!!」
「しかもなんでアイリア様なんだ!!エルノ様と結婚しろー!!」
「どっちにしても王族じゃん!しかもエルノさんは今いい雰囲気らしいから邪魔するような発言は止めておけ!!」
「と言うか美人姉妹全員と仲がいいってどういう事だ!!その立ち位置変われ!!」
「こうやって追いかけ回される事込みでも変わりたいって思えるお前らマジでスゲェよ!!」
ハウンドたちの魔法は身体強化をメインとした物らしく、どうしても自力の部分のでは人間の方が劣るので何度も噛まれそうになるのをギリギリの所でかわし続ける。
こいつら訓練しているせいか容赦なく腕や足に噛み付こうとしてくるから本当に厄介だ。
ルビーは何度もハウンドたちに殺気を向けて追い払うがキリがない。
それでは俺の裏技を利用してこの場を鎮めて見せよう。
俺は息を思いっ切り吸って、この街中に声が届くように叫んだ。
「これ以上追い掛けるなら、もう二度と俺の飯食わせてやらねぇぞ!!」
そう言うとハウンドたちの動きばピタッと止まった。
それにより驚いた現役警官たちは慌てて命令するがハウンドたちは言う事を聞かない。
突然攻撃が止まった事に驚くルビーは俺に聞いて来る。
「俺の飯って何?」
「俺の高カロリー高たんぱく飯は食った事あるだろ。実は冬場で観察する魔物が居ない時とかに色んな所で魔物用の飯を作って金稼いでたんだ。たまには贅沢感覚で俺に飯を任された時に食わせた時からほとんどの魔物は俺の飯を前に出せば大抵は命令が聞く」
「あ~美味しかったもんね~お弁当。確かにあのご飯が二度と食べれないのは嫌かも」
同情するような眼差しでハウンドたちを見るルビー。
そしてひそかに後方支援していた魔昆虫達も攻撃の手を止めている。
あいつらはあいつらで卵産む時にスペシャルメニューとして俺の飯を食わせた事がある。そうなった場合苦労するのは彼らだし、大変な事になるのは分かっているのだろう。
こうなるとハウンドたちは散歩を嫌がる犬の様になった。
ホントはこれ最終兵器なんだけどな……もう使っちった。
この先は飯ぐらいでは動じない連中が多い。
まぁ食い意地はってる連中もそれなりに居るのだが、普段ならもっと後半に出して来るハウンドたちをもう使った所に不安を感じる。
そして嫌な予感は、見事に的中したのだった。
「普通に死ねマスター!!」
「ハーレム野郎は死ねー!!」
「その隣にいる可愛い子と婚約したってマジかコノヤロー!!」
000、それは俺が学生時代の同級生たちであった。
ここからはこちらからも攻撃しないと突破できない、さらにレベルが上がった魔物使い達の巣窟である。
「ぬおー!!あいつら前よりも強くなってやがる!!」
「あの人達も友達?今度は完全にマスターだけを狙ってるけど」
ルビーが俺の前に出て様々な魔法から守ってくれる。
接近戦に関してはそれなりに出来るのでルビーには魔法の防御を中心に行なってもらう。
それにしても本当に今回はルビーのおかげで楽だな。ルビーが居なかったらとっくに詰んでたぞ。
「マダスや野良猫ほどではないけどな。旧友って奴だ。同じクラスだったりした連中だから容赦はいらねぇぞ」
「そうみたいだね。下位とは言え悪魔や天使を従えている人も居るし、油断はできないかも」
あえて言うと俺の学年は魔物使いとしてかなり豊作の年だったのだ。
成金ドラバカしかり、華陵しかり、外国から名のある魔物使いなども来たのでどいつもこいつも癖の強い連中ばっかり。
そして俺に向かって武器を構えてやって来た女性騎士が1人。彼女はドラバカの長女であるアイリの部下になったほどの魔物使いで俺の後輩である。
ただ個性的なのはそのティムしている魔物と戦闘方法だ。
「マスター先輩!手合わせお願いします!!」
「思いっきり来いよ!」
「はい!!」
そう言って彼女は身体強化をしたうえで魔物を振り回す。
彼女が得意としている魔物は武具精霊、日本人に分かりやすく言うなら武器の付喪神を専門に契約を結ぶ癖の強い魔物使いだ。
この世界にも朽ちる事なく丁寧に扱った道具に魂と言うか、精霊になるという話があるのだ。
その総称を道具精霊なんて言う時もあるが、ほとんどはどっかの英雄が使った本物の剣や槍。彼女はそんな付喪神に好かれやすく、彼らを十全に使いこなせるようになりたいと俺に話を持ってきた後輩である。
そしてこの後輩、魔物使いとしての才能も伸ばしたのか、手に持っていない付喪神まで空中で浮かぶ様にして扱う事で10本以上の武器を同時に扱っている。
「チートかこの後輩!!何で俺の周りにはこんなにもヤバい連中しか居ねぇんだ!?いつの間に付喪神たちを空中で扱えるようになった!」
「アイリ様と特訓をしている間に習得出来ました!ちなみにこれは魔法ではなくてスキルです!!」
「魔法より凄い事しれっとするな!!後天的にスキル得るのって相当稀な事だと聞いてたんですけど!?」
「出来る様になった。それが全てです!!」
「それ言われたら反論の余地がねぇよ……」
契約した複数の魔物を同時に使役するのは魔物使いでは結構当たり前な戦法である。
確かにドラバカ姉妹のように強力なパートナー1体と共に戦う魔物使いも居るがそれは脳の負担が大きな理由だったりする。
高位の魔物ほど魔力を制御するのが難しく、無理に制御しようとすると脳がオーバーヒートを起こしてしまう事があるのだ。それを回避するためにドラバカのような強力な1体の魔物を持つ魔物使いはどれだけ多くの魔物を使役していようとも、1体だけで戦わざる負えない事が多い。
だが彼女の場合、スキルで魔物達を浮かせているだけで後の行動は完全に付喪神任せだ。
武器として作られ、どのように攻撃するのが最善なのかよく分かっておられる。だから彼女は魔力制御はあえて行わず、付喪神たちに任せっきりなのである。
飛んでくる剣に刀、槍に斧など最善の動きで襲い掛かってくるのだからたまったもんじゃない。
そして彼女のパートナー、クラウ・ソラスは彼女の先祖が使っていたと言われるだけあって呼吸がぴったりと合っている。マジで強い!!
だが1点だけ彼女は弱かった。俺は彼女に肉薄して彼女の手を掴んだ。
これで剣を振り回す事は出来ないし、強力過ぎる名のある武器では俺だけではなく彼女まで傷付けてしまう。
剣を持っていないと戦えない事。これが彼女の唯一の弱点だった。
「ま、参りました……まさかこの子達が襲ってくるなか突っ込んでくるとは思いませんでした……」
「いや、正直寿命が縮んだと思う。マジで怖かった……」
「あの、先輩……お聞きしても良いでしょうか……」
「ん?なんだ?」
そう聞くと彼女は少し顔を赤くしながら言った。
「強く……なれたでしょうか?」
そう聞かれたのでちょっとだけ笑った。
これで強くないと言える奴が居るのだろうか?
俺は後輩の頭を撫でながら言う。
「当然だろ。お前は強いよ、身も心もな」
そう言うと後輩は顔を真っ赤にして「負けたので去ります!ありがとうございました!!」と叫びながら走り去って行った。
俺は彼女の成長に素直に喜びながら、まだまだいる旧友たちに立ち向かうのだった。




