次の山調査中
次の日。
俺とルビー、ドラバカとキュイで今回は村の先にある山で調査をしている。
食料などが豊富な様で栗が落ちていたり、桑の実も十分に落ちている。食料と言う面で見れば十分に熊が居てもおかしくない環境だ。
だが熊が行ったと思われるマーキングの後の様な物は見当たらない。爪で引っ掻いた後も、木の高い所に行ったマーキング跡すら見当たらない。
「あ、あそこにカリュドンの家族が居る!それに岩猿も!」
その代わり森に棲む魔猪種のカリュドンやニホンザルに近い岩猿など希少な動物や魔物を見る事は出来た。
カリュドンは魔物の猪の総称で結構広い意味で使われる事が多い。より細かく言うとちゃんと種族名はあるのだが、ほとんど総称の名で言われる事が多い。
特徴は子供で既に1メートルを超え、大人になれば2メートル、そして野生で生活しているカリュドンの体毛は銃弾では傷付かない事で猟師にとても重宝されている。
岩猿は見た目は普通の猿と何ら分かりないのだが、岩のように頑丈と言う事からそう言われるようになった。
見た目はニホンザルに似ていて尻尾はとても短く、水などを恐れない。
動物園の様な保護施設で人気の高い動物の1種だ。ただし常に10匹以上の群れで行動しているので野生で出会った場合はとても危険である。
これだけでも十分貴重なのだが狙っている熊は見つからない。
他にもリスだったり虫だったり生物がいる事はいるのだが……熊はいねぇな~
「もう少し上の方探してみる?それとも川?」
「川の方がいいんじゃないか?テントがある川にもサケはいたし、タンパク質を取ると言うのならサケを食ってる可能性もなくはないだろうからな」
という訳で今度は川を探して歩きまわる。
野生の山ブドウなど実っている点を見ると、この森はテントがある森に比べてかなり豊かなようだ。
木の実に小動物、様々な生物が暮らしていけていると言う事はそれだけ豊かな証拠である。
川にたどり着くとそこにはすでに死んだサケが岸辺に居た。
食べられたと言うよりは産卵がに力尽きた個体だろう。ルビーは川から拾ってじっとサケを見る。
「ねぇマスター。これ食べちゃダメ?」
「食べちゃダメだな。と言うか食べてもおいしくないと思うぞ?」
「え、何で?」
「サケの雌は産卵のために卵の方に栄養を取られてるだろうからな。その後力尽きたんだろうから、栄養はそんなにないんじゃないかな?」
「ふ~ん。それじゃ食べるの止めよ」
そう言ってルビーはサケを川に戻した。
そしてまだ産卵していないサケを指差しながら俺に聞く。
「それじゃあっちは美味しい?」
「多分美味しいだろうが……止めといてやれ」
「何で?」
「どうせ産卵したら力尽きて死ぬんだ。なら次世代のために捕まえずにいてやろう」
それに細かい事を言うと人間は川のサケを食べてはならないという法律がある。
食べていいのは川に戻る前のサケだけ。食いたければ海に居る間に捕まえろっと言う事だ。
川に帰ってきたサケは自然に棲む動物の物と国際機関が決めたルールなのだから破る事は出来ない。
破った場合は確か……2~3年間投獄だっけ?
まぁ人間が食料を独占しないための魔物使い協会で定められたルールらしい。
「そっか、子孫を残すために戻って来たんだもんね。できるだけ生かしておいた方がいいか」
「そう言う事。腹減ったなら飯にしよう。ドラバカはどうだ?」
「ちょうどいい時間帯なんじゃない?キュイもお腹減ったみたいだし」
「キュ~イ~」
キュイが腹を抑えるのだから昼飯だ。
リュックからブルーシートもどきを敷いて弁当を出す。
今日は俺が作ったスタミナ弁当(女性からは不人気なほど高カロリー)だ。
冬に差し掛かっているこの状況では寒いだけで体力を削られる。なので身体に吸収されやすい高カロリーな食べ物が良いのである。
「これ美味しいけどちょっと不安になるのよね。このお弁当」
「寒い中フィールドワークしてんだから問題ないだろ。ルビーとキュイはカロリーなんて気にせず食べているぞ」
なおルビーとキュイの弁当のカロリー計算は完璧である。
カロリーだけではなく野菜などの栄養管理、食べ合わせによる効率的な栄養の吸収。様々な視点からみたただカロリーが高いだけの弁当ではないのだ!!
