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クジラ対策

 人魚の言う浅瀬に向かって飛び続ける俺達。

 他の援軍にも期待したいんだが……無理そうだな。


 いくら船と言っても魔物の遊泳速度に勝てるわけがないし、空を飛んだり走ったりする魔物も居ない。

 ラファエルさんとかアスモデウスとかは一応飛べるが、契約者である長女と次女を抱えて飛ぶとなると難しいだろう。

 そう言う意味でキュイとドラバカもアウト、キュイはまだまだ幼い。と言うかフェアリードラゴン自体人間を背に乗せるほど大きくは成長しない。でっかくなっても精々中型犬ぐらいなもんだ。


 と言う訳で先行して飛んで行けるのは俺達だけだ。

 船の周りに居た魔物達も契約者から離れるとは思えないし、この少人数でどうにかするしかないか。


『マスター、このまま逃げてていいの?』

「仕方ないだろ。あの巨体をどうこうできる自信はないし、傷付けるのダメ。となれば動けなくするとしか方法が思い付かねぇよ」

「そうね。魔物の保護をしている組織が理由なく魔物を傷付けるは許されない」

『しかし儂らもただ逃げている訳にはいきませんぞ。浅瀬におびき寄せたとしてその後はどうする』


 麒麟さんの言葉に俺は考える。

 1番いいのは人魚を帰してそれでおしまい、と言う状況だ。

 だがあの状態だと説得するのはほぼ不可能。

 まずは怒りを鎮めるのが先か……


「あの!1度どこかで降ろしていただけませんか!!」


 人魚が意を決したように言う。


「浅瀬に着いた後、あいつをどうにか出来る方法があるのか」

「それに関してはありますが……あの状態で効くかどうかは分かりません。ですが試す価値はあるかと」

「……その方法を上手くいく条件は」


 今の俺に案はない。

 それにあのクジラに最も詳しいのは人魚だ。

 彼女に任せる方がいい結果になるかも知れない。


「条件としましては少しの間時間を稼いでください。1度集落に戻り、準備をしないといけません」

「準備?何の準備だ」

「歌の準備です。我々人魚は代々歌で神をたたえ、繋がりを守ってきました。その歌の聞いてもらえれば何とか」


 歌か。

 そういや歌や音楽ってのは神様に奉納するための物だったか?

 それなら安全に、傷付ける事なく落ち着かせる事が出来るかもしれない。

 と言っても俺1人で決めていい物ではないが。


「ルビーはどう思う。この作戦」

『良いと思うよ。ドラゴンはみんな音楽好きだし、歌も好き。確か特に好きなのは青と緑と黄じゃなかったかな?お母様がそう言ってた』

「私も構わないわ。麒麟もいい?」

『構いません。しかし我々は時間を稼ぐだけでよろしいのですかな?』

「私達の準備におそらく1時間は掛かると思います。そしてここが重要なのですが、私達の歌は水中でないと意味がありません。私達の準備が整ったら神も水中に」


 水中にか……

 現在の状況的に結構難しい状況だぞ。

 今も俺達を追いかけるために結構はっきりと影が見えるぐらい浮上してるし、今の俺達に水中が得意な魔物は居ない。

 追いかけられて食べられるって事はないよな……ピノキオみたいに。


「あ~水深何メートルみたいな希望ってある?」

「出来れば……最低でも10メートルぐらいは」


 水深10メートルって深!

 海の男的な人ならどうにかなるかも知れないが、普段から地上に居る人間としてはかならい厳しくないか!?


