新たな契約
長老の家に泊まり一晩過ごした朝、俺は母熊に会いに行った。ケガだとか、執刀した際に菌が体内に入ったり、体内で膿が出来ていないか確認するためだ。
ドアはない洞穴の様な家ではあるが一応はいる前に「お邪魔します」と告げておく。
出迎えてくれたのは子熊達。可愛らしいコロコロとした姿で俺にじゃれて来る。
父熊は俺を見て洞穴の中央に招く。そこには既に母熊が居て、大人しく伏せていた。
母熊は子熊達を呼ぶとすぐに母親の元に駆け寄って思いっ切り甘えを見せる。
そんな光景に自分の頬が緩んでいるのが分かる。だが今日この母熊に会いに来たのはこう言う物を観察するためではない。母熊に触れてスキルを使用する。
執刀した傷は既に塞がってはいるがまだ傷を治している最中だからか少し盛り上がっている。だが触れられて痛いと言うものでもない様で触られても大人しくしてくれた。
そこからスキルで銃弾を取り除いた場所に意識を集中すると、そこに膿はなかった。
一応と思っての確認だったが何ともなくてよかった。これなら完治したと言っていいだろう。
でも一応スキルで傷の盛り上がりは直しておく。手術する際に沿った毛が生えそろうのを待つだけだ。
母熊の状態を確認した後は長老の家に戻った。
そこには木の実を中心に魚が大きな葉の上に置かれている。
長老は俺を見て言う。
「あの子はどうでしたかな」
「ケガは今治りかけています。銃弾を取り除いた部分はきちんと塞がっていますし、傷跡は毛が生えそろえば分からなくなるでしょう」
「安心してよいのだな。それはとても良い」
そう話した後俺と長老の食事が始まった。
他にも護衛の新月熊達が居たのだが食事を取ろうとはしない。この新月熊の世界でもヒエラルキーは存在するのだろうか?
食事をしながら聞いてみる。
「ところで昨日は聞いていませんでしたが、新月熊の上下関係はどうなっているのでしょう」
「特に決めておらん。そこは本能に任せておる」
「本能」
「強き者が上に行き、弱き者は下に行く。だが決して迫害などはせぬ。我々は強くとも、賢くとも、とても少ない。故に仲間内で争う理由はない」
なるほど、その辺は魔物として当然の思考と言えるのかも知れない。
いや、生物として、だろうか。
ボスの器に必要なのは危機回避能力だと聞くがそれと同等に力も必須となる。
これは当然だろう。
だが弱者をイジメないと言うのは明らかに知性のある者の発言だ。
強者は弱者から搾取するもの、これだけであれば野蛮と言う他ないが、そうでないのであれば野蛮とは言えない。
強者はただ弱者から搾取するのではなく、守る事が出来るのであれば立派と言える。
普通の雄熊は子熊を殺す。
理由は子供のいる雌熊は発情期が来なくなり、子育てに集中する。また発情期が来るようになるのは子育てを終えた後か、子熊が死んでしまった後だ。
雄熊はそれを知っているから子熊を殺し、自分の子孫を残せる身体にしようとする。
俺はこの行為を野蛮だと思う。
確かに今自分の子孫を残す事が出来なくとも、後々自分の子孫との間に子を生すかも知れないのだから子供は殺すべきではない。
これが持論ではあるがそうでない動物はとても多い。
ライオンの雄だって縄張りを奪った後、その縄張り内の子供を殺す事がある。
それは自分の子孫ではなくたった今追い払った、もしくは殺した雄の子供だからという理由だけだ。
そう言うのは……出来るだけ減らしたい。できれば……
「この木の実を育てたのは力の弱い子達です。時折過激な者が要らないと言う事もありますが、このように我々の役に立っているのですから殺してはいけないでしょう。こうして食えるのは彼らのおかげなのですから」
「……その通りです。目には見えにくくとも、必要でない存在など居ませんから」
本来群れないはずの種族が群れを成し、成功を収めている。これがどれだけ素晴らしい事か。
俺は嬉しい気持ちのまま食事を終えた。
流石に火は使わない様なので木の実ばかり食べさせてもらったが結構美味かった。
外に出てルビーを待っている間、子熊達と戯れる。
俺の知っている子熊だけではなく、他の子熊達もやって来たので色々と楽しかった。それぞれ性格が違ったりするのはどの生物でも同じ。1体1体の性格を見極めて出来るだけその子達に合わせて遊んだりする。
そうしながら待っている事昼になる少し前。
ルビーが現れた。
「マスター!迎えに来た!!」
そう言って駆け寄ってくるルビーを抱きしめた。
俺は頭を撫でながら言う。
「迎えに来てくれてありがとうな、ルビー」
「うん。ちょっと時間がかかっちゃってごめんね」
「そう言えば意外と時間がかかったな。何かあったか?」
そう聞くとルビーはげっそりした表情で話す。
「昨日午前中にアイリアを拠点に帰したでしょ。その後夜になるまで帰って来なかったからすごく心配してたし、マスターと一緒に帰って来なかったからマスターは犠牲になっちゃったんじゃないかって慌てて森の中に入ろうとしてたから止めるのに大変だった」
「あ~。そういや連絡一切してなかったな。心配して当然か」
こういう時衛星電話の様な物がないと本当に困る。
一応似たり寄ったりの魔道具はあるのだが完全にペアになっており、ペア同士の魔道具にしか繋がらないと言う欠点もある。
そして何より高い。その魔道具1セットで日本円感覚で100万を超える感じだ。
かなり高いので基本的に持っているのは国の連絡用でしか見た事がない。個人で持っている者は居ないんじゃないだろうか?
「だから迎えに行く時も1人で行かないといけないって言ってるのにアイリアがしつこくて……」
「それは俺が後で言っておく。とにかくありがとうな」
「うん」
ルビーは頷いてそのまま俺に身を預ける。
撫でながら連絡と言う所で気が付いた。
「そう言えばどうします?人間がこの里に近付いた際の連絡方法は?」
そう聞くと俺が助けた新月熊の一家が前に出た。
そして長老は言う。
「この一家と絆を結びなさい。さすればこちらの声は届くでしょう」
「え、契約していいんですか?」
つまり長老はこの新月熊一家と契約を結べと言っている。
それに対してルビーはどう思うか気になったのだが……
ちらりとルビーを見て、ルビーはさらっと言った。
「それでいいんじゃない?確実な方法だし」
「あれ?ルビーにとって契約って結構重要な感じなんじゃ……」
「それはドラゴン限定の価値観。力がある分むやみに力を貸しちゃいけないって言われてるからってだけだから。この人達のためにも契約してあげた方がいいでしょ?」
「それじゃ……お願いするか」
こうして俺は新に新月熊一家と契約を行った。
新たな繋がりが出来た事により俺はちょっと不思議な感覚がする。一気に4体の新月熊と契約した影響だろうか?ちょっと立ち眩みが起こってしまった。
「大丈夫、マスター?」
「ああ、何とか。一気に複数の魔物と契約するとこうなるんだな」
俺はまたちょっとだけ賢くなった。
長老は俺の様子を見て満足そうに頷いた。
「では新たなる友の誕生に祝福を。そして人間の事は頼む」
「はい。お任せください」
俺は多くの新月熊達に見送られながら里を下りる。
霧を抜けたらいつもの山の中。そこからルビーにドラゴンの姿になってもらい、拠点へ帰るのだった。




