調べもの
その場で多くの人間がざわついていたのが気に入らなかったのかドラゴンは俺を咥えて飛び、小屋に戻った。
大人しく檻に戻り、昼寝を始める。
眠りが深くなったのを確認して俺は小屋から出た。
100を超えるドラゴンの群れ、おそらくその原因があの子を連れ去った事が原因だと想像に難しくない。そして大暴れしているのはあの子がその国に居ないからだろう。
子供を探しているが見つからない。だから手当たり次第に壊してあの子を探しているんだろう。
何の根拠も確証もないが俺の中ではそれが真実だと思い王立図書館へと走った。
王立図書館。
この国最大の図書館だ。図鑑に哲学、様々な知識があるこの図書館の警備は厳しい。しかし俺は簡単に入れる。魔物の研究者であり、顔なじみだからだ。
図書館に入ると受付の女性に頼む。
「館長は居るか」
「あ、あのすみません。館長は現在外出中です」
「なら今居る人で1番偉い人を呼んでくれ。名前はマスター、特級魔物研究者だ」
「と、特級魔物研究者様でしたか!す、すぐに副館長に連絡します」
資格の証明であるカードを見せながら言うとすぐに連絡してくれた。
特級魔物研究者、何段階かある魔物研究者のランクの様な物だがこういった公共機関ではこの肩書はとても助かる。
なんせ閲覧制限のある図鑑やレポートなど読む事が出来るからだ。流石に持ち出しは貴重な物過ぎてできなかったが。
少し待つと顔なじみと言っていい小太りのおっさんが走って来た。
「ど、どうしたんだねマスター君。今現在ちょっと忙しくて早めに要件を」
「国と同じ事をしようとしてる。ドラゴンの図鑑を見せてくれ、おそらく閲覧規制のある図鑑にしか載ってない」
「どこでその事を知ったんだね?それに無理だ」
「何で?閲覧規制の掛かってる本なら持ち出せないはずだ」
問い詰めると副館長は答える。
「く、国のお偉いさんたちが既に図書館に連絡してきたんだよ、早朝にね。だから館長がドラゴンに関する図鑑を城に持って行っているんだ。だからここには今ないんだ」
「全部ではないだろ」
「全部持って行かれた!多くのドラゴンに対抗するために必要だって!」
「そうじゃなくて原本の写しがあるだろ。現代語ではなく古代語で書かれた写本も持って行かれたのか」
そういうと「ああ!」と副館長が声をあげた。
「それなら確かにある!!鍵を持ってくるから待っていてくれ!」
そう言って走ってはいるが遅い足取りで鍵を取りに行く。
少し待つとぜえぜえ言いながら鍵を持って戻ってきた。
「そ、それじゃ行こうか」
「頼みます」
副館長と共に閲覧禁止のブースに向かう。
正確には閲覧禁止書庫と言うのだが、一般的に開放しているブースより広い。多くの本を守り、未来に繋げるため多くの原本がここに集まっている。
閲覧禁止書庫に入ると少しひんやりとした空気が流れる。本を保存するための最適な気温、そして湿度を維持している証拠だ。
さらに区画1つ1つに防火、防水扉も配置されていてどっかの宝石店より厳重な設備だ。
この区画に入るのも選ばれた図書館の職員としか入れない。入れるのも特殊な資格を持った者のみだ。
こういう所に入るために資格取った訳だしな。
副館長を先頭にドラゴンに関する図鑑、研究レポートなどが描かれた区画に入る。普段は本がぎっしりと並べられているはずなのに一部空いていた。
おそらくそれらが国に持って行った図鑑など何だろう。
そして区画の奥、最も厳重な警備がされている区画の前に立った。
副館長がその扉の鍵を開ける。
今はもうすでに失ったと言われる写本が並べられた区画だ。
歴史的、文化的にも貴重な本が眠っている。
そこから更に小さな区画に入る。
「ここだよ。ここにドラゴンに関する古代文字で書かれた本がある」
「ありがと副館長。ここ滅茶苦茶貴重な区画だろ」
「よく館長と一緒に来てたくせに。それより図鑑はあっても100体以上のドラゴンをどうやって調べるつもりだい?」
本を選びながら記憶を探る。
あの子の特徴と、読んだ事のある図鑑を思い出しながら一冊の論文をまとめた本を取り出した。
「100以上のドラゴンは調べません。俺が調べるのは1体のドラゴンです」
「たった1体?どんなドラゴンを調べるんだい?」
「今俺が預かってるドラゴンです。その子を捕まえたって国が襲われたらしいので多分関係があるんじゃないかと」