『10メートルなら何てことないよね?』

「いやいやいやいや、人間にとって水深10メートルはキツイから。10メートル歩くのとはまるで話が違うからな!?」

『そうなの?私深く潜った事ないんてないから知らなかった。それってマスターでも厳しい?』

「正直に言うと。大抵は水生の魔物の加護を受けてようやく長時間潜れるようになるんだし、素で潜るとなると……結構覚悟がいる」


 一応俺には身体強化があるが……10メートルも潜った事ないからな……

 この場に三女が居てくれれば水精霊の加護でどうにかなったかも知れないが、居ない者は居ないのだから仕方ない。

 ただ問題は最低が10メートルなんだよな……


「やはり難しいですか」

「まぁ頑張ってみるさ。ルビー、人魚を海面に。準備が要るなら早めに動いてもらわないと」

『分かった。1度速度落とすね』


 海面すれすれまで下りると人魚は海面に飛び込んだ。

 人魚は直ぐ海面から顔を出して言う。


「それでは集落に戻ります!!お気を付けて!」


 そう言ってどこかに潜って行ってしまった。

 バハムートの方は人魚に気付いていないのか間直ぐ俺達の方に向かってくる。


「と言うか普通にあの人魚、ルビーの飛行速度に付いて来れるんだな」

『人魚は戦う力がない代わりに泳ぐの得意だから。それじゃ浅瀬に向かってもう1回飛ぶよ!』

「1時間の時間稼ぎか……想像以上に大変だろうな」


 後ろを見ながらルビーの背中に捕まる。あの巨体から逃げる様にしていたら浅瀬なんてすぐに着くだろうしな……どうしたもんか。


「マスター、もうすぐ浅瀬ですよ!」

「え、もう!?早過ぎないか!」

「あの巨体に追われているんです!どうしても早く付いてしまいますよ!」


 それでも早過ぎる!せめて30分ぐらい……はルビー達がキツ過ぎるか。となるとここでパタパタ飛んで気を引き続けるしかない。

 ……1時間も持つかな~。俺だったら1時間も飛んでる存在に気なんて引けねぇよ。


 と言っても浅瀬に近いからか、バハムートの動きは遅くなった。

 だが今度は口と思われる部分から何かが飛んできた!!ルビーは躱してくれたが、何だ今の攻撃!


「今のなんだ!」

『ただ口に含んだ海水を飛ばしてきただけ。汚いなーもう』

「そんな単純な攻撃であの威力!?ちょっとはねた感じの水当たったけど、それなりに痛かったぞ!」


 こう、砂嵐の砂が吹き付けられた感じと言うか、地味に痛いかったんだよ!

 バハムートは今度は連続で攻撃してきた!!海水の散弾はおっかないな!

 ポ〇モンの水鉄砲の威力ならともかく、ハイドロポンプぐらいの威力はあったんじゃねぇの!?ルビーに当たったら効果は抜群だ!!


『あ~もう!煩い!!』


 そう言ってルビーがバハムートの海水に向かって炎を吹き出した!

 ちょっと何やって――


 ドッッッッッゴン!!


 爆発した!!

 ま、まさか今のが水蒸気爆発!?初めて見た……


「っていきなりなにやってんの!?戦わない方向で行くって言ったじゃん!」

『だって調子乗って汚い水吐き出し続けるんだもん!!』

「汚いのは置いといて、これ完全に喧嘩売ったか買ったかのどっちかだぞ。どう見ても敵として見てるってあの眼」


 先程の爆発音で少し冷静になったのか、明らかな敵意を更に向けてくる。

 どう見てもこちらが不利な状況でどう戦えってんだよ。麒麟さんの力を借りても止められないだろ……


「マスターどうするのよ!攻撃しないって言ってたじゃない!」

「俺の指示じゃないって!!それより麒麟さんも戦術だか妖術だかでどうにか出来ねぇの!?」

『む~相手が大き過ぎるのじゃ。それに儂の術は基本的に山々に関する術ばかりでな、こうも山がない土地で行える術はとても少ないんじゃ。当然結界の類も行えん』

「ルビーの方は結界使えねぇの?」

『私、攻撃特化だから』


 だよね~炎の術って基本的に攻撃ばっかりだもんね……

 となるとすればさっきみたいに攻撃を相殺する感じで頑張るしかないか。こうやって一緒に戦うのは初めてなんだけどな……


 普通なら学生時代の内に、ある程度魔物と共に戦うすべを身に付ける。しかし当時の俺は魔物と契約していなかったし、戦闘にもそこまで興味はなかった。

 それに魔物の魔力を制御するとか、そんな感じの授業しかやってなかったんだよな。自由奔放にやってたツケがここにきて現れたか。


 どうするかと悩んでいると……ん?あのバハムート、浅瀬に乗り上げてる?それならむしろ動きが止まってラッキー……じゃないよな、きっと。

 そう思って見ていると、あの巨体が……浮いてる?

 そう言えばバハムートの元ネタって何かの宗教系の本だったような……確か……魚が飛んでた?だっけ?


 …………………………え、まさか飛ぶの?この巨体が?


 現実逃避をしながら見ていると、少しずつではあるが確かに浮いている。あとはヒレを動かしてゆっくりとこちらを向く。

 動きは遅いが……確かに飛んだな。正確に言うと、浮かんでヒレで泳いでいる感じだが。


「…………飛ぶなんて聞いてないぞ人魚!!」

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