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撤退する

「この、バカマスター!!」


 拠点に戻った後、俺はドラバカに殴られた。

 俺は頬を抑えながらドラバカに向かって叫ぶ。


「痛ってぇなぁ!いきなり何しやがる!!」

「あんな所で私1人を逃がして、しかもその後新月熊の縄張りに入って一晩明かすってどういう事よ!人に心配させない努力って言う物を少しはできないの!?」

「だからちゃんとルビーに頼んだだろうが!!連絡はちゃんとしてただろ」

「あれじゃ足りないから言ってるのよ!あんな一方的に決められて納得できる訳ないでしょうが!!」


 怒り心頭っと言う表現がしっくりくる表情だ。顔を真っ赤にして、息を荒くしながら怒鳴り続ける。

 そんなドラバカの怒りを鎮めるのはキュイと野良猫だ。それでも後で1人と1匹からも怒られた。

 なんで?


「それだけ心配したって事でしょ。確かにルビーちゃんの連絡はあったけど、それでも心配させちゃったんだからさ」

「連絡しても心配するってどうしろってんだよ?」

「もうちょっと詳しく言うべきだったんじゃない。ルビーちゃんの説明で分かったところも多かったし」

「あ~はいはい。今度から詳しく言っておきますよ。それじゃ撤収準備始めるか」

「今から?」

「今から。この拠点の中にある物をしまうぐらいだよ、流石に今から移動すると言ってもどうしようもないし。それにもうすぐ冬になるらしいから出来るだけ早く帰らないと帰れなくなるぞ」


 俺が危惧しているのはそのあたりだ。

 長老曰く、あと10日は大丈夫との話だがそれでも早いにこした事はない。ならばできる所から撤収準備を行うのが正しいだろう。

 こうして俺達は撤収する準備を整えるのだった。


 -


 次の日、俺達は最後にテントをしまって帰る。

 ここに来る時よりは楽だろうが、降りるのは降りるので危険が伴うので注意が必要だ。特に重たい荷物を持っている俺とかだとな。


「ところでマスター。冬になったら今度はどこに行くの?」

「そうだな……次は北にでも行こうかね。渡り鳥の観察でもしてみるか?」

「それお仕事じゃない様に聞こえるけど?」

「まぁ正直冬の間ってあんまり魔物居ないんだよ。狩る獲物が少ないせいか、ほとんどが大食漢の魔物にとっては冬眠してまた獲物が増えるのを待つ季節って事だな」

「それなら里帰りしてもいいかな?お父様達に顔見せに来いって言われてるから」


 ルビーの実家?

 そういやどこにあるんだろうな?


「それってどこら辺にあるんだ?」

「この大陸の中央にある火山だよ。ふもとは樹海で色んな魔物がいるし、冬の間も火山の熱のおかげであんまり寒くないから過ごしやすいよ」


 大陸中央の火山か……この辺じゃダーマヴァルト火山か?

 あの富士山をでっかくしたような山で、活動中の火山だとか。定期的に小規模の噴火も起こっていると言う危険地域だ。


「そこって俺みたいな人間が入って大丈夫なのか?」

「人間でも大丈夫な所までしか行かないよ。|エレメンタルフレイムドラゴン《私》達が住んでる場所は配下のナーガたちも入れない様な危険な場所だから近付けないよ」


 やっぱり危険地域だな。

 しかもナーガってラミアの上位種じゃなかったか?それが近付けないってどんだけ危険な場所が実家なんだよ。


「それはぜひ付いて行かないといけないわね」


 そう言ったのはドラバカだ。

 こういう話だけは絶対に聞き逃さないから凄いもんだ。

 眼を子供の様にキラキラさせながら挙手する姿は本当に子供の様だ。


「伝説のエレメンタルドラゴンの棲み処なんて普通一生かかってもたどり着けないでしょ。それがルビーちゃんのおかげで行けるならぜひ行かないと」

「そうは言うがそんなに人間が行って大丈夫なもんなのか?神聖な土地、みたいな扱いじゃねぇの?」

「確かに私達は火山のおかげで生きてるから神聖視してるけど、封印の扉に何もしなければ大丈夫じゃないかな?」


 え?今なんかフラグ挟みませんでした?

 と言うかそんなところに何を封印してらっしゃるんです?


「まぁ私から見てひいお爺様の代辺りに封印されたらしいし、もう死んじゃってるかもね」


 若者特有のありえないフラグが立ちましたが!これ本当に戦闘系になりませんよね!?俺戦えねぇんだけど!!


 なんて思っていると敵意を感じた。

 すっと頭の中を切り替えて、敵意を感じる場所に視線を送るとルビーが俺の前に出た。

 その後聞こえたのは発砲した音と、弾をはじく硬い物に当たった音。当たったのはルビーの鱗だろう。

 今の発砲音を聞く限り、対人ではなく対魔物用の猟銃の音だ。こんな山奥で猟銃を扱う者など思いつくのはあの村の人間しかいない。


「何のつもりだ。俺はお前らとの約束を破った覚えはねぇぞ」


 姿の見えない敵に対して言ったが、当然反応はない。


「マダス。お前は――」

「シルフィーの風で弾丸が当たらない様にする。分かってるよ」


 俺とたまに危険な旅をしていたせいか、既にシルフィーを使って防御している。

 キュイもシルフィーの風の壁を補助と言う形で補強しているし、そうやすやすとは突破できないだろう。

 問題は攻撃してくる連中をどう止めるかだな。流石に彼らはまだ犯罪者ではないからぶっ殺す訳にはいかない。

 正当防衛として潰すのもなしではないがそれは後々面倒な事になる。

 だから1番はこの場から逃げ出す事なのだが……ルビーの背に乗って逃げれるか?


「せめて理由ぐらい話していただけませんかね?俺はお前らとの約束を破った覚えはないんだが?」


 同じ事を聞いても攻撃の手を止める気配がない。

 しかたがないのでルビーに乗って逃げ帰るとしよう。


 ルビーは直ぐに俺の意図を組んでくれてドラゴンの姿になってくれた。

 ただ問題はルビーの上に人間が4人、小型ドラゴン1匹に猫が1匹乗せて飛べるかどうかと言う所だ。

 ルビーはまだまだ子供だし、そう重いものを持って飛ぶ事は不慣れである。


「そこは俺達が手伝う。シルフィー」

「分かってる。その代わりお菓子山盛りで」

「キュイもお願い!」

「キュイイ!!」


 何をするんだろうと思っていると、ルビーの身体の周りに風の壁を再び作る。今度のは身を守るためだけではなく、ルビーの身体を上昇気流で少しで飛びやすくフォローしてくれている感じだ。

 これによりルビーも普段と変わらない感じで飛び立ち、この場を離れる事が出来た。


「ルビー、10キロほど飛んだらそこで降りてくれ。後はボートで移動する」


 そう言うとルビーは素直に10キロほど先の川辺で降りた。

 俺達が降りるとルビーは俺に前のめりで倒れる。

 俺はルビーを受け止めて優しく頭を撫でる。


「よく出来ました。頑張ったな」

「うん。でもあの人間達は何で襲って来たの?私達本当に何もしてなかったのに」

「恐らく新月熊と仲良くしてるのを見られたんだろうよ。そこから村を壊された逆恨みって所か」

「何それ、私達本当に何もしてないのに……」

「冬直前で村を壊されたからどうしてもどこかに怒りをぶつけたかったんだろうよ。さて、俺達はさっさと帰りますか」


 俺達はボートを取り出して膨らませて、逃げるように川を下るのだった。

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