もつべきは権力者
正直に言おう。
もつべきものは、権力のある友人だと。
現在、港にて人魚を運ぶための船の準備が最終段階に入っていた。
そこでは多くの海の男達が無駄なく休まず、荷物や備品の確認を行っている。
それを見てポツリと俺は呟いた。
「一体いつの間にこんな準備できたんだよ。昨日の今日だぞ」
「浜辺で人魚が暴れていたのは知っていた事だし、アイリアの名前が出た影響で余計に広まってたわ。それに地元の人から見れば十分価値ある仕事だものね」
俺のつぶやきに応えたのはエルノだ。
今日の朝、ラファエルの提案通りドラバカの姉達に相談したところ、すでにエルノが動いているとの事でエルノの船で人魚を送る事に決まったのだ。
エルノの船、と言っても個人が所有している船ではない。
密猟者捕獲組合の船、手っ取り早く言うと国が所有している船で人魚を届ける事になったのだ。
船は人魚が入る水槽の分もあるのでかなりデカい。
と言ってもそれだけではなく、元々密猟者対策としてデッカイ大砲やら何やらも積み込んでいる。
魔物を利用しないと魔法は使えないので、今でも大砲や銃などは主要武器として使われている。
一応として魔法対策も施されているらしいので軍艦としても使えるらしい。
ちなみに船は木製であり、鉄製ではない。
文化の違いなのか、はたまた魔物がいるので鉄製の船を作る必要がないだけか、その辺は分からない。
それから魔法対策及び魔法による船の強化は次女のイージス製である。
「価値ある仕事って?」
「地元民から神様のお使いとして崇められているのは知っているでしょ。だから自分達が神様のお役に立てることが嬉しいようよ」
「ほ~随分と信仰深いんだな」
「そう言うあなたは神を信じていないの?」
「全く信じていないとは言わないが……こちらの都合よく動いてくれるとも思ってない。ま、実際に天使やら悪魔やら、精霊やらが姿を現している世界で神様が居ないという証明にはならないからな」
個人的には居てもおかしくないんだが……どうなんだかな?
神様のパートナーになったっていう人の話は聞かないし、と言うか神様も魔物として扱っていいのかも分からない。
その辺どうなんだろう……
「そう言われると不思議ね。ラファエルに聞けば何か分かるかしら?」
「さぁ?流石に極秘じゃないの?極秘じゃなかったら神様の存在なんてとっくに知られてるでしょ」
「それもそうね」
「エルノ様!準備整いました!」
「ご苦労様。それでは人魚さんをお運びください」
「は!」
そう報告してきたのは昨日のライフセイバーの人だ。
今日は密猟者捕獲組合の制服を着ていたのですぐには分からなかった。
様子を見せる前に帰す事になったのは、あの人にとって良かったのか悪かったのか。
気にはなるがきっと良い事だろう。
少しでも早く親元に帰せることは良い事のはずだ。
ただ気になるのは……
「何でお前らも居るの」
「護衛に決まっているだろう」
「……魔法の整備とかもあるから……人混み嫌いだけど」
「私はこの際きちんと人魚さん達とお話をしたいと思って」
そう答えたのは長女と次女と三女だ。
一々名前呼んでたまるか。
面倒臭い。
「俺はてっきりドラバカ達とエルノ達だけで行くんだと思ってた」
「あ、私は人魚さんの体調検査のためにもいます」
「私は仕方なくだから気にしなくて良いわよ」
「私もおまけ~」
……ならラファエルさん以外来るなよ。
親に帰すためにこんなに人を引き連れて逆に警戒されないか?
