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世話開始

 この日はドラゴンと共に寝た。久しぶりに寝袋ではなく干し草の上で寝た。

 少し腰が痛いが……この程度なら問題ない。


 ドラゴンは丸くなりまだ寝ている。恐らくあのクズ共によってあまり寝る事すら出来ていなかったんじゃないかと思う。

 本当にクズだなあいつら。


 それにしても、本当に綺麗な鱗だ。前にマダスの付き添いで見たルビーよりも輝いている気がする。

 やはりこの子はファイヤードレイクではない。もっと上位種で滅多に人前には現れない類のドラゴンだ。そしておそらくまだ幼体、そこが厄介だ。


 成体ならこの子だけの問題で済んだかもしれないがもし幼体で親の庇護下に居た場合何が起こるか分からない。

 その先は想像しません。ええ、どうなるか想像つくので想像しません。


「マスター起きてる?」

「ちょっと静かにしてくれ、俺は起きてるがこの子は寝てる」

「……まさか一緒に寝たの?」

「つい温かくて」


 この子の体温が高いせいか干し草の部屋でも温かかった。


「根性あるわね。それからエサの事、解決したわよ」

「助かる。ってかマダスは?」

「あなたの尻拭い、一応私の彼氏の上司とは言えあまり扱き使わないでよ」

「なら昨日のあれ何なんだ?明らかに不機嫌だったろ」


 野良猫が助手君とかってマダスの事を名前で呼ばない時は決まって不機嫌な時だ。

 なのに今日はマダスの事を気に掛けている。


「大丈夫、もう機嫌直ったから」

「そうか?ならいいが」


 どう直したのかは分からないがとにかくまぁいいか。


「それでどうやって食べに行く?一応護送車用意したけど」

「多分狭いだろうからパス。腹は減ってても飛べるだろうから俺がその牧場まで誘導する」

「そう?場所は南に数キロ離れた牧場だけど」

「大丈夫だ。それにお姫様も起きたみたいだ」


 首をゆっくりとあげて大きな欠伸をする。欠伸の際にかるく炎が出たが問題ないだろう。

 特に干し草に燃え移る事もないし。


 檻を開けてドラゴンはゆっくりと出てきた。出てきてまたゆっくりと小屋から出て思いっきり伸びをしている。

 やはり檻の中では何かと狭く感じていたのだろう。


「えっと、それじゃこれから飯を食いに行くわけだが……飛べるか?」


 そう俺が聞くとドラゴンは俺を咥えて大きく翼を広げた。


「え、えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 そして飛んだ。なぜ俺が咥えられたのか不明だが初めての空の旅がこれってかなり恐怖。

