毎度の腕試し
いくら4体にやる気がないといっても、超有名どころの魔物達である。
軽くでも十分に危険と言える。
「ふっ」
ラファエルさんの武器は槍だ。
自身と同じ色の光の槍を生成し、武器として利用する。
と言ってもこれは天使なら下級の天使でも出来る、基礎的な攻撃と言える。
だが構えているのはラファエルさん。
半分やる気ないといってもその槍捌きは鋭い。
癒し系天使は実は最も容赦がない。
それは何故か、簡単だ。
たとえ相手がどれだけの大怪我をしても簡単に治す事が出来るからだ。
しかも俺のスキル、『救世主』の上位互換を持っている。
触れることなく、広範囲で相手を癒す事が可能。
しかも体力の回復まで行えるのだからチートである。
俺の救世主は傷と病気までは癒せるが、体力は自然回復を待つしかない。
しかも俺のより消耗も少なさそうだし!
そんなラファエルさんの連続の突きをギリギリのところでかわす。
身体強化のおかげでどうにか避けている感じだ。
「流石ですね」
「そりゃどうも!毎日旅してますから!」
そう言いながら身体強化を、ほんの一瞬だけさらに強化させる。
その一瞬で懐に入り、ラファエルさんの腹にポンと手で触れた。
「あらら、まずはここまでですね」
そう言ってラファエルさんはあっさりと引いてくれた。
その隣で長女はラファエルに「もっと本気出せ!」っと言っているがこれが終わりの合図だ。
何度も何度も戦っている間に出来た喧嘩ルール。
どちらかが相手に触れた時点で勝負は終わりと、ラファエルさん達の間で決めた約束だ。
「それじゃ次、アスモデウスいっきまーす!」
そう言ってアスモデウスからピンクの煙がってこれ!
俺は慌てて服の袖で、直接その煙を吸い込まない様にする。
「その煙毎度止めろって言ってるだろ!!」
「嫌よ、これだってサキュバスとしても能力だし、問題ないよね」
明るく、ウインクありで可愛く言ってるつもりだろうが、実はこの煙、結構えげつない。
下級のサキュバスなら、ちょっと性欲が強くなって、好みの女性に見えるだけの煙なのだが、その際上位に位置するアスモデウスの場合はかなり変わる。
幻覚作用あり、睡眠作用あり、性欲超強化作用ありと色々ヤバい。
下級サキュバスなら幻覚作用だけで、対象の好みの異性に見える様になるだけ。
それでも十分ヤバいがアスモデウスはその上を行く。
幻覚作用で対象の理想の異性に化け、催眠作用で夢心地にし、性欲超強化で対象を理性も知性もない、ケダモノに変えてしまう。
しかもその催眠効果は強力で、そこら辺の物とか、同性同士で合ってもその効果は発揮する。
普通のサキュバスはそこまでできない。
ちょっとした違和感などで催眠が解けてしまうため、普通は物やら同性間での幻術は使えない。
「問題大有りだわ!!十分世界を掻き乱す能力持ちだろうが!」
「でもマスターには効かないじゃないない!!それが私にとってどれだけの敗北で、屈辱だったか分かる!?これ1つで老若男女問わず、ケダモノにしてきたのよ!だからこれはリベンジよ!!」
そう言って俺を指差すが……ごめん、全く効かないんだわ。
『健全』の影響でそう言うの効かないんだよね……
「リベンジっつっても、ぶえっくし!一応効果あるじゃん」
「私の煙を花粉症と一緒にしてる時点でバカにされまくってるのよ!!」
効果はないがアレルギーもどきは出る。
具体的には鼻水、くしゃみ、目のかゆみ、涙がめっちゃ出るなど。
おかげでアスモデウスに童貞奪われてないけど。
いや、別に大切にしてる訳でもないんだけどね。
ただ積極的過ぎて興奮しずらいと言うか……好みの問題と言うか……
とりあえずくしゃみをしながらアスモデウスの方にポンと肩に手を置く。
アスモデウスが本気で戦っている所を俺は見た事がない。
実際こうやってちょっかい出して来る時も、拳も武器も構えたことすらない。
と言っても、学校でこの煙が充満した時は、大変な騒ぎになったが。
「……アスモ、ちゃんと戦って」
「くっ!今日もダメなのか!それからね、イージスちゃん。サキュバスとしてはちゃんと戦ったわよ?」
「……本当は強いの知ってる」
「嫌よ、正直戦いにはあまり興味ないの。それよりもマスターちゃんと童貞、今日もゲットできず……」
そんな四つん這いになって言う程か?
