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取り押さえられたドラゴン

 ドラゴンの咆哮を聞きながら俺たちは王都に到着した。

 馬車から降りて再びドラゴンの咆哮を聞くがどうやら向かっている途中はまだよかった方らしい。ドラゴンの咆哮で鼓膜が破れそうだ。


「うっせーな。近所迷惑どころじゃねぇぞ」

「そう言うなよマダス。早く仕事を終わらさせてドラゴンには元の居場所に帰ってもらおう。下手すれば近所迷惑じゃなくて、近所の国から迷惑って声が聞こえそうだ」

「全く、何だって国の中に入れたんだが」

「それよりマダス、お菓子買って」

「こんな夜中に開いてる店がある訳ねぇだろ!!」


 シルフィは特に何も感じていない様だ。

 前に読んだ論文だとドラゴンと精霊、妖精の類は仲がいいと書いてあったし、それに関係するのか?

 とにかくこの爆音はどうにかしたいので国の管轄であるグローク魔物牧場に向かう。


 おそらくドラゴンは一番広い牧場であるグローク牧場に居ると思う。

 グローク牧場に着くとそこには見知った顔があった。


「やっと来た。遅いよマスター」

「場所を考慮してくれないか野良猫、これでもちゃっちゃと来た方なんだけど」

「どうせケチって通常の相乗り馬車で来たんでしょ?即行便で来なさいよ」


 宮廷魔物使いである制服を着たショートカットの女、ティナ。

 学生時代では野良猫とあだ名を付けた。

 その肩には相棒のキャットシーのリーグが居る。


「ドラゴンがいるなんて思わないっての!?それから入っていいのか」

「どうぞ、許可は貰ってるから。助手さんもね」

「ティナ?なんか怒ってる?」

「何もないわよ助手さん。精々この咆哮のせいでろくに寝れてないだけ。だから早くマスターがどうにかしちゃってよ」

「状態とかは」

「歩きながら言う。ついて来て」


 野良猫の後ろを歩いてドラゴンの元に行く。

 マダスはどこか落ち着かなさそうだが野良猫は気にせず歩きながら状況を説明する。


「元々このドラゴンは他国のドラゴンでね、その国にドラゴン専門の魔物使いが居ないから代わりに調教してほしいっていうのが依頼だったの。でもそのドラゴン野生のせいで突然捕らえた人間の事をよく思ってないの」

「確か野生のドラゴンを捕まえるって契約以外の捕獲は法律で禁じられてなかったけ?」

「そうなんだけど……このドラゴンは王家に献上される予定なの。しかもまだまだ若い成体になりたてのドラゴン、元気あり過ぎよ」

「手に負えられませんって話せばいいじゃねぇか」

「この国のプライドもあるの。ドラゴン一匹手懐けられますってね。そうすればこの国の魔物使いのレベルの高さを他国にアピールできるし請け負っちゃったのよ。しかも第5王女がドラゴン使いじゃない?それで余計にね」


