人魚の食事
俺はこの別荘の厨房で魚を捌いていた。
人魚が食うものは生魚っという事を聞いて早速鱗を落として切り身状態にする。
ただ個人的な事を言えば、本当にこれでいいのか疑問が残っている。
マダスに細かく聞いてみると、先程の情報は地元のお祭りの人達からの情報らしいのだ。
お祭りと言ってもわいわい騒ぐ感じではなく、神聖な儀式としての祭りだ。
年に2回、夏の終わりと春の始めに儀式を行うらしいのだが、魚の切り身などはあくまでも捧げものとして献上しているだけらしいのだ。
つまり実際に人魚が切り身を食べている所を見ている訳ではない。
となると一応火を通した物も用意するべきであると思った。
だって上半身は人間だし、調理技術がないとは言い切れないと思っている。
なので思い付く限りの魚料理を作ってみる。
煮つけに焼き魚、つみれ汁につみれをつくねみたいに串に固めて焼いたものなど、色々準備してみた。
「……本当に色々作りましたね。ちょっと羨ましいです」
「そうですか?ラファエルさんはいつももっと美味いもの食べてるんじゃないんですか?」
俺の作業の後ろにはラファエルさんが監督している。
別に調理に関して指導してもらっているとかではなく、ただ単に欲しい物などがどこにあるのかとか聞くためだ。
で、1品ずつ作っているとポツリとラファエルさんが呟いた。
俺の疑問にラファエルさんは答える。
「確かに美味しいものは食べていますよ。しかしそれはここの料理人達が作ったものでして、アイリ様の手作りではないので……と言うかアイリ様の手料理だと大変な事が起こりますので」
あ~っと思い出しながら思う。
実は魔物使いの試験では料理に関する事も含まれていたりする。
魔物の健康管理は料理などからも、と言う概念があり調理技術も必須科目だ。
と言っても実技の試験はなく、テストでどの栄養素がいいかとか、食べ合わせの選択問題とかそんな簡単な感じだ。
で、肝心の長女だが、これまた大変な料理下手なのである。
別に包丁さばきとかは問題ないのに、健康を考えてっと言う言葉で健康には確かにいいけど、不味い料理が並ぶ事が多かったのだ。
おそらくラファエルさんもそれを食べたんだろう。
栄養素的には完璧だが、不味い料理を。
「初めて食べた時は驚きました……見た目は綺麗なのに、あの不味さ……つい治癒を自身に使ってしまったほどですよ」
「それで結果は?」
「ただ不味いだけなので何の効果もなく、なのに食べれば体調がよくなるという大きな矛盾を感じました。美味しくて健康的な食事がしたいです……」
ラファエルさんの瞳からハイライトが消えている!?
どれだけの衝撃だったんだ、長女作の料理。
ちなみにドラバカ姉妹の調理できる出来ない状況。
長女とは不味い、次女は出来ない、三女は菓子限定、四女は普通にこなせる、ドラバカは上手い。
と言うかドラバカの場合は、俺に対抗している間に調理技術を高速で覚えていったと言うのが正しい。
それまでは危なっかしいけど、まぁ普通っと言った感じだ。
「ま、まぁそれでも人によって得意不得意がある訳だしさ、そう思い悩まなくても良いんじゃないか?隣の芝は青いだっけ?」
「ですがあれを思い出すと……」
「うん。とりあえず思い出さなくていいよ。食べたいのあったら言ってくれ、俺が作れるものなら作るからさ」
「ありがとうございます」
頭を下げるラファエルさんの隣で出来た料理をワゴンに乗せて運ぶ。
ラファエルさんも俺の後を付いて来る。一応人魚の健康状態を確認しておきたいそうだ。
という事で2人で人魚の元に行く。
一応人魚が居るプールに近い厨房で作ったんだが……遠く感じる。
こんだけ屋敷がデカいとなると、やっぱり移動だけでも時間が掛かるもんなんだろう。
もっと近くに出来なかったものだろうか。
飯をもってプールに来ると、そこにはルビーが居る。
人工的な浜辺みたいなところでしゃがんで人魚をじっと見てる。
人魚も怯えながらもルビーの事を見ている。
「何してんだお前ら?」
「あ、マスター。様子見てたの」
「そうか。それで変な所とか、違和感ある様な事あったか?」
「よく分かんないけど……多分大丈夫そう」
「ならよかった。でも一応ラファエルさんに様子見てもらうからな。ラファエルさん、お願いします」
「はい。それでは人魚さん、少し調べさせていただきますね」
そう言ってラファエルさんは緑の光を人魚に当てる。
医療技術に関してはラファエルさんの方が上なので、見逃してしまった所もきちんと見てくれるだろう。
でも人魚は相変わらず怯えている。
やっぱプールに飛び込んだのがダメだったかな?
