首都に帰ってきた
下りは2日と半日ぐらいで鵬椀へと帰ってくる事が出来た。
この移動中に新月熊達は何事もなかったようで、ティムによってできた繋がりによって何か連絡して来る様な事もない。
あの村人たちが新月熊に何かしたと言う事は今の所はなさそうだ。
ただし冬眠明けに村人たちが何か仕出かす可能性は捨てきれないので警戒はしておきたい。っと言っても俺に出来るのは精々安否を確認する事だけだが。
そんな事を思いながら鵬碗の港に着くと、そこには黒服スーツの怖そうな人たちが大勢いる。
どっかで見た事のある黒服さん達であるが俺達に用などないだろう。きっと偉い人がそこら辺に居て、その護衛としてお仕事しているだけだろう。
「あの人達人間にしては強い方だね。何してるの?」
「多分偉い人を護衛してるんじゃないか?お仕事の邪魔にならない様に少し遠くに船を止めよっか」
「あ~。誤解されると面倒臭いもんね」
人間だけの感覚かと思っていたが、ルビーにも分かる物の様で助かった。
っと言う訳で俺達は黒服の集団から10メートルほど離れた位置に船を止めてようやく陸に上がれる。
「やっと陸地だ~。水の上って意外と体力いるもんだね」
「不安定だからね。それに川用の小さい船だったから余計に揺れに耐えないといけなかったし」
「キュイもお疲れ様」
全員船から降りてマダスと野良猫は話し、ドラバカはキュイを労わる。
俺は船の上に乗って空気を抜いて畳んでしまっていると、黒服の集団が俺達の周りで整列し出した。
何事かと思っていると、その1番奥で豪華な籠がやって来た。金の装飾が多い鳳凰や麒麟と言った縁起の良い魔物達の姿を金だけで描いた目が痛くなるような籠。他の背景なども絵具ではなく糸を織って作られたようで豪華絢爛と言う言葉が相応しい。
その籠は前に1回だけ見た事がある。文化交流とか言って俺の前で自慢しまくっていたのを覚えてる。
籠を見て嫌な顔をしたのはドラバカだ。
「げ、あいつ嫌いなのよね……」
学生時代の嫌な事でも思い出したんだろう。っと言うかお姫様同士なんだから仲良くしろよ。
予想は付いているがその籠から真っ赤なカーペットを敷いた後籠の扉が開いた。
そこから現れたのは炎の様な真っ赤な髪を団子2つに纏めている美少女。中学生ぐらいだがこれでも俺の1つ年下、ドラバカの三女と同じ合法ロリである。
服装は母国の伝統衣装であるチャイナドレスを着ているが……身長が低けりゃ足も短く見えるので着こなせてない感が凄い。ヒールを履いて少しでも身長を伸ばしている様にしか見えない。
その後ろには彼女のパートナーである人型に化ける事が出来る高位の魔物が美しい女性の姿で共に歩いている。
彼女はこの国の姫様よりかなり身長が高く、男である俺よりも少し身長が低いだけ、女性の中ではかなり身長は高い。その分色違いの白いチャイナドレスを着て、スリットから見える足の綺麗さが際立っている。
金髪が混じった紅い髪は背中まで伸ばし頭にはティアラの様な金の装飾品を身に付けていた。
一見凸凹コンビ、もしくは年の離れた姉妹の様に見える2人が俺が知っているこの国のお姫様である。
そして小さな主の方は俺を見て駆け寄ってきた。
「マスター殿!この享に来られたのであれば、是非わたくしに、華陵お会いしていただきたかったです!!」
そう言いながら抱き付いてきた。俺は普通に抱き締めるが本当に相変わらずの様だ。
無邪気と言う皮を被ったおっかない鷲。
「あ~、久しぶりだな華陵。今回は遊びに来たわけじゃないし、邪魔するのもどうかと思って」
「そのような事お気になさらなくてよろしいのに。ですが気を遣っていただけという事実だけで昇天していまいそうです」
そう言ってくねくね身体を動かす華陵は正直キモい。
俺は目線を逸らしてパートナーの方に聞く。
「そっちは元気だったか?焔」
「はい。そちらもお変わりないようで何より」
「ところでお前の主は……相変わらずなのか?」
「何1つ、変わりません」
「………………そうか」
ハッキリ言おう。よく分からないが華陵は俺の事が好きらしい。
理由は恥ずかしくて言えないっと言っているが告白はちゃんとされた。でも俺はきちんと断ったはずなのだが……いまだに俺の事が好きらしい。
確かに俺は断ったはずだ。はっきりと振ってちょっとした学校の事件にもなったぐらいだ。
女子から見れば身分違いの恋、男子から見れば高貴で美少女から告白された男として一時期騒いでいた物だ。
ちなみに俺が振った理由は王族だか皇族だかになるのは面倒臭いからだ。
俺には経済だとか政治だとかそう言う物に向いていないのははっきりと分かっているし、偉くなると色々お得かも知れないがその分制限もされる。
