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閑話 深夜のガールズトーク

「………………赤の女神様は、あの人間を随分慕っているのですね」


 深夜、ルビーに向かって人魚が声を掛けた。

 その様子は恐る恐ると言う言葉が最も当てはまり、水中で少し離れた所から、顔の半分ほどを出して聞く。

 ルビーはそんな人魚の様子などあまり気にせず、人工的に作られた浜辺に腰を掛け、脚で海水を叩きながら答える。


「だってマスターは私の夫だもの、慕うのは妻として当然でしょ」


 天井は開けられており、月明かりがルビーをより美しく見せる。

 そんな様子に人魚は同性でありながらも緊張する。

 そしてその返答にもとても驚いた。


「夫ですか。でもあれは人間ですよね」

「正真正銘人間よ。でも他の人間とはかなり違う、とても清い魂を感じる」

「それは……未熟な私も感じましたが、でも人間ですよ」

「人魚とはずいぶん人間を警戒しているのね。お父様やお母様の庇護を求めて来た者もいるけれど、あなたほど人間を警戒はしてなかったわよ?」

「それは……私達人魚にとって、人間は最も忌むべき存在ですから」


 人魚は昔からその美しさから人間に最も狙われてきた。

 海に居るサメの類も天敵と呼べるのだが、人間は人魚を捉えてもすぐには殺さない。

 時に慰み者として、時に観賞用のペットとして、時に実験材料として扱われてきた時代があった。

 それ故に人魚は人間には決して心を開いてはいけない存在として扱われている。

 たとえ同じ海にすむイルカやクジラ、アザラシなどとは仲良くなっても、人間だけは決して心を許してはいけない。


 その様に人魚達は教わってきたのだ。

 だからこそ海辺で人間に捕まるかと思った際には全力で抵抗した。

 身体を砂で傷付けても、捕まってはいけないと逃げまわったのだ。


 それを聞いてルビーはくすくすと笑う。

 人魚はそんなルビーを見て聞く。


「何故笑うのです」

「そんな人間の料理をほとんど残さず食べたからよ。警戒していたのなら全部食べなくてもよかったでしょ」


 そう言われて人魚は顔を赤くした。

 ブクブクと顔を目の下まで沈める。

 人魚自身もあれは食べ過ぎたと思っているのだ。

 いくら空腹であったとはいえ、あの大量の料理を1人で食べきれるとは思っていなかったし、最初こそはルビーやラファエルに遠慮しながら食べようと思っていたのだ。

 だが1口食べてみると味は絶品、そして妙に身体が料理を欲した。

 そうしている間にほんとどの料理を平らげていたのだ。


「だって……美味しかったんですから」

「それは確かに。あ~あ、毎日作ってくれたら嬉しいのにな~」

「普段は違うのですか?」

「ええ。普段はマスターの友人であるマダスと言う男が料理を作ってくれるの、あれはあれで美味しいのだけれど、マスターの方が上ね。てっきり料理が出来ないと思っていたから驚いたわ」

