回復を少しでも早める
急いで帰ってみるとそこにはマダスとティナが居た。
ドラゴンは二人を全く気にせずただ一点を見つめている。
「どこに行ってたんだマスター。なんか急にこいつが顔をあげたらじっと動かなくなっちまったんだが」
「それよりもマスター!大変な事になってる。ドラゴンの群れがこの国に向かってる!!」
必死な様子で言うティナを通り過ぎてドラゴンの様子を見る。
「…………ざっと1日か2日ってとこか」
「ちょ、のん気に構えてないで少しは慌てなさいよ!!もうすぐドラゴンの軍勢が攻めて来るかも知れないのよ!」
「その群れってどのぐらいでここに来そうだ?」
「え、えっと確か2日は掛かるって聞いたけど」
「それって今日を含めてか?」
「ええ、早くて明日には来る」
「やっぱギリギリか。マダス、今の内に準備してほしい事がある」
「何だ?逃げる準備か」
「そうじゃなくてシルフィに手伝って欲しい事があるんだ」
「え、あたし?」
意外そうに自分を指差すシルフィ。
頼みたい事が1つある。
「出来るだけ多くの炎の精霊を呼んできて欲しいんだ。そうすれば少しはこの子の回復が早まるかもしれない。それから条件は契約関係ではない事だ。出来るだけ野生の精霊がいい」
「炎の精霊とは仲がいいからいいけど……本当にその子の回復につながるの?」
「滅茶苦茶つながる。少しでも早く回復すればこの子のためにもなるし、この国の危機も回避できるかもしれない」
「そう言う事なら出来るだけ呼んでみるね!!」
マダスっというかシルフィへの頼みはこれでお終い。
次は。
「野良猫、ドラバカに頼んでこの子を放す許可をもらってきてくれ。もうこの子を手元に置いておきたいって王族はっていうか国はそんな余裕ないだろ」
「そ、それはどうにかなるかも知れないけど……この状況で放していいの?」
「おそらくドラゴンの群れの目的はこの子だ。逆に放さなかったらこの国はお終いだ」
「分かった。ドラゴン達はその子を狙ってるのね、その事を国の方に頼んで」
「それはドラバカに任せたい。国に頼んだらすぐに放り出される可能性は捨てきれない、だからまずドラバカに報告してそこから国に掛け合ってもらう」
「……そういう所だけは頭が回るわよね。了解了解、それじゃ第5王女様に伝えて来るわね。それでその子が元気になるのはどれぐらいかかる?」
「多分明日か明後日には回復するはずだ。と言ってもシルフィが集めてくれた精霊の数にもよるだろうけど」
読んだレポートから推測されるのは精霊とこの子は深い関係にあるという事。なら同じ属性の精霊をこの子の近くに置いとけば力を貸してくれるかもしれない。
そういう予想ではあるが何故精霊がこの子の種と一緒に居たのかは分からない。
所詮ただの予想だ。
逆に力を奪い取られる可能性も一応考慮しておいた方がいいだろう。
二人が小屋から出て動き出したので俺は俺に出来る事をしよう。
「おいで」
檻の中に入り、一点を見つめるドラゴンに向かって言った。そういうとようやく気が付いたのか俺の方に顔を近付ける。
近付いた顔を軽く撫でながら『救世主』を使う。
使うと言っても怪我などをしている訳ではない。これも予想だが自然エネルギーの代用品として様々な生物からあふれるエネルギー、マンガやアニメとかで言う気とかチャクラにオーラなどと呼ばれるものを効率よく分け与えるためだ。
触れてドラゴンにエネルギーを分けているとドラゴンは昨日のように俺を包むように丸くなる。俺はその間エネルギーを与え続ける。
心地いいのか欠伸をするドラゴン。そのドラゴンにちょっとだけ話し掛ける。
「なぁ、お前ってどんなドラゴンなんだ?」