 くっだらない理由だ。

 ようは無理矢理捕まえたドラゴンが自由になりたくて暴れてるだけじゃないか。王族に渡すというがそれも気に入らない。

 どうせ薬漬けにして生きてるか死んでいるのか分からない状態にするのは目に見えている。

 そんな状態にさせてたまるか。


「それで今はどうなってる」

「第5王女自らドラゴンを鎮めようとしてる。でも上手くはいってない」

「この咆哮を聞けば誰にでも分かる」


 たまに聞こえる爆音はとても苦しそうだ。

 早く解放してやろう。


「今じゃ色んな魔物とか色々物理的に抑え込んでる状態。魔法とか魔力とで封印の類もしてる」

「ち、それじゃこんな風に鳴く訳だ」


 苛立ちから舌打ちが出た。

 びくりとマダスとシルフィが動いて野良猫の方に行く。


「本当にマスターに任せていいのか?あの様子だと逃がしそうだぞ」

「…………私だって心境的には逃がしたいわよ。でも上の方が逃がすなって。町に被害が出るかもしれないじゃない」


 なにやらこそこそ話しているがとにかく重要な事を聞いておこう。


「ちなみに捕まえたドラゴンの種族は」

「ファイヤードレイク、ポピュラーな種族よ」


 それって本当か?ファイヤードレイクぐらいあのバカでも手懐けられる。

 なのに手懐けられないとなると別種である可能性も含めて考える方がいいだろう。


 そしてドラゴンが居るであろう巨大な飼育小屋の前で一度止まる。

 野良猫が指輪をかざすと大きな音をたてながら解錠されいく。


 小屋と言ってもそんじょそこらの小屋とはまるで違う。

 ドラゴンだけではなく、様々な戦闘向きの魔物を入れているのだから当然強固であり、更にレアな魔物を非合法な手段で手に入れようとする奴らから守るための施設だ。


 大きな音が静まると自然と扉が開く。

 扉が開くにつれ、ドラゴンが暴れる音とそれを押さえ付けようとする声が響く。


「そっち押さえろ!」

「翼も押さえろ!」


 まさに無理矢理、多くの人と魔物が1体の赤いドラゴンに群がり力ずくで取り押さえている。

 本当に気に入らない。


「グウウウゥゥゥゥゥ!」

「止めなさいあなたたち!そんな事をしても余計に怒らせるだけです!いい加減にしなさい!!」

「キュイキュイ!!」


 ……あのバカ居たのか。

 本当に使えないな。


「てめぇらそこを退け。それでも魔物使いかよ」


 軽く怒気を含んだ声で話す。

 そうするとドラゴンに群がっていた連中が俺を見る。


「誰だ貴様は!関係者以外は立ち入り禁止のはずだ!」

「お待ちください!彼は第5王女様が呼んだ魔物使いです!」


 野良猫が言うと顔だけを動かして俺を見る。


「さっさと退きやがれクズ共、俺がやる」

「な、何て言い方だ。我々は」

「悪いなお前ら、後は俺に任せてくれないか?」


 取り押さえていた人を無視して魔物たちに言う。

 魔物たちは俺と契約者を見比べて戸惑う様な素振りを見せる。


「頼む。もうその子を傷付ける様な真似はしてほしくない。お前らも仕方なくなんだろ?だから後は俺に任せてくれ」


 そう言うと魔物たちはそっと手を離した。

 その光景に魔物使いたちは驚く。


「何故だ!?こいつは契約者じゃないんだぞ!何故そいつの命令を聞く!」

「言う事を聞け!ブロン!ドラゴンを拘束しろ!!」


 手を離した魔物たちに魔物使いは命令するが言う事を聞かない。

 ドラゴンの方は離した事よりも俺をじっと見ている。どうやら俺に強い興味をもった様だ。


「悪いな、助けるのが遅れた。もう安心していいぞ」


 ドラゴンの口に巻かれた縄を外しながら声を掛ける。


「相変わらずとんでもない光景よね。魔物を連れず、身一つでドラゴンに近付いて行くんだから」

「それがあいつのスキル『寵愛』の効果なんだろうな」


 野良猫とマダスが何か話しているが目の前の子に集中する。

 そっと手を下から伸ばし、ドラゴンの顎を撫でると不思議そうにしている。


 俺は撫でながら『救世主』のスキルを発動させた。

 相手を癒す力は触れないと効果は出ない。

 なので触れないといけないが、触れられれば傷も病気も治せるチートスキルだ。目に優しい緑の光がドラゴンを包む。

 すると暴れている間に出来たであろう細かい傷が何事もなかったかのように輝く。

 ドラゴンは一度試すように身体を動かし、また俺を見る。

 とりあえずこれでいいか。


「何度見ても慣れねぇよな、これ」

「本っ当に何で魔物使いやってるんだろ?十分戦闘でも役に立つよね?」


 マダスと野良猫のツッコミは置いといて俺はさっきまでこの子を虐めてた魔物使いを睨む。

 魔物使いたちは茫然としていて動かない。

 俺はとりあえず今この中で1番偉い奴に話しかける。


「おい、ドラバカ」

「ちょっと!いまだに私の事をそう呼ぶの!?」

「一生変わんねぇよ。それよりバカ王女、こいつらクビにしろ。魔物使いの風上にも置けねぇ奴だ、それから二度と魔物使いを名乗らせるな」

「今度はバカ王女……もう学生の時のような関係ではないんですよ!」

「あっそ。なら王女らしくこいつら止めろや、その程度でドラゴン使い?カッコ笑いを付けてやる」


 そういうと反論したいが口には出せない様だ。

 ドラゴンは俺の服を噛んで自身の前に置く。


「こいつの世話は俺がやる。あとはマダスか野良猫を通してくれ、力のないバカ王女もクズ魔物使いもすぐに失せろ。この子のストレスになる」


 そういうと王女は荒い足取りで出て行った。クズ共もその後を追う。

 俺は直ぐにこの子の健康状態を確認する。『救世主』で治せるのはケガや病気だけ、その他の精神的な傷などは治せない。


「どうにかなったみたいだが……どうすんだこれから?」

「とにかくこの子を健康な状態にまで戻す。それから野良猫、この子のエサも用意してくれ」

「エサなら毎日用意してたけどこの子食べなかったわよ」

「どんなエサだ」

「牛肉のブロック25キロ」

「それってたぶん生餌じゃないから食わなかったんだと思うぞ。生きた牛食わせられる牧場ってないか?」


 野生のドラゴンはハイエナの様に死肉を貪る事はない。自分の力で狩り、仕留めた獲物以外は決して口にはしない。

 最近じゃ人間と共存するドラゴン種もそれなりに増えて、与えられたエサを口にするようにはなったが野生のドラゴンには通用しない。


「う~ん……今夜中に手配すればぎりぎり間に合うかも」

「そうか。それからマダスは俺の手伝い頼む」

「まずは何からする?」

「今日はいい。明日から忙しくなるぞ」


 健康状態としては少し痩せている。おそらくここ数日肉を口にしてなかったのが原因だろう。


 それにしても……こいつ本当にファイヤードレイクか?

 確かに見た目はよく似ているが他のファイヤードレイクに比べて線が細い。鱗の輝きもこの子の方が野生とは思えないほど美しく輝いているし、何より知性が高い。


 ファイヤードレイクははっきり言ってバカだ。ある程度の知性はあるが基本的に動物と変わらない。いくら『寵愛』のスキルがあるとはいえあそこまで早く懐かれる事はないだろう。

 しかもこの子は先程俺を引き寄せた。そんな事ファイヤードレイクがするはずがない。


 それにこの子はどことなく童顔っぽい。

 あくまで俺の感覚ではあるがこの子はおそらく幼体、つまり子供の可能性がある。しかもとても知性の高いドラゴンの種族だと予想しておく。


 もしこの子が本当にまだ幼体で親がこの子を探しているとすれば、その先は想像したくはない。

 王族用に捕らえたというがどう考えても失敗だ。

 となると俺に出来るのはただ一つ。

 早くこの子を元気にして野生に帰してあげる事だけだ。

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