せっかく好きな事を職業に出来ただけでもかなりの幸運だと言うのに、わざわざそれを手放してでも結婚したいとはどうしても思えなかった。
あ、なぜ結婚と言う言葉が出たかと言うと、結婚前提でお付き合いしてくださいと言われたからである。
まぁそんな一般市民から大きく離れた存在とは結婚するのは正直面倒臭いのでハッキリと断ったはずなのだが……まだ諦めていないらしい。
きちんと何度も断ったのにいまだにアタックしてくるとは思ってもみなかった。
もういい加減ほっといてくれ……
くねくねしている華陵に対してドラバカが近付き、アイアンクローを決めた。
華陵は小さくて軽いのでそのまま持ち上げられる。
「いだだだだ!何するのよこのドラゴンバカ!!」
「あんたいい加減マスターに付きまとうの止めなさいよ!困ってるでしょうが!!」
「貴女に言われる筋合いはありません!これはわたくしとマスター様の問題です!」
「何度も何度もマスターはあんたの求婚を断ってるでしょうが!!この鳥頭!!」
「黙りなさいドラゴンバカ!あなたの様にいつまでも動けないでいるよりはかなりマシです!戦うつもりがないのであれば大人しくすっこんでなさい!!」
またこれだ……ドラバカと華陵は本当に気が合わない。喧嘩の様子を見ているこちらが呆れ返ってしまう程にだ。
この騒動を慣れている俺達に対して慣れていないルビーや黒服さん達は困惑気味だ。普段は2人ともしっかりお姫様してるのに、この2人が揃うと喧嘩友達になってしまうのだ。
「変わんないな。あの2人の関係」
「本当に変わらないね」
マダスと野良猫も俺と同じような感想を得たのだろう。そんな事を呟いた。
そして残されたホムラはルビーを見ながら聞く。
「ちなみにそちらのドラゴンの方は?」
「あ、こいつはルビー。俺は初めて契約した魔物だ」
「ルビーです。エレメンタルフレイムドラゴンです」
「これはご丁寧に。私は鳳凰のホムラと申します。以後お見知りおき」
………………う~ん。この2人の方がお姫様力が強い気がする。
ルビーはよく分からないが、ホムラはあの有名な鳳凰の子孫である。
鳳凰はこの享の地で最も縁起の良い魔物であり、皇帝と深いつながりを持っている正真正銘の鳳凰のお姫様だ。
皇室と鳳凰の一族は盟約を結んでおり、同性の子孫が同じ年代で生まれた際にティムの関係になると聞いている。皇室は鳳凰、引いては魔物の事を深く学び、鳳凰は人間の文化などを深く学ぶ。
こうして育てられた2人は兄弟や姉妹の様に暮らすと華陵が言っていた。
なのでホムラは皇室で人間のマナーを学び人間のお姫様と変わらない品格を持っている。
うちのルビーはあまりそう言う面を見せてはくれないけど。
「それにしても珍しい事もあるのですね。マスター様がティムを行うとは」
「まぁ~何と言うか、成り行きでな。ルビーの世話をしている間にルビーの親からティムしてもらうように頼まれちゃって」
「初めまして、妻です」
「妻!?」
ルビーが冗談半分で言ったような言葉に華陵が敏感に反応した。
すぐさまルビーに詰め寄り興奮しながら聞く。
「つ、つつつ、妻とはどう言う事でしょうか!龍様!!」
「言葉通りの意味だよ。私はマスターの元に嫁いだの」
「ご両親は納得されているのですか!?」
「お願いしたら聞いてくれたよ。マスターは悪い人間じゃないからいいよって」
その言葉を聞いた華陵は俺に向かって首を動かす。と言ってもまるで油の切れたロボットの様なぎこちなさだったが。
華陵は質問するのではなく、視線だけで訴えている。本当なのかと。
俺は頷くと、すでに死んでいた瞳から涙があふれ、四つん這いに崩れ落ちた。
この姿を見た黒服さん達はとても動揺している。恐らく俺の事を聞いていたんだろう。
そして俺に聞こえるか聞こえないかの声で言葉を発する。
「は、はは。終わった。私の初恋……終わっちゃった。身分とかどうでもいいからとにかく良い人と結婚したかっただけなのに、マスター様だけがその条件をすべて満たしていたと言うのに。これ以上の良い男性はわたくしの前に現れるのでしょうか?どうせ現れる事はありませんよね。ええ、分かっていますとも。他国からは成り上がりだの土地が広いだけの田舎国家などと言われおりますし、どうせ相手にされる事すらありませんよね。と言うかマスター以上の男性を見付ける時点でこれはもう見付けられないのではないでしょうか?」
こ、心の闇が溢れ出てやがる……
そこまで俺との結婚に固執していた理由は何なのか分からないが、とにかく今の俺が声をかける事はできない。
これはしばらく使えそうにないと思い、俺はホムラに声をかける。
「で、俺達を迎えに来た理由は?」
「その話は宮殿で」
そう言った後俺達の人数分の籠が用意されていた。
どうやらもうちょっとだけこの国に留まる事になりそうだ。




