よし。次は山に行こう
なんだかんだでカレーを食ったバハムート。辛いと言いながらも1皿平らげたのだから不味かった訳ではないだろう。
人魚もカレーを食べた後、バハムートはやはりまだまだ子供なのか、カレーを食ったらウトウトし始めており人魚がおぶって帰って行った。
バハムートが来たことは予想外であったが良いアイテムをもらったのだから良しとしよう。
そして外に出したテーブルなどをテントの中に戻し、晩飯を食った後俺達フィールドワーク組は俺の部屋に集まって相談していた。
「てことで第2回、次はどこに行って調査するよ?会議~」
そう言った俺にノリよく拍手をしてくれたのはルビーとマダス、シルフィーだけ。
ノリ悪いな~ドラバカと野良猫は。
「そんでどうする?どっか希望とかあんの?」
「ねぇ、それって私達全員が決めるんじゃなくてマスターが決めるんじゃないの?一応リーダーなんだから」
「そんな事言っても俺とマダスだけならともかく、ドラバカと野良猫が居るんだから多少は相談しておかないとダメじゃねぇの?」
ドラバカの質問に俺は答える。
確かに今まではマダスとシルフィーだけだったので俺の独断で決める事が出来たが、流石にパートナー達を含めて2人と1匹と2体も増えたのだから相談は必要だろう。
それに男だけなら多少の無茶も出来たが女には色々と必要な事もあるだろ?
そう思っての相談なのだが要らなかったか?
俺が首を傾げていると野良猫が手を上げる。
「ちなみに相談なしだったらどこに行こうと思ってたの?」
「ん?あ~一応東の山に行こうと思ってる。前に麒麟さんが教えてくれた絶景の山には――」
「却下!!」
「まだ途中だぞドラバカ」
「それってもしかして享国の山の事じゃないでしょうね?」
「え?まさかまた名前変わったのかあの国?これだから始皇帝の国ってのは面倒なんだよ」
「思いっきりヤバい所じゃないの!!」
享とは麒麟さんの出身地である国の名前である。
前世風に言うなら中国のような国であり、人口や各国からやってくる輸入品を取り扱ってる経済大国だ。
俺達が住んでいる大陸の東側に位置し、広大な土地を所有している。だがほとんどの土地は神や仙人の土地と呼ばれ、人間には立ち入り不可能な山々があると聞く。
その神や仙人と言うのが麒麟さんの様な神獣や妖怪仙人達の事を指す。
彼らはわざと過酷な山々に囲まれて過ごす事により、精霊にも引けを取らない自然の力に等しい力を有する。その正体が麒麟さんが扱う仙術や気術と呼ばれるものであり、精霊の力とはまた少し違った力の正体である。
ちなみに妖怪仙人はこの仙術を使いこなす事が出来る魔物の事を言う。使えない魔物はただの妖怪でしかない。
「え~魔物使いなら一生に1度は行ってみたい所じゃん。麒麟さんの他の麒麟たちにもあって見たいし、それにその土地特有の仙人ドラゴンもいるらしいじゃん」
「それに関しては興味あるけど人間があの山々に入るには、ずっと前に申請を受けないとダメだって決まってるのよ!それにもし入れてもあの針みたいな山をどうやって上るっていうのよ!」
「そりゃ当然自力で」
「ロープどころか登山道具も持ってない素人には行けないって言ってるの!!」
ま~ある程度の装備は当然だが……そんな怒ったように言わなくても……
それじゃ別の案を言ってみる。
「そんじゃ熊でも見に行くついでに秋の味覚狩りでもするか?出来れば新月熊の生態を調べたい――」
「ねぇマスターって私の事バカって呼ぶけどマスターも相当バカよね。誰が好き好んで新月熊の調査をしたがるって言うのよ……」
新月熊とはツキノワグマみたいな熊である。胸元に大きな丸い模様がある事から新月熊と呼ばれている。
本当は満月熊、という種類もいるのだがこの熊と同じ種類であるのかどうかっと言う部分で未だにはっきりと判明されていない。
その理由としては胸のマークが微妙に違うというだけ。
満月熊の満月模様は綺麗なベージュ色の円が塗り潰されたようなのだが、新月熊の円は黒い体毛に円を描くようにベージュ色で描いた様な円がある。
つまり見た目だけで言えばベージュ色の円が塗り潰されているのが満月熊、円をぐるっと描かれているのが新月熊と言う事になる。
