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まだ車内です

 きょうへの列車の旅はざっと5日はかかる。

 その最大の理由は帝国を避けているからだ。


 俺が生まれ育った王国と帝国はとても仲が悪い。

 王国は長い歴史のある国なのだが帝国は違う。元々は小国で貧しい国だったのだが、周囲の国を侵略して少しずつ大きくなってきた国なのだ。

 今の形になったのは約130年前。その後は領地拡大の戦争は行われていないそうだが、それでも多くの国を飲み込んでいった軍事国家という根底は変わらない。


 それにより歴史ある国から見れば野蛮な国と言われる事も多く、飲み込んでいった元他の国の領民たちは今でも根に持っていると聞く。

 内外からの脅威から身を守るために帝国上層部は今でも軍事強化に力を注いでいる。

 しかもそれは魔法と科学を混ぜたような物であり、どう考えても俺の様な転生者の知識が混じっているように感じた。

 その強力な軍事力に他国は口を出す事が出来ず、帝国が手を上げようものならその国は一夜で更地になるとまで言われている。


 そして列車の技術に関しては王国と帝国が競うように作り上げたのだが、王国が先に完成させ世界中にレールを敷き世界規模での流通や移動が楽になった。

 ただしこの列車は帝国を領地を通ることは出来ず、帝国を避ける様にレールを敷いたのでどうしても享に行くには回り道をしてしまう。

 王国は最初は帝国もレールを敷きませんか?色々便利になりますよ?っと言ったのだが帝国はそれを突っ返したというが本当なのだろうか?


 とにかく帝国と王国の中が悪いので列車も回り道するしかないので享に行くには5日はかかるという訳だ。

 そして今日は3日目、ルビーが列車の旅に飽きてきた頃。車内販売で売られていた新聞に目を通していたドラバカが急に声を上げた。


「ちょっとこれ見て!!」


 なんだなんだと俺達が新聞を覗き込むと新聞の一面にデカデカと書かれていた。


『ゲシュタル・ゴール・クラウン様!皇帝に即位!!』


 それを見て俺はデカい声で言ってしまった。


「え!?あのバカ、皇帝になっちゃったの!!」

「し、仕方ないわよ!現皇帝、じゃもうないのか。前皇帝の子息はあのバカと今年で5歳になるアーサーしかいないんだから仕方ないわよ!!あと全員女性だし」

「だからって……ええ~」


 デカデカと写真に写るバカの傲慢な表情を見ながら俺は頭を抱えた。

 あんなバカでも即位できるんだ……あのバカが……あのバカがか…………


「えっと?この人間誰?」


 当然ルビーは知らないので俺達に聞く。

 俺は呆れながら答えた。


「こいつはゲシュタル・ゴール・クラウン。質の悪い方のドラバカだ。よくこっちのドラバカに求婚してた」

「その話本当に止めて。思い出しただけで虫唾が走る」


 誰に向けられている訳でもないのにドラバカから漏れ出る真っ黒なオーラにルビーもビビッている。

 ルビーは小声で改めて俺に聞く。


「アイリアがあそこまで怒るって何したの?私がマスターに抱き付く時以上なんだけど」

「あ~学生時代の時なんだがな、そこで初めてこの成金に会ったんだよ。そん時にそれはそれは酷い告白とも思えない告白をされたり、金銀財宝持ってきたり、デートに誘ったり、夜這いかけられたり色々したんだよ」

「好きでもない雄に?それは同情する」


 ルビーも経験があるのか凄く嫌そうな顔をした。


「しかも夜這いかけられた時は全裸だったって話だぞ。よくトラウマで済んだって話だ」

「それって交尾する寸前って事?うっわ~~女の敵でしかない」

「だから色々と嫌われてるんだよ。しかも学生時代には既に帝国内でハーレム作ってたらしいぞ?確か……成金同様にドラゴン使いの女の子限定って言ってたか?」


 確認するようにマダスに言うとマダスは首を縦に振った。


「ああ、よくそう言って自慢してた。確か『我が国に戻れば愛妾たちがこぞって我に媚に来る。お前達が一生かかっても触れる事も出来ない様な者達だ。ついでに言うとお前達が虚しく妄想している様な熟女から幼女まで幅広くな!さらに言えば全員我と同じドラゴンに選ばれし者達でもある』だったか?」

