新月熊対策会議
ルビーのおかげで無事拠点に戻るってまず風呂に入った。
秋の寒中水泳でとても体が冷えてしまったからだ。
こういう時本当にドラバカの屋敷テントがあって本当に助かる。
ただのテントだったら湯を沸かして色々しないといけない。
ちなみに濡れた服は洗濯中。野良猫がしていてくれている。
風呂から上がって呼びの服に着替えていると、ルビーはとても心配した表情を見せた。
そして着替え中の俺にそっとくっつく。
「まだ寒くない?」
「風呂にも入ったんだからもう大丈夫だって。ポカポカしてるだろ?」
「でもマスターは特別でも人間は弱い。すごく弱い。爪も牙も、身を守る体毛や皮膚も弱い」
「だからこうしてルビーが一緒に居てくれて助かってるよ。ありがとうな」
そう言いながら抱きしめるが、俺の胸の中でもルビーは心配した表情を見せる。
「でもまだあの熊の事調べるんでしょ?逃げないの?」
「逃げたら被害が拡大するかもしれないからな。両方とも」
「両方?それってあの熊達も?」
不思議そうに言うルビに向かって頷いた。
俺は頭を撫でながら解説する。
「今はあの村だけで対応しているが、いずれ国の軍や俺達みたいな魔物使いが出てくる可能性はとても高い。もしそうなった時、あの新月熊達が食人種みたいな形で登録された場合絶滅させられる可能性がある。それだけは避けたいんだよ」
「もし食人種?って言うのに人間が登録したらどうなるの?」
「良ければその周囲にいる人間は避難させる。最悪の場合は、絶滅させられる」
絶滅と言う所にルビーはとても驚いた。
そんな事出来るのかと視線だけで訴えている。
「かりに新月熊がこの山にしかいないとなればここの群れ1つ潰すだけで絶滅できる。それに大抵の国に仕える魔物使いってのは戦力的な面も期待されている。だから戦闘系の魔物を契約ィテルトそれだけで就職しやすい、なんて話もあった。それにここは享だからな。おそらく強い魔物を従えている連中はいるだろう。そうすれば絶滅させるのも不可能ではない」
真面目に言うとルビーは震えていた。
人間がそこまでしようとするのが恐ろしいのか、それとも1種族がそこまで行動する事に驚いているのかは分からない。
だがこの表情は人間への恐怖の顔だ。
俺は強く抱き締めながら言う。
「もしその最悪の事態になってほしくないから今頑張んないとダメなんだよ。俺達が放っておけば危険じゃないと先に伝える必要がある。そのためにはちょっと危険だけど頑張らないとな」
「マスター……」
そう言ってルビーは甘える。
不安を無理矢理ぬぐうように俺の胸の顔を擦り付ける。
好きなだけさせようと思っていると俺の部屋の扉が開いた。
「マスター?もう着替えたならって何してんのよ!!」
「ドラバカ……今ルビーをちょっと不安にさせちまうこと言ったからもうちょい後にしてくれ」
「だ、だからって!服着なさいよ!!」
「え?着てるぞ?」
「下だけじゃなくて上も着なさい!!」
「別にいいじゃん。海入るときだって上半身裸だったんだから」
「家主として言います!さっさと服着て会議室に来なさい!!」
そう言ってドラバカは顔を真っ赤にしながら出て行ってしまった。
待たせ過ぎたかな?そう思いながら俺は服を着る事にした。
シャツだけだけど。
「む~アイリアのバカ。せっかくいい雰囲気だったのに……」
「ルビーってなんだかんだで強かだよな。そう言う感想が出るぐらいには」
「てへぺろ」
うん。可愛いから許す。
何も怒ってないけど。
そんな調子で作戦会議室に行くと重たい空気でマダスと野良猫たちが情報をまとめている。
ドラバカに関しては先程の事を思い出したのか顔が赤い。
男の上半身裸を見たぐらいで大袈裟な。相変わらず初心だな~。
「そんじゃ全員揃ったし、緊急対策会議を始めますか」
新月熊発見に喜ぶべきか、悲しむべきか相談する。
ちなみにこの会議で危険と判断した場合即座に帰る事になっている。
研究や生態系の調査も重要な仕事ではあるが自分達の命はもっと大事だ。
なのでここで情報を集め、みなで相談する事で今後の方針を決める。
「そんじゃまずは新月熊の発見おめでとさん。その新月熊は情報を集める限り群れを成して行動している様だがどう思う?」
