向かうは享!!
きちんとお断りしない俺が悪いのだろうか?王妃の家の娘をもらってくれませんか攻撃を避けながら次の日、俺達は享に向かうために駅に到着した。
ここには流石に国王と王妃はおらず、ドラバカの姉達とそのパートナー達が見送りに来た。
ドラバカは姉達1人ずつと抱き締め合い、別れを惜しんだ後俺に言ってきた。
「アイリアに手を出したら我が国の軍部が黙ってはいないでしょう」
「……お母様は許してるけど、まだ私は認めてない。……魔道具の修復の時は研究室に来て」
「アイリアの事ちゃんと守りなさいよ!助手だからってほったらかしたら承知しないんだから!!」
「お姉さま達ったら……今回の事件、共に解決していただきありがとうございました。享に行くのですからこちらを持っていた方がいいですよ」
そう言ってエルノから渡されたのはお守りだ。前世ではよく見た日本のお守りによく似ている。
ただこのお守りから何かの力を感じる。ただのげん担ぎではなさそうだ。
「このお守りの中に麒麟の髭を入れてあります。もし他の麒麟にあった時はこれを使えば話ぐらいは聞いてくれるかもしれません」
「そりゃ助かる。麒麟さんもありがとな」
『なに、自然と抜けた髭を渡しただけじゃ。それからそのお守りはエルノ様お手製なので無くさない様に』
お~。王女様お手製か。ご利益うんぬんは不明だが人によって妬まれるほどの代物だろうな。
俺はそのお守りをリュックにしまった。
お守りを身に付けるのは享についてからでいいだろう。王国から享までは結構時間が掛かる。
そして俺はエルノと握手をした。
「俺こそありがとうな。船の準備や人魚を送るとなると俺1人じゃあそこまで素早く動けなかった」
「こちらもマスターが居てくれたおかげで迅速に人魚の治療や心を開く事が出来ました。上手くいけば人魚とも友好的な関係を築けるでしょう」
何てやっていると他のドラバカ姉妹、ドラバカ、ルビーが俺達の事をじっと見ている。
あれ?なんか疑われてる?何でこう女って生物は何でもかんでも恋愛事に繋げたがるんだろう。
そんな気は全くございません。
「それじゃまたその内。ラファエルさん、女王もまたな」
「またお会いできる日をお持ちしています」
「……バイバイ」
「あら?私だけ放置プレイ?もう~マスターのドS」
変態は無視してラファエルさんと女王に手を振った。
麒麟さんは尻尾を振っている。
俺は既に乗り込んだマダス、野良猫、ドラバカ、ルビーの後に続いて乗り込んだ。
そしてすぐ列車は走り出し、窓を開けて姉妹達とそのパートナー達の姿が見えなくなるまで手を振った。
そして俺は隣にいるルビーに聞いた。
「ルビー、酔いは大丈夫か?」
「うん。馬車よりも大きいし、汽車の中ならのびのびできるから嫌じゃないよ」
「そうか。ならよかった」
一応ドラバカの別荘にいる間に酔い止めを用意しておいたんだが不要ならそれに越した事はない。
「にしても享で新月熊の調査か、厳しい調査になりそうだな」
「地元の人の協力があれば問題ないだろうが、友好的じゃないパターンが多いからな~。特に閉鎖的な所であればある程な」
マダスの言葉に俺は頷く。
何度か国外で調査する際に地元の人達に襲われた事がある。ハンターではないという証拠として魔物使い特級の免許を見せるのだが、それが効果あるとは限らない。
一応国家試験の1つではあるのだが、発展途上国、遠すぎる外国、国際的な関係でない国などでは知られていない事が多い。当然交流会だとか魔物の研究発表会や、論文の発表会などでは通用するが俺の場合はフィールドワーク。そんなの関係のない地元の人との関係によって大きく変わるのだ。
そして今回向かう享そのものは大国と言ってもいい程なのだが、都市から離れているほどまだまだ免許などの部分ではあまり知られていないと聞く。
もしそれが本当だった場合、素直に研究に協力してもらえるかどうかは地元のみなさん次第だ。友好的でない場合攻撃される事もあったからな。
逆に協力してもらえる場合はとても力強い味方になる。地元民にとって近くの山は恵みの象徴であり、場合によっては信仰の対象になっている事が多い。
この世界で宗教的な強者があまりいないのはその影響だろうな。
一応世界一の宗教はラファエルさんが所属する宗教だと言うが、世界シェアだけで言うと1割あるかどうか。世界でどの宗教を信仰しているかと聞くと、その他が7~8割ほどなので正直微妙だ。
まぁとりあえず民間信仰と言うべき地元の神様を信仰する者がとても多いのである。
「今回はどんな歓迎をされるんだが。ゲテモノはしばらく食いたくねぇな」
「だな~。でも田舎とは言え享だし、そこまで変な物は出ないだろ?」
「いや、何が出るのかは注意した方がいい。最低でも病原菌を持ってるブッシュミートだけは避けないとな」
「それ本当に最悪の場合じゃないか?言いたい事は分かるけど」
俺の言葉にマダスも神妙な顔をする。
