クジラを止めろ!
空飛ぶクジラと言う童話かお伽話に出て来そうな状況だが、それを感動的に見る余裕はない。
だって明らかに怒りの目をしてるからな。怒っていなければ優雅に見えたんだろうか?
「本当にどうする?俺クジラが飛ぶとは思ってなかったんだけど」
「私も飛んでいる所を見るは初めてよ。と言ってもバハムートを見るも初めてだけどね」
『マスター。ああやって見ると更に大きく見えるね』
『まさに生きた島じゃな』
本当にデカいわ。飛行速度はこちらよりも遅いとはいえ大迫力だ。
これ本当にどうにかしないとダメなの?しかも1時間も?もつ気が全くしねぇ……
そう思っているとルビーが何かに反応する。そして鳴き声を上げる。
「どうしたルビー」
『ちょっとね、あの子が話しかけてきた』
「あの子ってあのクジラか」
『うん。ちょっと話すから待ってて』
そう言ってルビーの鳴き声が響き渡る。それに対してクジラの方はっても静かだ。鳴き声を上げている様には全く見えない。
もしかして超音波で話してるのか?それなら納得だが……クジラの超音波って空気中でも聞こえるもんなのか?イメージ的には聞こえなさそうなんだが。
そう思いながら少しでも時間稼ぎにならないかな~っと思っていると、突然クジラの周りに魔方陣が展開された!ルビーの方も前方に魔方陣を展開させ、思いっきりブレスを吹き出すと炎がより巨大かつ威力が増してクジラに向かって行く!!
クジラも口から海水を出すと、魔方陣を通って行く間に威力と水が巨大になった!!
そして先程同様に炎と海水がぶつかり、先程よりも巨大な爆発を起こしながら周囲を激しい振動が駆け巡る!!
俺はルビーにしがみ付くだけで必死だ。エルノの方は麒麟さんが小規模の結界で守っている様だが、それでも空中で踏ん張っているような様子を受ける。
爆風が治まったと思った時に俺はルビーに怒った。
「ルビー!攻撃はなしだって言ったじゃん!!」
『だってあのバカ、マスターの事バカにするんだもん!!それにあのバカ、私の事トカゲって言った!丸焼きにする!!』
「あんなでっかいのどうやって焼くって言うんだよ!!食い切れないし、ドラゴン食っていいのか!?ルビーもドラゴンだろ!」
『同種じゃなければ共食いにはならないよ?私の場合はお父様やお姉さま達を食べたら共食いしたって言われるけど、あのクジラ食べても共食いにならない!だから殺して食べてやる!!』
「食い切れないから!考え直せ!!美味いか不味いかも分からないクジラを食う勇気はない!!」
「どうして2人して食べる食べないって話になっているのですか!!それでも本当に魔物使い!?」
「『野生の世界じゃそれが普通!!』」
「だまらっしゃい!!」
エルノに怒られたが俺は食べるのを止めろって主張してる側だからな。そこは間違えるなよ。
それにクジラの肉って食った事ないんだよな……前世の両親は食べた事ある~って言ってたけど、俺は食った覚えないな……と言うかクジラ肉でいいのか?バハムートって?
『マスターよ。まだ要らん事を考えておるな?』
「あのクジラって本当にクジラ肉でいいのかなって。クジラは哺乳類だけどドラゴンって爬虫類じゃなかったけ?と言うかあいつは変温動物なのか?」
「そう言う事に記載はなかったけれど、恒温じゃない?ワニの様に陸に上がる形状はしていないし……ってそんな事は後でいいのよ!どうするのよ!完全に敵対しちゃったわよ!!」
確かにクジラは今までにないぐらい魔方陣を展開している。口元だけではなく、その周囲の魔方陣も俺達を向いている様でいつでも撃ち落とせますって感じだ。
ここまでデカくて射撃能力があるとあれだな、空中戦艦だな。全方位に水の攻撃魔法をぶっ放せる、人間には到底到達できない領域だ。これぞまさに自然の脅威。
ちょっと意味違うか?
そう思っている間にクジラは魔方陣から水の攻撃魔法をぶっ放して来る!
