ザ・クジラ!
50メートル級の魔物が体当たりをしている。
そして船内に居る俺達はその衝撃で何度も上下にバウンドしていた。
これじゃまともに歩く事すら難しい。
何ともなさそうなのは浮いたり飛んでいるシルフィーや精霊女王、キュイぐらいだ。
「と言うか50メートル級の魔物ってそう居ないだろ!?どんなタイプだよ!」
「それなのですが!不明です!!新種、もしくは発見困難な魔物であると予想されています!!そして影から推測するに、大型の海獣であると予想されます!!」
キレ気味に言うと、伝えに来てくれた船員が大声で答える。
ちなみに海獣とはアザラシとかイルカたちの総称、海に住む哺乳類と大雑把に覚えてくれればいい。
「って50メートルにもなる海獣ってどんな生物だよ!クジラか?クジラが体当たりしてるのか!?」
「それに近いとの報告です!」
「おいアスモ!お前の魔法でどうにか出来ないのか!」
「出来なくないけど数人が限界よ。私空間魔法そんな得意じゃないし……と言うか対価を払いなさいよ」
アスモデウスはいつの間にか頭をぶつけない程度に浮かんでいる。
と言うかそこんところは悪魔らしいのな、対価対価ってよ。
「いつも通り魔力でいいか?」
「童貞くれて、私の性奴隷になってくれるのなら――」
「絶対に嫌だ!!男にだって選ぶ権利ぐらいある!!」
ほんっとうにブレないなこのドスケベが。
とういうかアスモデウスの物になったら相当恐ろしいめに合うと思うぞ。
それにさらっと魂レベルで隷属されそうだし。
それに人魚の水槽の水もかなり大変な事になってるしな。
水のほとんどがこぼれてるし、人魚自身水槽の端にしがみ付いているのがやっとだ。
となると……
「アスモデウス!俺の魔力やるからいつものように契約頼む!」
「内容は?」
「この船の上空まで転移してくれ!人数は俺とルビーと人魚の3人だ!」
「はいはい。軽い契約ばっかりなのよね~マスターとの契約は」
「ルビー!人魚を連れて来てくれ!」
「分かった!」
ルビーも翼を広げて人魚を抱きかかえる。
そして激しく揺れる糞内で俺達はアスモデウスに触れる。
「上に参ります」
そんな事をアスモが言うと、対価分の魔力を奪われた後、すぐ船の上空に俺達は転移した。
「ってちょ!」
俺はアスモデウスに触れているだけなのですぐに落っこちる。
確かに上空とは言ったがこんな事になるとは思ってもみなかった!!
「やっべ!!ってあれ?」
落っこちていると何かの上に俺は落ちた。
赤い地面?そこにはルビーが一緒に居るはずの人魚の姿がある。
てことは。
『マスター大丈夫!?』
「あ、ああ。大丈夫だ。と言うかルビー、ドラゴン状態の体長大きくなってないか?」
『マスターやマダスのご飯のおかげ、おっきくなりました』
最後に見た時よりも頭一個分ぐらい育っている。
ルビーが子供なのは分かっているが、まさかまだデカくなるとはな。
翼を大きく羽ばたき、ホバリングしている。
きちんと座っても大丈夫そうなので、しっかりと座る。
人魚は腹ばいになって必死にルビーにしがみ付いている。
こういう時足がないと不便なもんだ。
ルビーの背からその船に攻撃してる影を見ると、確かにクジラっぽいシルエットが見える。
だが今は船には攻撃しておらず、ゆっくりと方向を変えている様に見える。
「ルビー、あれの正体知ってるか?」
『知ってるよ。あれはこの辺の海を縄張りにしてるドラゴンだから』
「ドラゴン?クジラっぽいのに?」
ドラゴンと聞くと、手足のある西洋の物か、ひょろ長い東洋の龍のようなイメージがあったが、そのどちらにも当てはまらない。
これもドラゴンでいいんだ。
『あれは“青”のエレメンタルドラゴン。見た目はクジラみたいらしいけど、見た事ないんだよね』
「え、それじゃルビーの親戚みたいな感じ?」
『親戚……よりも遠いかな?でも友達感覚ではある』
「なんにせよ、ルビーと同類なら傷付けるのは避けた方がいいな。100%敵対しちゃダメな奴だ」
『そうだね。本気で機嫌を損ねると、あの身体を上下に動かして大津波起こすから』
ルビーの親父さん達とはまた違った意味で超危険じゃねぇか!!
