村の事件
人数分用意された籠は2人乗り用だったのでそれぞれパートナーと共に乗る。
俺の所だけ本当に2人分なのだが重くないかちょっと心配だ。
そう思っていたのは杞憂だった様で、この享が原産の魔物、牛頭と言うでっかい牛が運んでくれる。
牛頭を分かりやすく言うのであれば、黒毛和牛っぽいミノタウロスと言った所か。しかし彼らは大食漢ではあるが草食であり、とても穏やかな性格をしている。
そんな牛頭達に寄ってゆっくりと進む牛車?みたいな感じでのんびりと進む。
その間にルビーが聞いてきた。
「この国のお姫様もマスターの事好きだったの?」
「そうらしいな。まぁ断ったからいい加減諦めて欲しいんだが……」
「つまりマスターに結婚する気はない?」
「あったらとうの昔に結婚してるって。ドラバカもそうだがあの学校、なんだかんだで世界1の魔物使い育成学校だったから、やんごとない一族やらマジの天才だとか色々集まっている様な所だったんだよ。まぁ知り合いの1部はそう言う高貴な身分の人と結婚までこぎつけた連中も居たけど」
あいつら大丈夫かな……俺は身の丈い合わないと思ったからすぐ断ったけど、中にはそれを狙ってた奴も居たからな……
まぁそうでなかったとしても、成績がよくて野良猫みたいにいい職に就いた奴らはいっぱい居るから多分大丈夫か。
結婚した奴らは多分尻に敷かれてると思うけど。
「何でマスターは偉い人と結婚しようと思わなかったの?普通はいい血筋の種族と結婚したがるものだよね?」
「それってまさかドラゴンの世界でもある訳?まぁ断った理由としてはかなり平凡だよ。やり遂げる気がしなかったから、それだけだ」
「自信ないって事?」
「その通り。魔物と付き合うのが得意だからって人間相手でも同じと言う訳にはいかないさ。それに俺は腹の探り合いよりもこうして触れ合う方が得意だし」
そう言ってルビーを抱き寄せるとルビーは幸せそうな表情をする。
ああ、これがやめられない。
この素直に嬉しいと分かるこの顔が好きなんだ。周りの連中は基本的に素直じゃないから嫌い。
俺は身を任せるルビーの髪を梳かしながらイチャイチャする。ルビーは尻尾を振って大喜びだ。
にしてもドラゴンも血統って大切にするんだな。
知性は人間以上なのだから当然と言えば当然なのかも知れないが、それでも魔物だから気に入った相手とするものだとばかり思っていた。
エレメンタルドラゴンの類は謎だらけだから知っている事なんてろくにないけど。
なんて思いながら牛車は進み、ゆっくりと降ろされた。
そこは宮殿の門の前であり、奥に赤い宮殿がこちらに向かって立っている。豪華絢爛と言う感じで赤と金を贅沢に使ったかなり派手な宮殿だ。
正直派手過ぎてなんかなっと思う。
俺達は牛車から降りると魔力を分け与える。
魔物に対するチップの様な感じで、魔物使いは運んでくれた魔物に対して魔力を分け与える事で感謝を伝えるのだ。
なので前と後ろで運んでくれた牛頭達に魔力を与えると片膝付いた。
随分調教されているなっと思いながら俺達は華陵を先頭に宮殿の敷地に入る。
そこが広く、神聖な雰囲気を感じるのは、ここが高位の魔物を召喚するための儀式を行う場所でもあるからである。
巨大な魔物を召喚しても窮屈ではない様に、どんな魔物が来ても満足するように、あえてやり過ぎなぐらいにするのがこの国の文化だ。
実際10年に1度の鳳凰一族を招待する際には国を挙げての盛大な祭りが催されると言う。
満足するよう全力を出すのがこの国の良い所だろう。
だがしかし、その分皇帝の方はちょっとばっかし大変だと言う。
毎年そう言った祭りのための準備やら金策やら色々と大変らしいし、俺と正反対の考えを持つあの傲慢野郎の国に色々と無理を言われる事もあるようだ。
しかしその分報酬も莫大なので、取引を止める事も出来ないそうだ。
「まずは父上、皇帝陛下に会ってもらう。話は……嫌かも知れないがマスター様にお願いしたい」
「何で俺なんだよ。こういう時こそドラバカの出番だろうに」
「新月熊についての相談だ。当事者を呼んだ方がいいだろう」
