秘境までもうちょっと!
長い汽車の旅が終わってようやく享に着いた。
ここは今日の首都、鵬椀。ここから更に移動して辺境に向かう。
ちなみにここからは少し歩いて川を目指す。
辺境に向かう馬車はなく、辺境に向かうのなら歩いて行くより船に乗って川を遡って行く方が何かと楽なのだ。
そしてここでも登場、次女製ゴムボートもどき。
もどきと言う理由はこれは本当のゴムで作られたわけではなく、どっかの魔物の唾液と混ぜて作った新素材だからだ。
材料だけを聞くといや~な感じがするが仕方がない。
これ以外に自前で船を用意する手段がないのだから。
「マスター大丈夫?」
「ん?大丈夫だ。俺よりも野良猫の方が大変そうだけど」
ボートの大きさは一応10人までは乗れるようになっている。
だがこのボートを漕いでいるのは俺、マダス、ドラバカ、野良猫の4人だ。
4人同時にボートを漕ぐのは意外と難しい。息を合わせて前に進むという行為がとても大変だったりする。
そして体力が1番ない野良猫が汗水流して頑張っているという訳である。
側に居るリーパが野良猫を励ましているのが唯一の救いか。
「ティナ大丈夫か?」
「まだ、大丈夫。まだ……行ける」
行けるようには全く見えない。
俺はため息を付いてから提案する。
「シルフィ、キュイ、ちょっと力貸してくれないか?」
「何するの?」
「キュ?」
「シルフィには追い風を起こしてもらいたい。キュイにはブレスでエンジン代わりになってもらいたい」
シルフィの方は大丈夫だろうがキュイの方は少し難しいだろうな。
キュイはまだまだ子供だし、長時間のブレスなど無理だろう。
「ちょっと!キュイに長時間のブレスは無理よ!」
「分かってるってドラバカ。だから弱いブレスを出してくれればそれでいい。あくまでもキュイは補助、漕ぐのは俺達で頑張るから」
「まぁ……それなら大丈夫かな?」
「あ、それなら私がする!私のブレスでこのボートを動かせばいいんでよ?」
そう言ってルビーはボートの後ろの方に行く。
仕方ないなっと思いながら俺はルビーを手伝う事にしよう。
「分かった。でも俺も手伝うから少し待ってな」
「手伝うってブレスを出すだけだよ?」
「契約状態で攻撃する際、人間側は力の方向性とか収縮性とか色々サポートできるんだよ。それでルビーのブレスを細くて長い状態に俺がフォローするから」
「うん分かった。マスターはブレスの形を変えるって事だね」
「まぁそんな感じだ。それじゃ息を合わせるぞ」
ルビーの力を制御しようとすると背中がほんのりと温かくなる。
これがルビーの魔力であり、俺とルビーが繋がっている証拠だ。
その温かさに少し浸っていると、あれ?ちょっと魔力多くね?
俺はドラバカに慌てて言った。
「ドラバカ!細かい舵はお前が取れ!!マダス!お前はシルフィに魔力制御頼む!!野良猫はオールをしまった後、俺とドラバカの舵について細かく教えろ!!」
「わ、分かった!」
「え?どう言う事?」
「ちょっと説明してよ!」
細かく説明している暇はない!!
すぐに対応できたのはマダスだけで、野良猫とドラバカはもたついてる!
早くしろ!!思っている以上に魔力が溜まってる!!
「マスター、もういい?」
「もうちょっと待って!準備できたか!?」
「俺とシルフィは大丈夫だ!」
「こっちも終わった!」
「私も!」
返事が返って来たので俺はルビーの顔の隣で人差し指と中指でブレスを出す方向と角度をルビーに教える。
「ルビー、俺が指差してる方向と角度でブレスを出すんだ」
「分かった。それじゃ行くよー!!」
「ちゃんと掴まれよお前ら!!」
そう言った直後、ルビーの口からとんでもない量のブレスが発射された。
瞬間ボートはとんでもない速さで走り出したのだった。
-
「……お~いお前ら、生きてるか?」
「「「………………」」」
返事がない。ただの屍のようだ。
「えっと……マスター。私やり過ぎちゃった?」
「まぁ……そうだな。でもお陰で何日も漕いで移動するはずの移動が大分短縮されたし、これはこれで大丈夫じゃないかな?」
ルビーのブレスを推進力に変えるために細く、長く、爆発を起こさないように調整したのだが上手くいったようだ。
しかしこれはシルフィが風を操作してくれたおかげで、爆風とも言える風を受け流してくれたし、キュイもそれに参加して俺達の身を守ってくれた。
そしてリーパはキャットシーの幸運を使ってくれたおかげがどこかに乗り上げるという事もなく進む事が出来た。
今回は全員の力が合わさった事によりできた成功だと俺は強く思う!!