自分の意志で自然災害起こすとか、絶対に怒らせちゃダメだ。
そう思っていると、クジラは何となくこちらを向いている様な気がする。
じっと見ているといきなり水柱が襲ってきた!!
「いきなり魔法かよ!」
『魔力を感じなかったからただの物理攻撃だね。と言っても食らったらただじゃ済まないけど』
ルビーはその水柱を避けてやり過ごすが、これが魔法じゃないってマジ?
そんじゃこれどうやって起こしたの?
「女神様!私は無事です!ですので攻撃をお止め下さい!!」
後ろから女性の声が聞こえた。
綺麗な声だな~とは思ったが、人魚喋れたの?
てっきり精神的なものが原因で、一時に話せなくなってるもんだと思ってた。
話せるのなら協力してもらうか。
「おい人魚!説得できるか!?」
「!え、ええっと、申し訳ございません。説得は続けているのですが、怒りに身を任せているようで……」
「となるとまずは落ち着かせないとダメか……」
「周囲に居る水の魔物達にも説得してもらっているのですが、状況は芳しくなく……」
どうやら人魚は人魚ですでに動いていた様だ。
声が聞こえなかったのは超音波みたいなものか?それともルビーの念話的な感じか?
どちらにせよ、上手くはいってないみたいだ。
それにあのクジラの態度からすると、おそらく人魚を迎えに来たのだろう。
怒っているのも拉致られたと思っているからだと思う。
ならまずは落ち着かせる事が出来る場所まで誘導しないと……
『マスターどうする?相性は私の方が不利だからこのまま逃げ続けたいんだけど……』
「ルビーはそれで構わない。と言うかむしろ攻撃は一切するな。これで攻撃したら完全に敵対行動になって、もっとヤバい事になる。そして人魚、この辺で生物があまり居ない場所はあるか」
「それでしたら……東北の方向に浅瀬があります。そこにはあまり生物は居ないかと……」
「よし。とりあえずそこに向かおう。ルビー頼む」
『任せて。流石に飛んでる私の方が早いと思うから』
ならその浅瀬で説得を頑張ってみるか。
そう思いながら東北の方向に飛んでいると、他の飛行物体を視認出来た。
飛んで来たのは麒麟さんとエルノだ。
麒麟さんの足元には雲の様なものがあり、それを足場にしている様な感じ。
「マスター!この状況どう打破する?」
「当然傷付けずに説得だ。今から生物があまりいない浅瀬に向かってる。そこでならあの巨体も止まらざる負えないだろ」
「なる程。それでバハムートを止めるのか」
「バハムート?」
「正式な学名はエレメンタルアクアドラゴン。だがとある学者がバハムートと言っている間にそちらの方が定着した魔物だ。海神とも言われている」
……それ絶対俺の居た前世の奴が混じってるんじゃないか?
ゲームとかでよく出てきたぞ、バハムートって。
まぁちょいちょい前世で知ってる伝説上の生物の名前も種族名として出てるし、今さらか。
『しかし厄介な者に目を付けられたな。儂も念話を送ってみたが、強い怒りしか感じられん』
「そんだけ人魚の事が大切って事だろ。とにかく戦っても勝てそうにないし、魔物使いが魔物傷付けるのもどうよ?って事で今は逃げろ!」
「私も仲間に連絡し、神をお鎮めに出来るよう協力します」
「……悪いな。原因はこっちだろうに」
俺の勝手な妄想だが、人魚は誰かに連れ去られて来たのではないかと思っていた。
でなければ人間が住む場所に現れはしないだろう。
それに対して人魚は首を横に振ってから言った。
「いえ、早く帰そうとしてくれたあなた達に問うものではありません。ですのでお気になさらないで下さい」
「……分かった。まずは被害が少なそうな所に行く」
さ~て、どうやって落ち着かせればいい物だろうか?




