礼と謝罪の品
砂浜でカレー片手にワイワイやっているとルビーが途中でカレーを食べながら海を睨みつけた。
「ん?どうかしたか?」
「……いやなのが来た」
いやなの?一体何が来たんだ?
そう思って他のパートナー達を見ているとみんな何かに警戒している。
「おい長女。この辺の海ってサメでも出るのか?」
「この海域には出ないわよ。沖合いだと魔物でも動物でも嫌がる音が出てるって調査報告が出てるからとても安全なビーチでもあるのだから。それから長女って呼ぶの止めて」
「それって沖合い限定?」
「ええ。何でも海の底にある特殊な石がぶつかり合って音を立てるらしいから。流石にこの砂浜にはないはずよ。あったらラファエル達も嫌がっているはずだから」
それは納得。
っとなると相手は音に鈍感な生物か?いや、でも確か魚とか海獣って音を頼りにして獲物を狩ったりしてるって聞いてたはずなんだけどな……
となると昔に廃棄されたゴーレム?音に鈍感な生物……思い出せないな。
そう思っていると沖合に大きな魚影を確認した。
あれは魚の群れじゃないな……波で反射していて分かり辛いが群れている感じがしない。
じっと見ていると魚影はこちらに近づいて来るにしたがって小さくなってる?あれ本当に生物か?
そう思っている間に魚影はどんどん小さくながら砂浜に近づいてくる。
分かったのは魚影は2つ、どちらも小さく子供であるのではないかと予想できる。
そしてあれは動物ではなく魔物だ。人の形をしている。
俺もカレーを片手に警戒していると2人は海から現れた。
「ぷはぁ。お久しぶりです、みな様」
「あ、人魚。それから……」
「全く、礼と謝罪のためとはいえ神自ら謝罪に行かねばならないなどと……」
この間海に帰した人魚ともっと小さな子供がいた。
子供は珍しい青色の髪。といっても小学校低学年か幼稚園児ぐらいに見えるのでかなり幼い。
人魚が手を引っ張っているということは人魚の妹だろうか?
そう思っているとルビーがその幼女にずかずかと近寄っていくと、片手で幼女の頭を掴んだ。
より詳しく言うとアイアンクローだ。しかも掴んでいる手はドラゴンの手に変化させている。
「いだ!いだだだだあ!!な、なにを!」
「それはこちらのセリフよ。どの面下げてきたのかしら?」
「き、貴様こそ!このような事をすればお前達の種族はいっだだだだだ!!」
「黙りなさい。あなたは私の“宝”を傷付けた。それが私にとってどれほどの怒りか分かっていないのでは?分かっていないのならその身体に直接――」
「ストップだルビー!それ以上やったら本当にその子の頭が割れちまうぞ!!」
カレーをテーブルに置いてから慌ててルビーに駆け寄る。
「でもねマスター。こいつは私が1番大切にしているお宝、マスターを傷付けたんだよ?怒っていいよね?」
「怒るのは構わないがその手は放してやれ!別な方法で謝らせればいいだろ?」
そう言いながらご機嫌を伺うと、ルビーは仕方なくと言った感じで幼女から手を放した。
幼女は人魚に抱き付き、人魚に「痛かったね~よ~しよ~し」と言われながら頭を撫でられている。
にしてもルビーが初見でここまで怒るとは一体誰だ?と言うか会った覚えすらないんだけど。
俺は幼女をあやす人魚を見ながら聞く。
「なぁ人魚。この子と俺って初見だよな?」
「え、違いますよ?」
「え?人魚以外の人魚に会った事なんてないはずだが……と言うかその脚どうした?」
「あ、この足は海神様のご加護で1時的にヒレを脚の形にしているだけなんです。これも魔法の一種ですのでお気になさらず」
ほ~そんな事も出来たのか。つまりこれは生物学的な変形ではなく、魔法で形を変えただけなのか。
う~ん、ファンタジ~。
という事はこの子も人魚同様に魔法で脚に変えているだけか。
「それでこの子は誰?」
「この方は女神様です。この間マスター様がロデオをした」
「ロデオって、こいつがバハムート?」
「はい。この方が現海神であらせますバハムート様です」
「「「「「えええええぇぇぇぇぇ!!」」」」」
これに驚いたのは人間組だけだ。