いや、こんなデッカイ船で行く時点で警戒されるかもだけど。
そう思っているとエルノさんが俺に耳打ちをする。
「実は人魚さんを密猟目的で捕まえたのではないかと言う疑惑があるんです。実際人魚を高値で取引したいとの情報は上がっています」
「マジで。それじゃその対策も」
「対策込みです。船の装備もそうですが、1番は私達が居る事です」
そりゃそうだろうな。
国の中でもトップクラスの実力者4名が居れば対策出来てるって言えるよな。
これで重度のシスコンじゃなければな……普通に頼れるいい人達なんだけどな……ドラバカが絡むとな……ダメなんだよな……
「マスターマスター!あの大きいのに乗るの!?」
ルビーが興奮した様子で俺に聞いてくる。
「そうだ。でも何でそんな興奮してんだ?」
「だってあんな大きい乗り物初めて見たもん!」
「そりゃ一応20メートル級の魔物でも乗せられるように設計してるらしいからな。と言ってもその場合他の魔物は乗せられないらしいが」
「それでも大きいもん!船の中見て周ってもいい!?」
「それは止めとけ。これから人魚を安全に帰すために色々準備してる途中なんだから」
そう言うとルビーは分かりやすくしょんぼりする。
そんなルビーを撫でながら励ます。
「それが終わった後に見学しよう。そのぐらいいいだろ?」
「え、ええ。人魚さんを無事に送り届けた後でしたら構いませんよ」
「だってさ」
「うん!!」
満面の笑みで尻尾を振るルビーが本当に愛おしい。
撫でるだけだが俺まで嬉しくなる。
「……アイリア、不憫な子!」
「と言うかアイリアはこれを見せ続けられていたのか?」
「…………口の中が甘い」
「アイリア……勝てる見込み本当にあるの?」
四女、長女、次女、三女の順で言う。
そしてその物陰から何か嫌~な気配がする。
その方向を見るとドラバカが案の定いた。
ハイライトの消えた瞳で俺の事をもじっと見ている。
その表情は無表情で何を考えているのか分からない。
でもやっぱり怖いわ~、本当に怖いわ~
「エルノ様!!出発準備整いました!」
「分かりました。それでは出発しましょう」
こうして俺達は海に出たのであった。
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「にしても暇だな」
「暇なのは分かりますが、これは緊張を解き過ぎでは?」
「でも実際暇だよね~。マスターエッチしない?」
「……麒麟、これどう?」
『そのカードではなく、こちらのカードはいかがだろう』
「キュ~」
人魚が居るプールがある部屋で俺と5姉妹の魔物達とトランプをしていた。
今回のゲームはわざと長時間プレイできる七並べ、ついでに精霊女王と麒麟さんはタッグを組んでいる。
そして俺の膝の上ではルビーとキュイが座る。
正確に言うと俺の上にルビーが座り、ルビーの上にキュイが座っている。
今回ルビーは七並べのルールが分からないという事で辞退した。
ちなみに5姉妹や、マダス、野良猫も同じ部屋に居るのだが、別のトランプでバトル中。
姉妹対決は俺もみたかったな~。
「と言うか俺達この部屋に固まってていいのか?こういうのってばらけてるのが良いんじゃないの?」
「今回の護衛は人魚さんお1人だけですので問題ありません。それに魔物使いはマスターさんやアイリ様達だけではありませんからね。元々海に住む魔物使いが多いので船内に居ないだけですよ」
「それならいいんだが……」
「ちょっとー、ハートの6止めてるの誰~?そろそろキツクなってきたんだけど」
「……それならスペードのジャック出して」
「私じゃないも~ん。誰なの?本当に止めてる人?」
危機感がないな~俺達。
ルビーはルビーでルール覚えようとじっとゲームの流れを見てるし、まるで修学旅行の暇な時間だな。
そう思っていると突然ルビーが顔を上げた。
「どうしたルビー?」
「縄張りに入った」
「縄張り?誰の縄張りだ」
「“青”の縄張り。そろそろ人魚を外に出す準備した方がいいかも」
ルビーの真剣な表情に動く事にした。
青と言われても何の事だがさっぱり分からないが、急いだ方がいいのかも知れない。
ルビーの声色でラファエルさんも危機感を感じたのか、手札を床に置いた瞬間だった。
下から強い衝撃が襲ってきた。
それは何度もぶつかるように感じたため、自然なものではない。
さらに衝撃によって船が大きくぐらついている。
まともに歩く事すら難しい。
「ご、ご報告です!!」
「これは何!密猟者による攻撃!?」
「いえ!おっと!!超大型の魔物が船に体当たりをしています!!」
「大きさは!!」
「お、およそ50メートル級です!!」
……マジでやっべー