この微妙な差は性別説、突然変異説、年食って白っぽくなっただけじゃね?という白髪説などなど、様々な魔物研究家たちが調べているが結局誰も分かってない。
単に新月熊の発見が困難と言う点もあるが、その大半は新月熊のご飯になっているとの噂だ。
新月熊を探しに行って帰って来なかったものはみなそうだろうと言われている。
ちなみに新月熊満月熊共に魔物と扱われている。
理由は体長と寿命である。
遠くから観測した満月熊の体長は平均4m~6m。推定体重400kg~800kg。本当か嘘かは分からないが伝説となっている満月熊の体長は10m近くあったとか。
もしこれらの情報が正しかった場合、普通の野生動物がここまで成長する事はまずないという事により魔物として登録されている。
なんでも崖から落っこちて死んだと思われる満月熊の死体を調べた際に推定36歳と判定されたからだ。
普通の熊の野生の場合平均寿命は20~30歳と呼ばれている。それからたったの6年と思うかも知れないが、野生の世界では十分生きていると言える。
病に侵されれば自然回復を待つか病に負けて死ぬかの2択であり、雌を巡る戦いや縄張り争いなど様々な理由で死ぬのが普通だからだ。
「それなら他にどうするんだよ。相談するとは言え、俺最低でも熊の調査だけはしようと思ってたんだけど……」
「何でそう危険な魔物ばっかり調べようとするんだか……」
「だってろくに論文とかにもなってない魔物って危険な所に住んでるか、危険な魔物かの2択じゃん。それとも他のしょうもない連中みたいに身近な精霊の研究でもするか?」
「普通ならエレメンタルフレイムドラゴンの成体をまとめた論文だけでも十分価値が生まれるけど、そうしないの?」
「ルビーの存在は希少すぎる。もしルビーの存在を知られたらどっかのバカ王子様が食い付いて来る事は間違いなし。そいつからルビーを守り切れるのかと聞かれると自信はない。あの傲慢王子様の事だからありとあらゆる手を使って手に入れに来ると思うからな」
1度ぶん殴った傲慢王子の事を思い出しながら悪態をつく。
あれは大らかな俺でもはっきりと嫌いと言える様な傲慢さにキレて手を出した。それにより国際問題に発展しかけて死刑にされそうにもなった。
だがそこはドラバカ達が全力で擁護してくれたので文字通り首は繋がっている。
ドラバカとはまた違うドラバカで、あっちはかなり質が悪い。
王子様として何不自由なく育ってきたからか我慢と言うものを全く知らないし、王子と言う影響力を持って全て手に入れようとする強欲さも持ち合わせている。
傲慢で強欲。これで達が悪いと言わずに何と言えばいいのか俺には全く分からない。
それに関してはドラバカも黙った。
ドラバカもあの王子の事は嫌いだし、ドラバカ自身あの王子の被害者の1人でもある。
「あ、あれは確かに面倒だけど、今の私達には全く関係ない」
「あのクズ野郎もどういう訳か俺に対して当たりが強かったからな。しかも新聞読めばもうすぐ王になるって話らしいじゃねぇか。そうなったらあいつの欲望はさらに加速すると俺は思うんだがな」
「………………」
「って事でルビーの事を論文にまとめるつもりはない。いずれあのバカの耳に届く事になるとしてもだ、こちらから教えてやる必要はない。それに絶対あいつなら奪いに来る。そん時は立場なんか関係ねぇ。ぶっ殺してやる」
「まぁまぁマスター。今はそれより次はどこを調査に行くか決めておこうよ」
ちょっと熱くなって忘れてた。
結局どこの山に行こうかね?
「それじゃ面倒なので新月熊の調査に行くぞ」
「ってだからその新月熊の生息域って帝国の近くの国だから止めておきなさいって!自分で噂になる様な事はしないって言ったばっかりでしょ!?」
「嫌だい嫌だい!新月熊を見付けるまで帰らないんだ!!」
「アイリア~こうなったらマスターは何言っても聞かないわよ。それに都合よく新月熊が見つかる訳ないんだからきっと見つからないわよ」
「はぁ~~。これじゃ相談じゃなくてただの報告会じゃない」
そう言いながら次は山に行く事となった。
これも一種のパワハラになるんだろうか?