 俺を咥えたままドラゴンはホバリングの様に空中で留まる。顔を動かして逃げる先を探しているような感じはない。

 とりあえず俺は声を掛ける。


「あっちでお前の飯を用意してるから行かない!」


 上空に居るせいか風が激しいので大声で言うとドラゴンは素直に南の牧場に向かって飛ぶ。

 南の牧場は主に肉食の魔物エサを育てている。大きくて魔物の好みの味がするという売りの牛や豚が多くいる。

 と言っても生き方が急降下だったので俺は情けない悲鳴をあげながら牧場に着いた。


「あの、大丈夫ですか?」


 牧場の人が俺に声を掛けた。あの子は既に牛を襲って喰っている。

 許可があるとは言え芝生を血で染めるのはいかがなものかと。


「どうにか大丈夫です。それよりすみません、汚しちゃって」

「いえいえ、それもこの牧場の仕事ですから。それにドラゴンがうちの牛を食べたと聞いたらもっといい宣伝になるでしょうからね」


 商魂たくましい方だ。

 と言っても一つ不安な事がある。

 あの子がいきなり大量に肉を食べて消化不良にならないかが心配だ。一応マダスにそれように果物を買ってくるように頼んでおいたが……


「お~いマスター!買って来たぞ!!」


 マダスが木箱を積んだ馬車に乗ってやってきた。恐らくあの木箱の中にあれが入ってるんだろう。

 シルフィに協力してもらっているのか木箱が4つ浮いたまま持ってくる。


「どうだった!」

「お姫様効果で大量に買えたぞ。食費も国持ちだってよ!」

「当然だ。俺らだけであの子の食費まかなえる訳ねぇだろ」


 当然の事を言いながらドラゴンを見る。逃げる牛を追いかけて捕食する姿は綺麗だ。自然の摂理を感じる。

 と言ってもいくら数日食べていないとはいえ、肉だけを食べさせるわけにもいかない。

 一度大声でドラゴンを呼ぶ。


「おーい!デザートの時間だぞ!」


 そういうとの顔をあげて食べていた牛をそのままにこっちに来る。

 俺は4つの木箱を開けて、木箱に入っていた果物を1つずつ見せる。


 果物とはドラゴンフルーツだ。形は前世の物と変わらないが育て方や育てる場所を変えると色が変わる。

 最もポピュラーな赤はよく日に当てる事で赤く熟す。

 青は海岸地域で育ち、ヤシの木の様に海辺で育つ。

 緑はよく肥えた土地にあまり日に当てずに育てると出来る。


 そして最後に黄色が最も栽培が難しい。聖別、水や肥料に全て聖属性の力を使う事で生まれた品種。あまりにも手間暇と育てる条件が厳しいのであまり収穫できず、高級品だ。


 一様この4種を買って来てもらった訳だがやはり黄色が一番少ない。

 もしこの子の好みの味が黄色だったらどうしよう。一応腹の調子を最も落ち着かせるのは黄色ではあるけどあまり食っては欲しくない。


「と言うかこいつ食べるのか?人の手からは食わないだろ」

「多分果物系なら大丈夫だと思う。それにバカの力があれば良い品質なんだろ」


 そういう目利きの部分だけは信用している。

 店の八百屋でもいい物選んでいくしな。


「どれがいい?」


 4種類のドラゴンフルーツを見て咥えたのは赤のドラゴンフルーツ、まずは1つ食べた。

 1つ食べた後木箱の中にある赤いドラゴンフルーツを見ている。


「よしよし、赤いのが好きか。口開けな、食わせてやる」


 人の言葉が理解できているようで口を開ける。

 そこに放り込むようにドラゴンフルーツを口に入れる。2、3個入れると口を閉じて咀嚼しまた口を開ける。


「……昨日の咆哮をあげるドラゴンとはまるで別のドラゴンだな」

「元々こういう性格だっただろ?空腹やなれない場所、それにあのクズ共が世話してたんだ。苛立って当然だ」


 タイミングよく口に入れながらマダスと話す。


「ところでさ、お前は何で怖がらないんだ?普通はドラゴンとか見たら怖がるだろ」

「う~ん……そうだな……多分ただの動物としか見てないんだと思う」

「ただのって、ドラゴンが?」

「こいつらドラゴンだって獲物を食らい、寝て、繁殖する。その辺は人間だろうが何だろうが変わらない。色々と大雑把なんだろうさ、俺は」


 涎と一緒に流れてきた果汁をタオルで拭く。

 ちょっと子供っぽい。

 マダスは呆れながら言う。


「大雑把と言うか根性があるというか。それも『寵愛』の効果か?」

「何でもかんでもスキルのせいにするなよ。俺はただのケモナーだ」

「はいはい。あ、それから姫様が城に来いってさ」

「めんどいからヤダ」


 全ての赤いドラゴンフルーツを食べ終わった後ドラゴンは伏せて休む。

 俺はマダスに向き合いはっきりと言う。