ちょっと不思議に思っていると嫌な気配がした。
飛び退くと、地面の下から木の根の様な物が地面を突き破って来ていた。
始まりの合図もなしかよ。
「女王ちゃん!避けられちゃったよ!?」
「……流石マスター。勘がいい」
「十分驚いたんだがな。流石女王だ」
と言っても女王の攻撃は必ずこれから始まる。
まずは木の根で俺を捕まえて、そのまま俺の生命力を奪う。
初めて食らった時はマジで驚いた。
「ホント攻撃する速度だけは女王が1番速いんじゃないですか?」
「……ん。私の場合は他のみんなの力を借りてる。1人で戦った事はない」
「これが女王ちゃんの力!精霊の力を束ねて、力を倍増させる。それが女王ちゃんの実力なのだ!!」
そんなもん、とうの昔に知っている。
女王の周りには、目に見えない精霊達が常にいる。
属性も様々で、木の根は木に関する精霊の力を借りて行っている。
火の力を使いたかったら火の精霊を、水の力を使いたかったら水の精霊を、と言うように使い分けるので手数の多さで言うなら女王がダントツだ。
と言ってもネタは分かっているので、その対処法もよく分かっている。
俺は息を吸い込んで、思いっきり声を出した。
「っ!!」
「え、どうしたの女王ちゃん?耳なんて抑えて?」
そうして女王が耳を抑えている間に、女王の目の前に行く。
三女の頭の上にいるので三女の頭の上に居る女王を指先で触れた。
「これで俺の勝ち」
「……これじゃ風の精霊に頼めない。ズルい」
「ズルくはないだろ?これだって魔物の生態を知っているからこそできる戦法だ。あ~喉いてぇ」
「え?何で女王ちゃん負けたの?ズルい事したのかこの野郎!!」
「やめろ三女。ただ精霊にしか聞こえない奇声を発しただけだ、ちゃんとこれも俺の実力のはずだ」
精霊と言っても結局は魔物。
人間なんかより優れた聴覚を持っている。
だから人間には聞こえない音、つまり超音波だって聞こえる。
その超音波を俺が奇声として発する事により、女王達精霊は、耳を塞いだという事だ。
ちなみにこの奇声、当然俺には聞こえる、
身体強化とは筋肉だけではなく、聴覚や視覚などの五感の強化にも使える。
と言っても俺に聞こえるからと言って、どの音を精霊が嫌うかは手探りだった。
ちなみに協力者はシルフィ。
妖精は精霊の下位互換と言ってもいいぐらいなので、とても生態が似ている。
さらに風の妖精という事もあり、妖精の中でも特に聴覚に優れていたのも運が良かった。
「てことで最後は、麒麟さんか」
『よろしく頼む』
「お互い本気は出さないで下さいね」
エルノさんがそう言って離れた。
こうして俺と麒麟さんは対峙する。
この4体の魔物の中で最も油断できないのが麒麟さんだ。
生真面目で不器用、そして強い。
俺と麒麟さんとの対決は黒星の方が多い。
それだけ麒麟さんは真面目に俺と戦ってくれるし、手を抜いてくれない。
睨んでいると麒麟さんの方から動いた。
まずは麒麟さんの突進、俺は当然避けるが結構遠くまで逃げないといけない。
麒麟さんの一番強い攻撃は後ろ脚でのキックだからだ。
最初はいつも通りと思ったのか、突進で俺を通り過ぎたかと思うと、急停止して後ろ足で俺を狙ってくる。
俺はいつもの動きなので避けれるが、その威力だけは以前よりもあがっていた。
後ろのキックの余波だけで突風のような風が俺の横を通り抜けた。
その風が地面に当たると、地面はクレーターの様に凹んでいる。
『よく避けたな。以前よりも速い』
「麒麟さんこそ、前よりもキックの威力が上がってますよ」
『エルノ様のおかげだ。エルノ様の食事や運動によって後ろ蹴りの威力も上がった。では次はこうしてみよう』
そう言って麒麟さんの鼻先からレーザーが撃ち出された。
これもよくある攻撃だ。
でもこれありきたりの攻撃でも、麒麟さんが使うと桁が違う。
このレーザー攻撃、めっちゃ速い。
光の速度で攻撃してくるので、目で確認していたら絶対に回避に間に合わない。
だから視線や気配を頼りに攻撃を予測して、事前に避けれるようにしておかないといけない。
1発を回避しても、次々撃って来るので避けるので精一杯だ。
しかもやろうと思えば鼻先だけではなく、普通に空間から放つ事も可能なのだから連射も可能である。
『なかなか当たらないものだな』
「そう何度も食らってたまるかよ!」
避けながら麒麟さんに近付いて攻撃しようにも簡単に避けられてしまう。
レーザー攻撃で思うように行動できないし、麒麟さんの速度そのものも速い。
こうなると捨て身で行くのが1番手っ取り早いんだが、そうなると俺の負けだからな……
『ではそろそろ終わらせるか』
そう言って麒麟さんは俺の周囲の空間からレーザーを放とうとする。
ここまでかっと思うと、大きな何かが、俺を包んだ。