その代わり全員気力を使い果たしたようだ。
今ボートを漕いでいるのは俺とルビーであり、あと全員ボートの真ん中で屍の様になっている。
そんな様子にルビーは落ち込んでいる。
「ごめんなさい……」
「謝る事はないって。でもどうしてあんなに魔力を集めたんだ?目算違えたか?」
「う~ん。なんでだろう?何というか、いつもより調子が良くて……集めすぎちゃった?」
これは……後で調べておいた方がいいのか?
ただの成長なら良いが、そうでない場合一応調べてみた方が良いかも知れない。
今回みたいに力が上がるなら問題は少ないかも知れないが、いざって時に力が出ない。何て事態になったら大問題だ。
今日はこれ以上無理に進む必要はない、どこかで休むとしよう。
丁度ボートを着けられるところがあるし、そこまでボートを漕ごう。
俺とルビーでみんなが乗ったボートを引っ張って近くの太い枝に縛る。
これでボートが流される事はないはずだ。
そのまま俺とルビーでいつもの屋敷テントを建てる。ルビーもこの手伝い上手になったな。
そしてボートの上でぐったりしていた3人と3体は起きてすぐ俺に怒鳴った。
「「「マスターのバカ!!」」」
「バカー!!」
「ふー!!」
「キュイキュイ!!」
「お、おう。ごめん」
「ごめんなさい……」
「あ、ルビーちゃんは今回何の問題もないから。今回はマスターだけの責任だから」
え、嘘だろ!?俺だけの責任!!
野良猫がそんな事を言う。
俺があんまりだという前にドラバカが俺に言い詰める。
「マスター。今回の事の原因分かってる?」
「原因って……成長による威力の上下を調べてなかった?」
「そうじゃねぇよ。今回のマスターの失敗はルビーちゃんの魔力制御が出来ていない事だ」
「え?……あ」
そんな間抜けな声が俺の口からこぼれた。
契約した魔物の魔力制御。これは学校で1番最初にならう授業の1つだ。
契約相手によっては大きな魔力を持っている事がある。
一般的にそれは精霊だろう。マダスがシルフィに力を借りる時の様にそれを利用して調理したり、戦ったりと多岐にわたる。
その授業を俺は座学しか受けていないし、仕方がない。
その理由は単純明快。俺に契約したパートナーがいなかったからだ。
ティムしたパートナーがいない状態で入学してきたのは学校で俺1人。それが原因でちょっと問題になりかけた事もあるがそれは置いておこう。
それは歴史ある母校であっても初めての事。普通はティムしたパートナーがいる者が入学してくる事が当たり前となっているからだ。
その入学する際に、ちょっとした駆け込み寺の様になっている理由はこのパートナーの魔力制御が原因である者が多かった。
精霊でなくても下位の天使、悪魔なんかと運よく契約できてしまった場合によく起こる。
意識していないのにパートナーの攻撃魔法が大きくなり過ぎたり、逆に小さくなり過ぎてしまったりする事があるのだ。
今回ルビーのブレスを制御できなかったのは俺が原因だろうとマダス達は言っているのだ。
そう言われると……反論できません。
なので大人しく言う。
「申し訳ありませんでした」
「はぁ。こういう時は素直なんだよな……」
「逆に納得できないときは徹底的に口論するけどね」
マダスと野良猫が言う。
あ~これからルビーの魔力制御も頑張んないとダメか。
旅をしながら頑張りますか。