ページをめくりながら答える。
「もしかして騒音問題になってたドラゴン?でもあのドラゴンは成体だって」
「俺の診断ではまだ子供です。昨日の夜から預かってますが好奇心も高いし、俺に対する警戒心は薄い」
「それは君のスキルで」
「それでも馴染むのが早過ぎます。食事の量も最初に言われたファイヤードレイクに比べて少ない量で満足していましたし、恐らくあの子は別種の幼体です」
そういうと副館長は青ざめていた。
「そ、それじゃ次はこの国が狙われるんじゃ!!」
「それは時間の問題とも言えます。俺が来たのは昨日ですがあの子が捕まったのは当然もっと前でしょ?となれば案外早くこの国に攻め込んでくる可能性は高いです」
「そんな事になったらこの国は滅んでしまう!この図書館も無事で済むかどうか!」
「俺の中の解決案はあの子を早く健康体にして親に帰す事です。その前に親が来てこの国を半壊させるか、俺の方が間に合って被害が出る前に親元に帰せるか……あった」
俺の記憶は間違っていなかったらしい。
この本に書かれているとあるドラゴンの特徴とあの子の特徴がほとんど合致する。
副館長もこのページを覗き込み、さらに顔が青から白っぽく変わる。
「ま、まさか君が育ててるドラゴンがこの?」
「恐らくですが。体長以外はほぼ合致、このドラゴンの幼体については書かれていませんがおそらくこのドラゴンでしょう」
生物学的名、エレメンタルフレイムドラゴン。
生息域は自然豊かな活火山の近く。ルビーの様な鱗を持つ。
多種多様な炎に関するドラゴンがいたため、特殊な個体と思われる。
おそらく炎に関するドラゴンの長的な立ち位置にあると予想される。
食事量は意外な事にファイヤードレイクより少くない程、休んでいる際に遠目からの観測ではあるが鱗が輝き、炎の精霊の類が多く見かけた。
よって食事による物理的補給より精霊の様な自然エネルギーを吸収していると予測する。
これが俺が予想するあの子の種族名。
精霊の存在は確認できていないが確かにあの子が寝ている間に鱗が輝いていた。
てっきり太陽に当たっていたから輝いていたのかと思っていたがどうも違ったようだ。
そんなに詳しく書かれている訳ではないが基礎知識としては充分だ。
確か精霊の自然エネルギーは自力で吸収出来るはずだが……
そう思い素早く動く。
本を元の場所に戻し、副館長に礼を言う。
「ありがとうございました。これで少しは対策が取れるかもしれません」
「く、国に報告しないと!!」
「それは待ってください」
慌てている副館長に待ったをかける。
「どうしてだね!?この案件はいくら君でも大き過ぎる事実だ!素直に国と協力して」
「恐らく国に言ったらあの子を健康体ではない状態で適当に逃がします。焦りが大き過ぎて間違った判断をした場合この国は直ぐ滅びます。そうなったらこの図書館も無事じゃ済まないですよ?」
「ならどうやって!」
「まずあの子を健康体にまで戻します。その後は国と協力して王都から離れた場所で親と会わせます。あくまで俺達はあの子を保護したと分からせるためです」
「そんな事出来るのかい?いくらドラゴンの知性が高いからと言ってそこまでの事を判断できるとは思えないが……」
「俺の想定が正しければ人間より知性が高い可能性もあります。何よりあの子は俺に懐いている。それに運よく放した後、親と出会ったとしても俺たちの事を敵としてあの子が親に言った場合、結局この国にドラゴンの怒りが降りかかります。俺が来るまではクズ共が育ててた訳ですから」
そういうと困ったようにうんうん唸りだす副館長に俺は言う。
「報告するとすればあの子を追いかけてきているというという事実だけです。種族などは口に出さず、あの子を取り返しに来たから体調が直り次第親と合わせる様にする。っというのが俺が考えたシナリオです。なので俺は少しでもあの子が早く元気になる様世話をします」
「そ、そうだね。君に出来るのはそのドラゴンの世話だろうし、私に出来る事はないだろうからね」
「十分していただきました。お陰であの子がどこの子か分かったんですから、後は俺の仕事です」
俺が礼を言うと少しでだけ落ち込んでいるのが直ったらしい副館長と分かれ、俺はあの子の元に急いで帰るのだった。