「よくそんな長台詞覚えてたな。確かにそんな感じの事言ってた」

「しかもあいつ差別が酷くってな……ドラゴン使いは認めてるがそれ以外は雑魚程度にしか考えてなさそうだ」

「あいつ本当に嫌い。精霊達からも超不人気!」


 シルフィーからも嫌われてる。

 いや、精霊全体かも知れないか?あいつドラゴン以外本当に嫌っているというか、格下として見ているというか……何と言うか……


「ちょっと、これ不味いんじゃない?享って帝国の息がかかってる国なんでしょ?そんなところにアイリアを連れて行くって……」


 野良猫も不安そうに言う。

 そう言う意味では確かに不安だ。まさかこんなにも早く皇帝になるとは思ってなかったし、と言うか何で皇帝になれたのか謎だし。


 まぁ性格や言動に目をつむれば優秀なのは確かなんだよな……

 頭は良いし、リーダーシップもある。一応ドラゴンにも認められているから実力もあるんだろうな……

 でもあの言動がな……いいとこ全部潰してるんだよな……

 あれ?そういやあいつの相棒の契約内容って確か――。


「私は行くわよ。こんなくだらない奴を気に掛けるのも無駄だし、頭の片隅にも置いておきたくない。来たら潰す」

「お~久しぶりにドラバカとキュイの本気が見られるのか?それそれで恐ろしそうだ」


 俺がからかうように言うとマダスと野良猫は苦笑いと言うか、ひきつった笑いを浮かべる。

 ルビーはどうしてそんな表情をしているのか分かっていないが、まぁ分からないなら分からないままの方が幸せだろう。

 なんせドラバカとキュイのコンビはかなり強いからな。


「例えそうなったとしてもきちんと決闘を正面から叩き付けるつもりだから安心して。ドラゴン使い同士の決闘となれば余波だけでも相当な被害が出るだろうし、と言うか先ずドラゴン使い同士が戦える場所を探すのも大変そう」


 ドラバカは堂々と答えた。

 俺はそんなドラバカを見てちょっと安心した。

 例の夜這い事件の際にかなり大きなトラウマになってたからな、引きずっていない訳ではないだろうが闘志として燃えているのなら大丈夫だろう。

 そしてドラバカは今度はルビーを見て俺に警告する。


「それよりもマスター、あんたも気を付けなさいよ。あいつはドラゴンコレクターでもあるんだから」

「知ってるよ。あいつの悪趣味の1つだ、檻に閉じ込めたドラゴンが一体何がいいんだか」

「ドラゴンコレクター?」

「成金の趣味だよ。金に物を言わせてバカデカい檻の中にレアなドラゴン達を飼い殺してやがる。名目上は希少なドラゴンの保護、繁殖を目的とした施設と言われてるが、俺から見りゃただの檻だったよ」


 端的に言えばドラゴン限定の動物園の様な感じだ。

 檻に入れられてる訳ではないが所詮は施設、天井は存在するし、壁だって存在する。

 その中で生きるのは野生の事など忘れ切ったかのように食っちゃ寝を繰り返すドラゴン達。

 野生の世界で生きる事が幸せではないだろうか?っと考える俺にとってその理想郷は俺の考えとは真逆と言っていい。


 そりゃ病気の危険性やエサがとれずに餓死する心配もない。野生の世界で生きるよりよっぽど長生きできるだろうし、すると言えば一定周期で来る繁殖期ぐらいだ。

 これが正しい生物の生きる様なのだろうか?ただただエサを与えられ、長生きと繁殖の目的以外ろくに動かないドラゴン達。

 本当にこれでいいのだろうか?

 そう言う疑問が頭の中でグルグルと回り続ける。


「……気に入らねぇな」

「そんなに悪い所なの?」

「悪いと一方的に言えないが、個人的に好きじゃない。怪我をした、病気をした個体を保護するって所までは理解できる。でもな、そのまま野生の世界の事を忘れるまで檻の中に入れておくのは…………なんか違うって思うんだよ」


 成金がやっている事の全ては否定しない。

 でもそのまま飼い殺すのではなく、再び野生の世界に飛び出せる手伝いをするのが正しいのではないかと俺は思う。

 難しい事なのは分かるがそれを目指さなければならないと思う。


 これは俺の我儘なのか、正しい事なのか分からない。

 きっと様々な人から見れば様々な答えが返ってくるんだろうが……きっとこれという明確な答えはないんだろうな。

 俺は汽車の窓から外を眺めながらそう思った。

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