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子守歌

 首に縄をめられたクジラは当然暴れ出す。

 気分はロデオって感じなのだが、サイズが違い過ぎて落ちる気配が全くしない。確かに上下に移動する衝撃は凄いが、身体強化を使っていればなんて事はない。

 じれったかったのか、俺に向かって魔方陣が現れたかと思うと水の弾が俺に向かって発射された。

 当然避ける事など出来ず、弾は当たったが結構痛いだけ。それに治癒の力も発動し続けている訳だからすぐに癒す事も出来る。


『マスター!大丈夫!!』

「大丈夫だ!それよりルビーは今の内に休んでろ!俺の治癒は触れないと発動できないから!」

『そんな事よりマスター自身が大丈夫なの!?今魔法食らったでしょ!!』

「痛いだけで問題ない!それに治癒の力もあるんだ、この程度できなきゃ魔物使い失格だ!」


 軽口を挟んでルビーを安心させる。

 でもルビーは心配そうに言う。


『それでも心配だよ!早く離れて!!』

「悪いが断る!!これ以外でクジラを傷付けずにどうこうする自信がない!!」


 他の手段となるともう本格的に攻撃するしかなくなる。最低でもそれは避けたいからこそ治癒の縄でロデオをしているんだから。

 ルビーの言う言葉だって分かるが、でもやっぱり傷付けたくはない。

 なら今ある手段ではこうするのが1番いいのではないかと思った。

 そしてルビーには1つ頼みたい事がある。


「ルビー!エルノと麒麟さんと一緒にドラバカ達呼んで来てくれ!これ持っても20分ぐらいかも!?」

『でもマスターは!!』

「心配するなら早く呼んで来い!!あいつらどうせ迷子になってる!それに仲間を呼ぶのも大事な事なんだよ!」


 そう叫ぶと、ルビーの隣に麒麟さんの姿が見えた。

 そして麒麟さんの上に居るエルノと少し話したかと思うと、ルビーは俺に向かって言った。


『すぐ戻ってくるから!』

「出来るだけ早く頼む!!」


 そう言ってルビー達は飛んで行った。

 さぁてと、クジラちゃん。しばらく一緒に遊ぼうか。


 こうして始まった俺対クジラ戦。

 勝負内容は俺を振り落とせるか、落とせないか。ロデオ状態なので落とされればそれまでだ。

 当然クジラは激しく体を上下左右に振り、落とそうとするが巨体過ぎて落ちるイメージがわかない。確かに動きはするのだが、そうすぐ落ちそうになるかと言うと、そうでもない。


 クジラは直ぐに俺に水の弾をぶつけてくる。何発も巨大な水の塊をぶつけてくるが、このぐらいの痛みなら我慢できる。それに治癒の効果もあるのですぐに治療も完了。

 海水なのか、ちょっとみるけど。


「おっと、それは嫌だ」


 クジラは俺を振り落とすためか、再び海に飛び込もうとしているので、縄を引いて無理矢理浮上する。このクジラの動きは結構遅いんだよな、特に空中だと。

 クジラは身体を回転させる事で振り落とそうとする。確かに中々の遠心力だが、身体強化でしっかりとしがみ付いているので、これも何とか落ちずに済む。

 あ、でもヤベ。回転で気持ち悪くなってきた。


 -


 途中から嘔吐感と戦いながら手綱を掴んで耐え続ける。やっべ、ちょっと吐こうかな。


「おえっぷ」


 出はしなかったが喉元まで来てる感じが凄くヤバい。魔物の上で吐くとかちょっとした事件だぞ。

 と言うかそんな感情を持ってからクジラの動きが鈍くなってきた。俺の感情が伝わっているのか、とりあえず回転は止め、上下に動くともなくなってきた。それとも単に疲労か?それなら嬉しいんだが……


 そう思っていると、遠くから汽笛のような音が聞こえた。

 聞こえた方に目線を送ってみると、ドラバカ達が乗っている船が見えた。あ~やっと来たのか。どれぐらい待ってたんだろう?

 それなりに長い時間踏ん張ってた気がするのだが……実際の時間はどれぐらい過ぎたんだ?