その言葉にドラバカと野良猫は信じられない物を見たような表情をした。
ルビーは俺達の顔を見てから言う。
「マスター、マスター達は何を嫌がってるの?ブッシュミートって?」
「ブッシュミートって言うのは野生動物の肉って意味だ。簡単に言うと家畜とは違う、野生の世界で得た肉だ。地域によっても違うが……ブラッティーホーンの様な野生で生きる牛、シカ、ネコ、イヌ、サルとか様々な野生動物の肉の総称だ」
「それ……普通の事じゃないの?」
俺と出会う前は当然野生動物を捕まえて食べていたであろうルビーにとって普通と言うのは当然だろうな。
でも裕福な国で育った俺達は違う。
「地元民にとってはな。王国や帝国の様な裕福な国じゃあまり食べられてないが、逆に貧富の差が激しい国じゃよくある話だ。金のない人間は動物や魔物を狩って食っていれば、金のある人間は外国から肉を買って食ってる。高くても安全な肉をな」
「ん?安全ってどう言う事?」
「例えばだが学生時代にとある国が滅びかけてな、その理由は病気に感染している事を知らずに食べたブッシュミートが原因だと結論付けられた。その国じゃ王国みたいに畜産は発展しておらず、安全ではないが手に入りやすいブッシュミートを食べ続けたのさ。結果ブッシュミートを食べた国民のほとんどが死亡。しかもその野生動物に感染していた病気に感染したら100%死ぬって言われるぐらいのヤバい病気だったことも重なってほとんど死んだって事件があったんだよ」
「本当にほとんどの人間が死んじゃったの?どれぐらい死んじゃったの?」
「確か……2万は死んだっけ?」
驚いているルビーに俺は大雑把な数字を思い出しながらドラバカに聞く。
こう言うのはドラバカの方が詳しいはずだ。
「約15800人は死んだわよ。その後の食力供給でウティア姉さまが苦労してたからよく覚えてる。それにその国の現状の悲惨さもね」
「悲惨?」
「その国は発展途上国って言われてて、私達の王国の様にみんな安全な食べ物を食べれてる訳じゃないの。だから病気に感染している動物の肉でも食べないと死ぬ。でも野生動物の肉が原因でその事件が起こった事を知っていても彼らは感染した動物を食べ続けたわ」
「え?人間は弱いんだから当然死んじゃうよね?何で食べるの?」
「食べ物がないから、よ」
王族として何か感じる事があるのかも知れない。
それに彼らは生きると言う原始的な目的のために魔物も仕留めて食べていた事が判明した。
それにより魔物と共に生きる国のほとんどがその国を非難した。だがその国ではそれが普通の事であり、改善しようにも出来ない問題でもあった。
他の国々が事件をきっかけにその国の事を調べ始めたのだが、国民の6割~8割がブッシュミートによって食料を得ていた。畜産どころか野菜などを作る農家すらほとんどおらず、作っているのは地位の高い者達のために作られた施設であり、生産者たちもブッシュミート食べている。
安全な食料は地位の高いものか富豪の口に入る物であり、平民貧民は危険なブッシュミートを食べるしかないという状態だったのだ。
ドラバカの状態を見て野良猫が話を引き継ぐ。
「つまり私たち人間は病気とかにも弱いから安全で美味しい物を求めてはいるけど、その国じゃそれすら出来ない程痩せてたの。今はウティア様が頑張っているけど……かなり大変な状況みたい」
「何で?精霊が協力してれば直ぐ復活できそうなものだけど」
「ほとんどの精霊もその土地を離れてたり、すでに見限られていたりしたんだよ。動物が居なくなって肥料となる動物の糞などが少なくなって木々が上手く育たなくなったり、ミミズみたいに地面の下から土を肥やしてくれる生物すらいなくなってね」
精霊の話が出てきたときにマダスがさらに引き継いだ。
つまり人間による生物、魔物の乱獲が原因で精霊や他の魔物達にすら見限られてその国は一気に弱体化して行っているのだ。しかもそれは今現在も続いている。
病気により人間の数は減ってもまだまだ人間はいる。おそらく今日もその国ではブッシュミートを求めて狩りをしているんだろう。
現状を知った他国も自然の改善、意識改革など色々頑張っている様だがどうなっている事だか。
俺はルビーに向かって纏めて言う。
「多分享じゃそう言う事はないと思うが、それ以来俺の所じゃブッシュミートは避けられてるんだよ。事件が起きる前はそこまで強い忌避感はなかったんだが……それと似た様にパートナーが病気に罹るんじゃないかと避けまくってんだよ」
「うん。なんとなく分かった。つまりその国の時みたいに病気が掛からないよう気を使ってるんだ」
「そんな感じで覚えてくれればいいよ」
実際には人間が野生動物の肉を食べる事も含まれてるんだけどな。
でも地元の人に手っ取り早く仲間になるのはその土地の食べ物を食べる事だと俺は個人的に思っている。
同じ釜の飯を食う的なノリで。
……芋虫系は避けたいな~