「はぁ」


 何が面白いのか分からないが、笑うルビーを人魚はただ見守る。

 そしてルビーは人魚に微笑みながら言う。


「マスターの事は信用して良いわよ。何も知らない土地で誰も信用しないのは、辛いでしょ」


 そう言われて人魚は違和感を覚えた。

 何故だかとてもその言葉には説得力があったからだ。

 力のある女神ならそんな事起こるはずがないのに。

 そして人魚は恐る恐る聞く。


「あの人間は信用していいのですか?」

「私が信用しているのだから、保証するわよ」

「……そうですか」


 赤の女神がそういうのであれば、と言った感じで人魚は陸に上がる。

 いくら海の生物とは言え、ずっと水中にいるのは大変なのだ。

 人工浜辺に上がる。

 少しルビーから離れて上がったのだが、ルビーは遠慮なく人魚に近付く。


「女神様?」

「あなた、“巫女”よね。どうしてこんな所に居るの」


 そう言われて人魚は固まった。

 まさかこうもあっさりとバレてしまうとは思ってもみなかったのだ。

 人魚は早々に諦めて、ヒレを脚へと変えた。

 それを見てルビーは確信する。

 やはりと。


「……やはりご存知でしたか」

「当たり前。私の所にも“巫女”ぐらい居たもの。と言っても私の所は竜人だったけれど」

「あはは、当然ですよね~」


 人間には知られていないが、各エレメンタルドラゴンには“巫女”と呼ばれる使者が存在する。

 各エレメンタルドラゴンによって種族は様々だが、どれも人間ではない。

 その理由も様々だが、何故か人間以外の種族を選んでいる。

 そして“巫女”の役目だが、それは彼女らが呼ぶ神の意思を聞くという仕事だ。


 彼女らの神は空想上の物ではない、実在するエレメンタルドラゴン達の事を指すのだから。

 信仰するエレメンタルドラゴンの声を聞きに行き、同じ信者達にその意思を伝える事が彼女達の仕事である。


「巫女であるあなたがここに居るのは大きな問題でしょう。それで起こる事態は想像できる?」

「……仮にですが、青の女神様にこの事が伝わった時、おそらくこの街は海に沈むでしょう。……ですから早く帰らないといけないのです!」


 人魚はすがる様にルビーに言う。


「確かに私達人魚は人間を忌み嫌ってはいますが、だからと言って敵対しようともしていないのです!ただ私達は平穏に過ごす事が出来ればいいだけなのです!ですから早くここから帰してください!!お願いします!!」


 それを聞いたルビーは考える。

 青のエレメンタルドラゴンに関しては一応親から話を聞いている。

 普段は穏やかな性格らしいが、1度怒ると手が付けられないらしい。

 特に彼らが起こす津波は強大で、人間の町など簡単に飲み込むとか。

 しかもただの人魚ならともかく、“巫女”である彼女が行方不明であり、しかも人間に捕まっていると勘違いされた時には必ず報復を行うだろう。

 ルビーは思考を巡らせた後、人魚に言う。


「……そこはマスターに任せるしかないわね、マスターはあなたを元気にしたら海に戻すと言っている。だから早く元気になりなさい。早く元気になればすぐ帰してもらえるわ」

「それなら今すぐにでも帰してください!!私はこの通り元気です!!」

「その判断は私ではなく、マスターが判断する事。こう言ってはは悪いけど、治療に関してはさっぱりなの。私の専門は炎であり、燃やすのが専門だから」


 そう言われて人魚は顔を伏せるしかなかった。

 人魚は“巫女”と言う立場から各エレメントドラゴンの特徴や役割をよく理解している。

 だから黙るしかなかった。


「……申し訳ございません。感情的になっておりました」

「仕方ないわ。故郷やこの街の事を考えての事でしょう。焦るのも無理ないわ」


 そう言ってルビーは人魚の頭を撫でる。


「お、おやめください赤の女神様!このような事をしてはいけません!」

「あら?どうして?」

「我々仕える者にその様な事をしてもらっては威厳が!」

「私マスターの前では威厳もへったくれもないわよ?」

「で、ですが……」


 そう言いながらも人魚はされるがままとなっている。

 ルビーは相手を撫でる感触を楽しみながら、マスターもこのような気分で撫でているのだろうかと想像する。

 一通り撫で終えると、ルビーは満足して手を人魚の頭から離した。


「それじゃ私はそろそろ戻るわね。一応天井は閉じておくけどいい?」

「はい。お願いします」


 そう言ってルビーは天井を閉めるボタンを押す。

 マスターが不審者対策と言っていたので、必ず天井は閉めなければいけなかった。

 なので天井の開閉ボタンに関しては既に教えてもらっている。

 それに人魚自身、夜寝る際には安全で水のある洞窟などで寝てるので丁度良かった。

 天井がきちんとしまったのを確認して、ルビーは人魚に言う。


「それじゃお休みなさい」

「お休みなさいませ」


 そう言ってルビーはもう寝ているであろうマスターの寝室に向かう。

 ほんの少しマスターの寝顔を楽しみにしながら部屋を出ようとした時、人魚に声を掛けられた。


「あの、質問宜しいでしょうか?」

「どうかした?毛布とかでも欲しいの?」

「そうではなくて……その……」

「私も眠いから早くして」

「はい!ではその、何故マスターと言う人間の前では口調が違うのですか?」


 本当に素朴な疑問だった。

 マスターと言う人間の前ではただ甘えるだけのように見たが、このマスターが居ない今は女神の威厳を感じた。

 どちらが素なんだろうと小さな事を疑問に感じたからだ。


 そう聞くとルビーはくすくすと上品に笑った。

 人魚はプールから不思議そうに見ると、ルビーは笑顔のまま言った。


「それはただ甘えたいだけよ。あなたも本気で異性の事を好きになれば分かるわ、それじゃお休み」

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