「それにこの子の世話だってあるんだ。まだ慣れてない環境の中でどんなことが起こるか分からないし、話があるなら向こうから来いって言え」

「そういうと思ったから連れてきたぞ」


 えっと思っている間にお姫様とは思えない服装でドラバカが現れた。

 服装は地味な色のつなぎ、しかも足元は様々な色が付着しており長い時間使用しているのが分かる。

 普段は流している長い髪もまとめてポニーテールになってる。

 完全に作業用だ。


 一応王女だからか隣にはティナと騎士達が居る。


「昨日のバカ王女よりはマシですね。改めてお久しぶりです。バカマスター」

「キュイ!」


 ドラバカ、本名アイリア・ドラグ・ノート。この国の第5王女であり、数少ないダチの1人。

 そしてその頭の上にいるのはフェアリードラゴンのキュイ。とても小さな小型ドラゴンだ。

 キュイは卵の時からドラバカと一緒に居て、現在はドラバカと契約関係にある。


 ドラゴンはドラバカを見て顔をあげる。唸り声をあげたりはしないが警戒している。


「昨日ぶりだなドラバカ、何しに来た」

「その子の様子を見に来ました。…………随分と落ち着いた様ですね」

「元からこういう性格だったんだろうさ。テメェらがきちんと世話してなかっただけだろ」

「貴様!!無礼だぞ!この方は」


 騎士の1人が俺に文句を言うがドラバカが手で制した。


「構いません。それよりその子は」

「……現在は落ち着いてる。さっきエサも食ったしエサについては問題ない。と言ってもしばらく食ってなかった様だから途中下痢を起こさないかが心配だ」

「ドラゴンフルーツは」

「1箱食わせた。あとはゆっくり休ませてから小屋に戻す。少しだけ待ちな」


 ドラゴンの頬を撫でながら言う。これで少しでも落ち着いてくれればいいんだが……

 そう思っているとキュイが俺の前まで飛んできた。


「キュイキュイ!」

「ああ、久しぶりだなキュイ。元気そうで何よりだ」


 飛んで来たキュイを抱き締めてそっと背中を撫でる。この子は頭より背中を撫でられる方が好きだ。

 それと何故か赤ん坊のゲップを促す様に叩かれるのも好きだったりする。

 その様子を見ていたドラゴンが俺の方に顔を向ける。

 なんとなく何か言いたげだ。


「それでこの子は調教出来そうですか」

「多分無理。てか野良猫から聞いてたが王族にこいつをやるって本気か?」

「……あまりいいとは思えませんが一応。それにその王族と領主はドラゴンを危険の少ない魔物と勘違いしている節があります。おそらく野に放した方がこの子のためかと」

「だろうな。となるといい言い訳を考える必要があるな……」


 キュイが俺の頭に移動して空いた手でドラゴンを撫でる。どうも野生にしては人懐っこい。

 いくら『寵愛』のスキルを持っていてもこう直ぐには懐かないはずなんだけどな……


「最も良いのは親が攻めてきたという状況ですがその場合この国がどうなるか分かったものじゃありませんからね。もしくは向こうの国の方がドラゴンを手元に置いておけない状況になるか……」

「案外既にこの子の親が既に制裁に向かってるかもよ?」


 楽観視したセリフを言ったらマダスが慌てた様に言う。


「お前思っていても言うなよ!大抵の問題はお前が言ったとおりに起こるんだからな!」

「いやそれってちょっとした事じゃん。流石に国規模でそういう勘が当たる訳」

「アイリア様!ご、ご報告です!」

「……どうしましたか」


 慌ただしく騎士がやって来た。


「そのドラゴンの調教を頼んでいた国がドラゴンの襲撃にあっているとの報告が参りました!!」


 その報告になぜか全員が俺を見る。

 何だよ、口は禍の元ってか?あれ、使い方間違ってね?

 ドラバカが俺を一睨みした後聞く。


「ドラゴンの数は、何体ですか」

「そ、それが」

「まさか複数体もいるのですか?」


 大抵のドラゴンが子供を取り返しに来るときはその親が奪い返しに来ることが多い。家族ぐるみで数体と言ったところだ。

 でも大抵の国屋町は1体のドラゴンによって簡単に滅ぼされる。複数いる時点で十分脅威と言える。


 いい淀んでいるという事はおそらく複数いるんだろう。


「か、数はおそらく100体以上とのご報告が……」

「ひゃ、100体以上!?」


 その言葉に大勢が動揺する。

 動揺していないのは俺とドラゴンぐらいだ。

 やっぱりこいつはファイヤードレイクではなさそうだ。

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