そのパートナー達は全く驚いていない。と言うか分かってたんだろうな。
ルビーは分かっているからいきなりアイアンクローをしたんだろうし、今も冷めきった目をバハムートに向けているんだろう。
と、言うかだ。
「これがあのバハムートなのか?こんなちっこい子供が?」
「ちっこいとは失礼だぞ貴様!!我は偉大なる青の神、バハムートであるぞ!!」
「本当か人魚?こ~んなちっこい子供があのデッカイバハムート?」
「そうです。人間態で幼く見えるのは実際に女神様はまだ幼いので……」
「つまりまだまだ子供って事か。道理で俺らだけでどうにかなった訳だ」
正直に言うと海神だ、ルビーと似た種族だと言うのにあっけなかったと思ってもいたのだ。
俺1人で足止めできていた時点で子供と気付くべきだったのかも知れない。
まぁあの大きさで子供と言うのも納得できないが。
「ったく。世話かけさせやがって。ついでに人魚、飯食ってくか?カレーだけど」
「どのようなお料理なのですか?」
「パンにルーをかけて食うだけのお手軽料理だ。量だけはあるぞ」
「いただきます。女神様も参りましょう」
「我は遠慮する。人間が食べる物など信用できん」
「そのような事を仰っては失礼ですよ」
「まぁまぁ人魚。食いたくない奴に無理に食わす主義じゃない。食いたい奴らで食えばいいんだから」
人魚をまぁまぁと言って止める。
こればっかりは野生の魔物だから当然と言えば当然の反応だと思う。
と言うか人魚だって最初は警戒してただろ。
という事で人魚にもカレーを食べさせる。
パンに付けて食べるとすぐに気に入ったようで猛烈に食べ始めた。
そしてその光景をじっと見ているバハムート。俺をじっと見る視線を無視して人魚に聞いてみる。
「それで、今日はどうした?」
「あ、そうでした。今回は私を助けて下さったお礼と、女神様がご迷惑をおかけいたしましたのでその謝罪の品をお持ちしました」
そう言って人魚は空間をゆがめて何かを取り出す。
と言うかコップの水を媒体に取り出すの止めてくんない?水が要るならそこの海いっぱいあるじゃん。
コップの水から取り出したのは……玉手箱?
え、俺にジジイになれと?竜宮城に言った訳でもないのに?
「こちらの品は人間が水中でも活動できるように作られた魔道具でございます。女神様の母君が自らの皮膚を利用して作られた物です。光の届かない水の中でも活動する事が可能です」
「呼吸は?」
「魔法により長時間息止めが出来ます。流石に問題なく呼吸するという事は出来ませんが、何もしなければ2時間は問題ないとの事です」
そんな玉手箱から取り出したのは宝石をあしらったブレスレットだ。
宝石と言っても真ん中に1つ深い青色の宝石があるだけだが、シンプルな物が好きな俺にとってはこのぐらいがいい。
それに効果もかなりありがたいな。
素人の息止めなんざ良くて2分ぐらいか?動いていたら30秒持つかどうか……
それがいきなり2時間も息止めできるとは超人のレベルを超えている。
「スゲーありがたいよ。ありがとな人魚」
「それなら前女神様に。前女神様もお気になされておりましたので」
「ならお礼を伝えておいてくれ。本当にありがたいよ。これで水中の魔物の長時間観察が可能になる」
「前女神様にお伝えしておきます。王家のみな様にも後日お渡しいたします」
「ありがとうございます」
ふっふっふ。これで水中にいた海獣の調査から魚の調査まで色々できる様になる。
これはいいアイテムをもらったというものだ!
魔道具に喜んでると、ルビーが可愛く頬を膨らませてたから喜ぶのはこの辺にしておくか。
早速ブレスレットを腕に装着して付け心地を確かめると結構滑らかだ。
付け心地を確認していると誰かが俺の服の袖を引っ張った。
振り向いてみるとそこにはバハムートがいる。
「……お腹空いた。あれを食わせろ」
そう言ってカレーの入った鍋をちらちらと見ている。
「大人しくしてるなら食わせてやる。ちょっと待ってな」
腹減った魔物に飯を食わせるのは魔物使いとして当然である。