そういうと不思議そうに見るドラゴン。言葉は理解できている様だが発する事は出来ない様なので一方的に話す。
「俺さ、仕事と趣味両方でお前みたいなよく知らない生物の事を調べてるんだ。だからまぁちょっとだけお前の事調べたいな~なんて感情もある」
少しだけ怖がる様な表情になった気がする。
俺は落ち着かせるために撫でながら言う。
「安心しろ。俺がするのは精々遠くから眺めて観察して、出来ればその生物の糞とかを調べるぐらいだ。直接何かしようとはしないよ」
そういうとまた顔を地面につけてリラックスする。
なんとなく可愛いな~
「それに俺は自然の中で生きる生物を見るのが好きなんだ。人の手に依存するような生物より、自然の中で生きて、死んで、そんな生物の姿が美しいと思う」
またこっちを見て不思議そうに首を傾げる。
最近まで野生の中で生きてたドラゴンには分かり辛いか。
「人間の世界は違う。食うために殺すのではなく、逃げるために自分を殺したり、ただのストレスで殺したり、無意味だと思える殺しが何かと多いんだよ。上にのし上がるために蹴落とす、上に行くために同僚と勝負する。それらはどうしようもない弱肉強食の世界だから仕方ないんだろうけど、殺す必要はないと思うんだよな……」
何を言っているのか理解できていなさそうな表情をするドラゴン。
そりゃそうだ。ドラゴンに人間社会の事なんて分かるとは思えない。
「ま、端的に言えば人間は時々無意味な殺しをしている気がするってだけだ。食うために、生きるために獲物を食らう。否定のしようがない大自然のルールの中で生きているお前らが、美しいと勝手に感じているだけだ」
やはり理解できないのか大きな欠伸をするドラゴン。まぁ理解してもらう必要もないんだけどな。
ドラゴンの腹に寄り掛かりながらオーラを分ける。
これで少しで早く回復してもらえるといいんだが……
「おーいマスター、呼んで来たよー」
「お、来たか」
シルフィが小さな炎の精霊を呼んできてくれた。
契約していない精霊の大半は生まれて間もない存在か、すでに大精霊などと言われる1000年以上生きている精霊がほとんどだ。
そういった存在は基本的に生まれ育った地域から離れる事はない。なのでどうしても契約される精霊の多くは生まれて100年経ってない精霊か、代々その家に積み付いている精霊ぐらいなものだ。
ちなみにシルフィは前者で最近でようやく150歳ほどになるとか言ってた。
小さな精霊は赤い光の玉の様でふわふわと浮いている。
そのふわふわ浮いていた精霊はドラゴンのすぐ近くに集まる。
ドラゴンはちょっとだけ周りを見るとあまり気にした様子もなくまた寝始めた。
「悪いなシルフィ、こんな事頼んじまって」
「ちょっと集めて来るだけだから何ともないよ。それより私もそっちに行っていい?」
「いいぞ」
そういうと他の精霊のようにドラゴンの上に乗る。
伸びをしたりゴロゴロしたりと随分とくつろいでいる。
「ところでマダスは?」
「ティナちゃんと一緒に王女ちゃんに報告しに行った。もうちょっと根回しが必要らしいよ」
「ち、子供1体を親に帰すだけで根回しとか必要なのかよ。くだらねぇ」
心底そう思う。
ただ子供を1人を親に帰すだけでこの国のピンチも回避できるのならそうするのがベストだと俺は思うんだが……
「マスターって単純だよね」
「嫌いか?」
「ううん、嫌いじゃない。だって別に間違った事を言ってる訳じゃないもん。確かにちょっと短絡的でマダスとかに頼り過ぎな気もするけどさ」
「いつもお世話になってます」
「本当だよ、ちょっとはサービスして。具体的にはお菓子奢ってよ」
「これが落ち着いたらな」
その時はシルフィだけじゃなくて野良猫も一緒な気がするなと思う俺だった。