1発1発は大きいが、弾幕の隙間も大きい。それにデカいからよく見える。ルビーと麒麟さんは水の弾幕を綺麗に避けていく。
1発でも撃たれたら死にそうな感じするけど。
「やっべ~水の散弾銃ってこんなに威力があったのか。マジで怖え」
『あいつがやってるから余計威力が増してる。あのクジラ、最低でも泣かす!!』
「穏やかに行こうな~ルビー。怒り過ぎて鱗がちょっと熱いぞ~。と言うかこの調子で1時間なんて持つはずがねぇよ。あとどのぐらいだ?」
「ざっと40分ぐらいです。逆によく20分も持ったと思いますよ」
「でも残り40分も、だぞ。ここまで攻撃的な状態で落ち着かせろと言われてもな……」
人魚達の準備が整うまで持ちこたえられる自信はない。水の散弾を避けているだけでも大変だと言うのに、ここから更に40分も持ちこたえないといけない。無理ゲーだな、普通ならとっくに詰んでる。
となると傷付ける事前提に攻撃してみるか?でもそれじゃ魔物使いとしてダメだと思う。
向こうから襲って来たのならともかく、原因は人魚が人間の方に連れて来られたのが原因だ。となるとこちらは怒りを受け止める方、攻撃したくないな……
『マスター、マスターの治癒能力使い続けてもらってもいい?』
「ん?それは構わないが……どうするつもりだ?」
『こうなったら避けるだけじゃ限界だよ。攻勢に出ないと』
「でもそれって避け続けるよりも大変じゃないのか?それに出来るだけ――」
『たとえ原因が人間側にあったとしても、それはマスターの責任じゃない。マスターは人魚を送り届けて来ただけなんだから攻撃されるのは筋違い。なのにあのクジラはマスターの事を敵対対象として見てる。それがとても気に入らない。マスターは何も悪い事をしていないのに』
…………ルビー
『マスター。他の人間がした事の尻拭いはしなくていいんだよ。マスターはただ人魚を助けてあげて、家に帰してあげたかっただけ。それだけなんだからあのバカクジラが怒るのはおかしいでしょ?むしろお礼を言う側なのに』
…………
「そうだな。そう言われるとそうなのかも知れない」
「マスター?何する気?」
「魔物使いとして確かに魔物は傷付けたくはない。そのクジラが怒っているのも人間側が原因なのも分かってる。でも、このまま勘違いされ続けるのも癪に思えてきた」
『マスター。お主まさか!!』
「ルビー、あのクジラの上空にまで俺を連れてけ!!」
『うん!行くよマスター!!』
エルノと麒麟さんを置いて俺はクジラの上空を取る。散弾は上空にも放たれており、ルビーが飛んだ後を通り過ぎていく。
そしてルビーは俺に聞く。
『ちなみにどうやって倒すのマスター?』
「な~に、原始的な止め方をするだけだ」
『原始的な止め方?』
「ま、スキル頼みの賭けだ。ルビーは危ないから俺が跳び下りた後、真っ直ぐ飛んで行け」
『1人で止める気!?』
「おう。ちょっとスキルの間違った使い方をする。どんな結果になるのかは不明だけどな」
だからこその賭け。間違ったスキルの使い方だからこそルビー達には迷惑を掛けられない。
それにスキルをこんな風に使うのも初めてだ。土壇場の一発勝負、決めてやる。
そしてルビーがクジラの上空をとった後、俺は立ち上がった。
「そんじゃちょっと行ってくる」
『気を付けてね』
「行ってきます」
身体強化を使ってルビーの背中を蹴った。
散弾は飛んで行くルビーを追っているので、俺は数発の散弾が俺の横を飛んで行くだけだった。
そして飛び下りながらクジラに向かって足を出す。
「いい加減にっしろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
上空から俺は治癒の力を使う。ただ普段通りに触れるのではなく、それを掌から縄の様に発現できた!
ラファエルさん曰く、スキルとは使うイメージによって様々な形に変化するとの事。だから同じスキルを持っていたとしても、その使い方が正しいかどうかによって大きく性質や機能が変わる。
だから俺は治癒の力を縄状にして、クジラの首に嵌めたのである。