『マスター!大丈夫!?』

「ルビー!ちょっと酔ってる!助けて」

「三半規管の乱れですので治しようがないですね」

「ちょっとマスター!乗るならクジラじゃなくて私に乗ってよ!!」

「キュ!キュ!」


 あ、ラファエルさん。キュイ達も。

 飛べる人達は飛んできてくれたんですね。そしてアスモデウスは本当にぶれないな。


「ルビー!予定の時間まであと何分だ!」

『あと10分!今人魚達がこっちに近付いてる!』


 10分……ギリギリ持ちこたえられるか。それにこれだけのお仲間が居れば出来なくはないと思う。

 気合いを入れ直してクジラのロデオを続ける。


「キュイ!こっちに来てくれ!」

「キュ!」


 キュイは飛んで俺の肩に着陸する。

 そして俺はキュイに重要な事を頼む。


「いいか、キュイ。時間が来たら俺はこのままクジラと一緒に海に突っ込む。だからキュイにはその間水の加護を俺に掛けてくれ」

「キュイ!!」


 キュイはフェアリードラゴン。最も精霊に愛されたドラゴンと言える。流石に炎限定となればルビーの方が愛されるだろうが、多種多様な精霊からとなれば話は別だ。

 女王だったらもっと楽できたんだが、船を安静させる方に力を注いでいる様に見える。恐らく海に居る水の精霊とコンタクトを取って海を落ち着かせているんだろう。


 キュイのオーラが俺を青く包む。青は水の色、水の加護をかけてくれた証拠だ。

 ちゃんとした契約者であるドラバカなら、直接触れる必要はないんだろうが俺は契約者ではない。そのため直接加護を受け取らないと美味く効果が表れない。

 後は人魚達の準備が整うのを待つだけなのだが……早く来ないかな!!


『!来た!!』


 ルビーがそう言った。


「人魚達が来たのか!!」

『うん!来たよ!!準備ばっちりみたい!!』

「突っ込むタイミング教えてくれ!このクジラデカ過ぎてよく見えん!」

『いつでも行けるみたい!』

「なら、突っ込ませるか!!」


 クジラが大きく背を逸らせ、海の中に帰ろうとするタイミングで嵌めていた縄を緩ませる。

 そうすると真っ直ぐクジラは海の中へと飛び込んだ。飛び込む寸前に大きく息を吸い込み、クジラと共に水中に行く。


 ドボンと言う音が聞こえると、水中でクジラはまたもがいた。それが巨大な波にならないか不安に思いながらも、縄は嵌めたままにしておく。手放して食われたら笑い話じゃ済まない。

 そして水の加護は上手く機能している様だ。

 この巨大なクジラが飛び込んだだけでもかなりの水深に達しているだろうに、耳鳴り1つ起こらない。


 キュイはこの勢いに負けそうになったからか、俺の胸元に入り込む。俺もこの方がキュイが急に居なくなって水圧でぺしゃんこになるという事態は回避できそうで助かる。

 息を少しずつ吐きだしながら、縄を右へ左へ引っ張りながらその場に留めよう頑張る。


 そうしている間に、クジラの動きが少しずつ弱まり始めた。疲労とかそう言う感じではなく、何かに集中している様な、そんな感じがする。

 ついにキュイも反応し出して、俺の胸元から顔を出してあちこちを見渡す。俺も耳を澄ましてみると、声が聞こえた。


 正確に言うと歌声と重厚な音楽。普通ならこの重厚な音楽だけでもどっかの偉い貴族たちだけが聞けるようなレベルだと言うのに、ハッキリとこれは歌のための曲である事が分かった。

 歌詞などは分からない。ただ分かるのは特殊な音波()で歌っているために人間にはただの綺麗な音色の様にしか感じられないんだろう。


 歌っているのは助けた人魚。その周囲に楽器を持った他の人魚達が奏でている。

 クジラは大人しくなり、どこか眠たげな雰囲気がする。これならもう縄はいらないと思い、解除したがクジラはこちらには全く反応しない。

 どうやら俺の役目は終わったようだ。

 キュイもどこか眠たげにしているので急いで海面に向かって泳ぐとしよう。キュイが寝て水の加護も消えるような事態になっては、せっかくの作戦成功が台無しだ。


 俺はこの曲をもう少し聞いてみたいと思いながらも、海面に向かって泳ぎ出した。

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