「俺は問題ない。新種の発見にはこのぐらいのハプニングはつきものだ。このぐらいで調査を止める程腑抜けちゃいない」
「私はこの拠点に居るだけだけど……これを聞いたら絶対に外には出ないからね。戦闘も出来ない、逃げ切るすら難しい。完全に足手まといだからこのまま私は引きこもってるからね」
「それにどうせあんたこういう時だってのに逃げようとはしないでしょ?となると安全策をいくつも用意しないと」
俺の質問にマダス、野良猫、ドラバカが言う。
全員なんだかんだでなぎ付き合いで俺の思考がよく分かっているようで何より。
そんじゃ対策考えますか。
「熊に出会わない様にする方法はいくつもあるが、出会って逃げれるようにするってのはかなり厳しいからな。それに俺達武器らしい武器は持ってないし」
「一応イージスお姉さまが捕獲用ネットを用意してたけど……使えそうにないわね。大きさ的に」
「と言うかそんな網ぐらいじゃ簡単に引き千切られるんじゃない?相手は確実に魔物化した熊よ?単純な力技だけで簡単に壊される未来しか見えないわよ」
「と言うか俺達逃げの一手ばっかり教えられてるし、戦うなんて考えない方がいいだろ。素直に逃げるのが第1に考えるべきだ。戦えるのはルビーちゃんとマスターぐらいだ」
「「それは確かに」」
「ちょっと待って、え?何で俺だけは大丈夫的な感じなってんの?俺だって人間だよ?身体強化と回復能力があるだけのただの人間だよ」
「「「暴れる魔物を殴って止める奴が言うセリフじゃない」」」
そ、そんな……俺だけ人外ポジション……
「とにかく1番厄介な点は群れて行動する点ね。しかも小型や中型ではなく大型の熊が、よ」
「大きさはどれぐらいのものなの?」
「雌は2m50cm程、雄は3mに届きそうなほど大きな個体を確認してる。と言うかマスターを追いかけてた」
「よくほんとに生きてたな……」
「木の上を猿の様に移動しながら逃げてました。木を揺らして俺を落とそうとして来た時は本当に怖かったです。と言うかルビーが居なかったら帰ってくるのも多分無理でした」
「マスターにここまで言わせるとなると、相当安全策が必要だな」
「俺が逃げ帰って来た事を基準にするのそろそろやめてくれない!俺は金太郎じゃねぇんだよ!熊と相撲したら当然負けるわ!!」
「ドラゴン相手にひかない男が何言ってるの?」
「ルビー!みんなが俺を人外扱いする~」
わざとらしくルビーに抱き付いてみたが、意外と胸が……
そしたらルビーはどこか嬉し気な感じで俺を抱きしめる。
「ふふ。何だろうこれ?普段は私がマスターに抱き締められてるからな?これはこれで甘やかしたくなると言うか……母性が出ると言うか」
「ちょっとマスター!どさくさに紛れてルビーちゃんにセクハラしちゃダメでしょ!!」
「私は問題ないからセクハラにはならないよ~」
あの、ルビーさん。
微妙に息がし辛いのですが……あと柔らかいです。
セクハラにならないのならもう少しこうしててもよろしいでしょうか?
「いいから離れなさい!」
「ふふ~ん。マ~スタ~」
………………たまには甘えるのもいいかもしれない。
だが柔らかくて心地いい感覚はドラバカのせいで無理矢理引き剥がされた。
残念。
「全く、会議中にセクハラだなんて何考えてるんだが」
「まぁ今のは置いておいて、実際新月熊に出会うだけでもそれなりの戦力が必要だ。今回の近くの村が攻めたことで人間への警戒心が強まっている可能性は高いし、下手すれば人間ってだけで攻撃してくる可能性だって否定しきれない。なので主力は俺とルビーで確定だな。サポートは……やっぱりキュイか?」
「それが無難じゃない?シルフィーは索敵には優れてるけど戦闘に関してはダメだし、姫様とキュイのコンビならちょっとした戦闘ならどうにかなるでしょ?」
「そうなるわね。その代わりにマダス、あなたはティナと一緒に拠点の防衛を頼むわよ」
「了解。風の力で匂いとかは誤魔化しておく。流石に近くまで来られたら引きこもらせてもらうけど」
ドラバカとマダスの会話で決まったな。
これからは固定で俺とルビー、ドラバカとキュイのコンビで新月熊を探して観察する。
もう新月熊との鬼ごっこはしたくないな。