宮殿内だからか華陵は普段の話し方ではなく、お姫様としての話し方にしている。
皇帝に新月熊か。あいつら何かされたんじゃないだろうな……
「分かったよ。それなら仕方ない」
「感謝する。ここだ」
屈強そうな門番2人とそのパートナーである戦闘用の魔物が扉を守っている。
その扉が開かれ、また進む。
そこには華陵の父である皇帝が座っていた。
俺達は膝を付いて言葉を待つ。
「この度は突然連れてきてしまい申し訳ない。私が華陵の父だ。今回は新月熊の相談をしたく呼んだ。代表者はどの方か」
「私、マスターです」
「貴殿がマスターか。娘から話を聞いている。なんでも魔物に好かれる者だと」
「ありがとうございます」
「それから……面を上げてよい。これは公の物ではなくただの相談だ。鳳凰に誓ってここでの言葉に何の力もないことを約束する」
そう言われたので俺達は面を上げた。
この国の皇帝が鳳凰の名で約束した者は信用性がとても高い。
軽く息を吐きだし、俺は皇帝に問う。
「それではご無礼を承知の上でお聞きします。新月熊についての話とは何でしょう」
「新月熊が同じ山に住む人間の村を滅ぼした件についてだ。その状況を聞きたい」
「……言い辛い事ですが、冬を越すのはとても難しいっとお伝えします」
具体的にどれぐらいの人が犠牲になったのかは分からない。俺が来た目的はあくまでも新月熊の調査だ。あの村の人を救う事など出来やしなかった。
初めからできない事に手を出すほど俺は勇敢でなければ無謀でもない。
俺はただあの場に居ただけの一般人である。
「そうか。冬を越すのも難しいか……村人たちはどうだった」
「生き残りがあるのは確かですが……具体的に何人居るのかまでは分かりません」
「こちらからの支援は必須と見るべきか。礼を言う。先日その村より救援の文が運ばれたと聞いたので確認をしたかった。それだけなのでそう気張らずとも――」
「失礼します」
皇帝がそう言っている間に兵士の人が急いだ様子で現れた。
なんだろうと思っていると、皇帝に耳打ちをして何かを伝えた。
皇帝は一瞬驚いた表情を作った後、「詳しく調べろ」っとだけ言って兵士は駆け足で戻って行く。
一体何があったのか、まさか新月熊の身に何かあったのではないかと不安になる。
そう思っていると校庭は俺に向かって言う。
「現在調査中の例の村だが……壊滅状態だそうだ」
「それは……畑も家も壊されてましたし――」
「そうではない。全滅だ。あの村の人間は誰も残っていない可能性が非常に高い」
「え?そんなはずはないですよ。首都に戻る前に村の人達に襲われましたから」
あれがあの村の人間の仕業ではないとすれば一体誰の仕業だと言うんだか。
襲われたと言う部分に華陵が反応するが口は出さない。その時はまだ人が生きていたと言う証拠でもあるからだ。
しかし皇帝は俺に言う。
「まだ鳥型の魔物を持つ者に確認させただけで詳しい報告はされていないが、ほぼ村の人口と同じだけの死体を発見。同化で見た限り獣の爪や牙が原因だと思われるそうだ」
獣の爪や牙……まさか新月熊達が殺した?だが別れた後の彼らはあの結界内に引きこもっていたはず、外に出てわざわざ人間を殺す理由があるだろうか?
「これから調査と言いたいところだが、これから冬に入る。調査のために別の民を危険にさらす訳にはいかないので調査は雪が解けた後にするが、新月熊と関係はありそうか」
関係と言われても俺は新月熊達がしたとは思えないし、思いたくない。
それに人間が仕出かした事は人間で解決すると伝えたはずなのだから、人間に手を出すとも思えないのだが……
「そう深く考えなくて良い。調べればわかる。村の者には悪いがその村のために危険を犯す事はできないからな。話を聞けたのだからもうよい」
「お父様、彼らを今日だけでもの宮殿に泊めても構いませんでしょうか」
「構わん。宿の予約じゃもうとっているのか?」
「まだです」
「では客室を開けよう。華陵、お前がきちんと面倒を見る様に」
「は」
こうしてあの村の事を報告した俺達だった。
にしてもあの村に攻撃を仕掛ける動物って何かいたかな?