「……健康状態に異常はありませんね。ただ細かい傷があったので治しておきました」
「ありがとうございます。そんじゃ飯にしよう。色々作ってみたから、食べれそうなのを食べてくれ」
そう言ってワゴンから料理を置いていく。
隣でルビーも「おお!」と言う。
そういやルビーが居る時に料理したのは初めてかもな。
基本的に旅をしている時はマダス頼みだったし。
「マスターマスター!これ私も食べていい!?」
「ダーメ。これは人魚のために作ったんだ、人魚が食べれない物だけにしなさい」
「え~美味しそうなのに」
「あとでまた作ってやるから。とりあえず……フォークとスプーンでいいか?好きなもん食って、体力付けろよ」
そう言って出したが食べる様子がない。
これは……警戒してるのか。
人間の俺を。
「じっと見てたらそりゃ食い辛いか。ルビーが食いたいもん作ってやるからまた厨房借りるか」
それっぽい事を言って離れるとしよう。
そう思って言うとルビーが手を上げながら言う。
「それなら魚の肉団子が食べたい!!」
「つみれな。他にはあるか?」
「それじゃその甘そうなソースが掛かってる奴と、焼き魚!!」
「なんちゃって照り焼きソースと焼き魚な。そんじゃ作ってくる。ラファエルさん、よろしくお願いします」
「はい。お任せください」
ラファエルさんに任せておけばひとまず安心だろう。
とりあえず俺は退場させていただきますか。
-
………………再びワゴンに飯を乗っけてきた俺だが、一体何があった?
明らかに警戒していたはずの人魚が陸で寝転がってる。
ちょっと腹が出ている様な気がするが……食欲がある事は良い事だ。
そしてルビーとラファエルさんは口に食べかすが付いている。
かなり作ったから余ったの全部食べたのか?
「あ、マスター。ご飯持ってきた?」
「ああ。俺とルビーの分な」
「………………私の分は?」
「ちゃんと用意してますよ。米とかも持ってきたのでここで飯としましょう」
米びつに入った米をよそって渡す。
後はルビーの要望にあった、なんちゃって照り焼きソースをかけた魚と、焼き魚を出す。
「そんじゃいただきます」
「いただきます!!」
「いただきます」
今日は3人での晩飯となった。
他にいるドラバカなどは他の所で飯を食っている所だろう。
にしても……あれ全部食ったのか?
空になった皿には、掛けたソースと魚の骨以外残っていない。
ルビー達も食べた様だが……どうだったんだろう。
「ルビー、ラファエルさん。人魚どれぐらい食べてました?」
「すんごく食べてたよ。最初は警戒してたけど、すぐに安全だって分かるとすんごく食べてた。にしてもマスターも美味しいご飯作れたんだね」
「知らなかったんですか?ルビーさん。彼は学生時代、料理で魔物の心を掴んだ方ですよ?それから人魚さんのについては食べ過ぎな気がしますね」
「やっぱりですか。明日下痢とか起こさないといいんですけどね」
ちょっと警戒しておく。
食べ過ぎでなら問題ないが、他に病気とか掛かってたら大問題だからな。
健康で元気に海に帰してやるのが俺の仕事。
俺の飯食べ過ぎで体調不良とかシャレにならん。
「でもマスター、何で普段は料理しないの?普段はマダスがしてるよね?」
「そりゃ助手だからな。基本的に観察とか集中できる環境を作ってもらってるし、逆に言うとそれぐらいしか頼む事がないんだよな。基本的に1人で出来るし」
「何でもできると言うのも考え物ですね。頼む事がないとは」
「でもマダスのおかげで色々助かってるからな。研究に没頭している間に寝不足になってたり、携帯食料だけで済ませる様になったり、1人の時は食糧事情も酷かったらしいからな」
学生時代、卒業論文で1人とある魔物の群れを追いかけ回してしていたのだが、その時食っていたのが水と携帯食料だけと判明するとドラバカだけじゃなく、マダスにも怒られた。
そんなに酷かったかな?
「私、そんなご飯になる可能性あったの?」
「いやいや、それは俺が1人だったからだって。ルビーの分はちゃんとまともな飯用意するって」
「でもありえない話ではないですからね。大した事のない魔物使い検定だと食事部分は省力されている事が多いですし、料理が出来ないと保存食で済ませる方もいますから」
「それって自分の魔物にか?そりゃずさん過ぎるだろ……」
そんな場合だと魔物もすぐ離れていくだろうな……契約と言っても絶対の物ではないし。
「それから随分ガツガツ食ってるが……そんなに腹減ってたか?」
「ただ美味しいだけだよ。お代わり」
「私はご飯だけお願いします」
「あいよ~」
こうしてのんきに飯を食べ終えた。
人魚が食った分も片付けて、ワゴンに乗っけて戻ろう。
「ルビー、部屋に戻るぞ」
「あ、マスター。今日はこの子と一緒に居てもいい?」
「人魚とか?そりゃいいがどうした?」
ルビーが俺から離れるなんて珍しい。
最近じゃ嫁って言葉に興奮してべったりだったから余計に珍しい。
「魔物のガールズトークだよ。だからマスターはこっそり聞いたりしちゃダメだからね」
「そう言うもんか?それじゃ明日の朝には戻って来いよ。また飯運びに来るからな」
「うん!分かった!」
こうして俺とラファエルさんの2人でそれぞれ自室に戻るのだった。
それから当然食器等は洗って返しました。