ちなみに俺とドラバカの弁当の中身はルビーと全く同じである。だって人に寄って弁当の中身変えるの面倒じゃん。
「んぐんぐ。やっぱりマスターのお弁当美味しい」
「ンギュンギュ」
「ほらルビーもキュイも夢中になって食べてるぞ。美味い事は善だ」
「それは分かるけど……学生時代マスターの料理被害者達で溢れた事忘れてないわよね?」
「え?そんな事あったけ?」
「あったわよ!!魔物研究発表会で、『露店やるから味の確認に頼む』って言ってほとんどの女子のた、体重が……」
「あ~あの理不尽に怒られたあれか。と言うか研究内容は知ってたろ?生物における栄養素の効率的な吸収方法って。体重増えたのは動かないからだ」
「美味しくて身体にどんどん吸収されて溜まっていったのよ……おかげで冬のダイエット合宿が実は学校の裏で行われていたぐらいだったのに……」
涙を浮かばせながら言うドラバカにもう1つ思い出した事がある。
「確かその後俺が菓子作ってやったらリバウンドしたー!!って叫ぶ前の事か?」
「その影響で第二次ダイエット戦争が勃発したのよ。なかにはパートナーを背負ってランニングする猛者も居たわ」
「それって絶対あれだろ。ゴーレム背負ってランニングしてた子」
学生時代は全員寮制だっただが、冬場に完全防寒していた誰かがゴーレムを背負ってグラウンドを走っている光景を何度か見た事がある。
そうか、あれは過酷なダイエットだったのか……
「マスター、ダイエットって何?」
「女性に気を遣わずに言うなら無駄な脂肪がついて重くなっちゃったからその脂肪をなくそうとする行動だ」
「へ~」
「あんまり興味なさそうだな」
「だって私太った事ないもん。よく分かんない」
まぁ若い内はそんなもんか?
それにルビーはドラゴンだから代謝も高そうだし、意外と太らないのかも?
そう思っているとドラバカとキュイから不穏な空気を感じた。
その空気にルビーもびくりと身体を震わす。
「ルビーちゃん。マスターのご飯を食べてたら確実に、太る」
「キュ~キュキュ~」
「それに太ってないって言ってもそれは野生で狩りをしていた頃の話。仮をせずマスターの美味しいご飯ばっかり食べてると、いつの間にか………………あのしつこい連中がやって来る」
「キュイ、キュキュ~イ。キュ~」
ま、まさかキュイも俺の飯で太ってたのか?
そう言えば魔物用でキュイに試食させまくってたかも。確か当時の売り文句は……ドラゴンも気に入る魔物向け食品、だったか?
ルビーはどんどん鬼気迫る表情で迫ってくるドラバカとキュイによってブルーシートの端まで追いやられた。
やっぱり女に体重の事とか話したらアウトなんだな。
「マ、マスター。私ダイエットした方がいい?」
「ダイエットって言う程ではないが、ある程度は動いた方がいいんじゃないか?最近この森の中歩いてるだけで運動になってるか?」
そう聞くとルビーは黙り込んだ。
確かあの屋敷テントの中にトレーニングルームみたいなのなかったかな?流石にルビーが元の姿のまま運動できるとは思えないけど、人間型ならどうにかなるんじゃ……
そう思っていると、ガサガサと音を立てながら何かが草むらから出てきた。
出てきたのは子熊だ。黒い子熊でとても幼く見える。
可愛いな~っと思いながらも俺の方から近付かない。いくら幼いと言っても熊である事は変わらない。それに親熊が出てくる…………出てきたな。
小熊を追って出てきた親熊は圧巻のサイズと言って間違いない。立派な母熊だ。
小熊の方は俺達の弁当の匂いにつられて来たのか、頻りに周囲の匂いを嗅いでいる。
俺はそっとドラバカの前に動いて俺でドラバカの背を隠す。
「ドラバカ、熊が出た。こっち向け」
「え、本当?なら動かないと」
熊……と言うか大抵の肉食動物は背を向ける動物を襲う。
なので背を向けているドラバカがいつ襲われてもおかしくない状況と言ってもおかしくないのである。
それから正しい情報として熊の前で死んだふりをしても意味はない。前にも言ったが死肉も食べるので死んだふりをしている間に食べられてもおかしくない。
食われたくなかったら背を向けずにそっと去る。これが熊対策の基礎だ。
小熊は匂いを嗅いでいる間に俺達の方に寄ってきた。
どうやら本当に俺の弁当の匂いにつられて現れた様だ。母熊の方は俺達人間を警戒しているが小熊の方は幼いせいか不用心と言える。
子熊は俺のすぐ前、ドラバカの食いかけの弁当の匂いを嗅いで食べ始めた。
冬ごもりの前とは言え人間が調理したもの食べて大丈夫か?いや、ルビーやキュイが食べても大丈夫な魔物飯ではあるけど。
最終的に俺達は熊に襲われずに済んだ。
俺達の弁当を食った子熊は満足したのか森の中へ帰って行った。
母熊はそれを窘める様にしている様だが、小熊は気にしている様には見えない。
ともかくとても意外な形ではあったが、この山にクマが居る事は判明したのである。




