目指すはバカンスの地
突然の提案だったが、他のみんなは即座に賛成した。
仕事兼バカンスって感じなのはドラバカや野良猫的に大丈夫なのかちょっと気になったが問題ないらしい。
さて、賛成多数なのは問題ないが次の問題は行き先だ。
ルビーは初の海と言う事を前提に良い海を探したのだが、やっぱりお高いリゾートばっかりだった。
こりゃ金銭的にどうする?ちょっと濁ってても安いとこ行くか?
なんて話が出たのだが、そこは任せろとドラバカが胸を叩いた。
それでどうしたのかと言うと、ドラバカの別荘に泊まる事になった。
さっすが王族、別荘が普通に出てくるとは恐れ入る。
ただ懸念するべきが1つ、それはドラバカの家族だ。
姉妹が俺の天敵であるのは当然だし、ドラバカの母親は母親でちょっと変な所があるし、ドラバカの父親は何をどう勘違いしたのか、俺がドラバカに気があると思い父親として攻撃してくる。
ほんとドラバカの家族は俺をどうしたいんだろう?
せめて亡き者にするのか、引き込もうとするのか決めて欲しい。
と言っても反対勢力の方が大きいから、板挟み状態とは言えないのだが。
ドラバカの家族については置いといて、行先はリゾート地であるブルーシェルと言う街に行く。
当然漁業も盛んなのだが、特に目立つのは真珠だろう。
真珠を作ってくれる貝、パールクラウンと呼ばれる貝が多くいるからだ。
それにより真珠市場を独占している。
パールクラウンは特定の生息区域にしかいない希少な動物だ。
大粒と呼ばれる真珠を1つ作るのに時間は掛かるが、それがまた真珠の価値を上げる事になるのだから特別痛い事にはならない。
そんな真珠の売買によって出来たのがそのリゾート。
真珠の町とも言われるその街に向かう事となった。
移動は普通に街まで一旦歩いて戻り、公共馬車で向かうのは駅だ。
この世界の列車は民間ではなく国が仕切っている。
それ故に値段は安い代わりに、主要都市にしか止まらないが馬車に比べれば十分早い。
それにただの蒸気機関ではなく、木炭や石炭を食べる亀、コータートルが木炭を食べて発生させる熱によって機関車が走る。
電気でないのは俺以外の転生者が電車の時代ではない所から来たのか、もしくはただ単に作れるだけの技術や知識がなかっただけか。
まぁどっちでもいいが俺は機関車は嫌いじゃない。
そんな旅らしい旅なのだが、1つ問題が起こった。
「………………」
「大丈夫か?ルビー」
「………………ダメ、かも。うっぷ」
ブルーシェル行の公共馬車がある町までは特に問題なく来たのだが、その後が問題だった。
いや魔物が一緒に乗れる公共馬車は珍しくないのだが、初めての馬車にはしゃぐルビーがあんまり時間掛からず酔った。
「ほれ紙袋。いざって時はそこにリバースしろ」
「ドラゴンとして、そんな真似はしたくない……」
「いや多分ドラゴンとか関係ないから、弱い奴は弱いから」
「でもキュイは……」
「多分体質じゃねぇの?人間にだって色々いるし」
ちなみにキュイは乗り物酔いにはなってない。
いつも通りドラバカの方に乗っている。
だがそうなると国に捕まってた時は大丈夫だったのか?
ドラゴンを移動させるときは超大型の魔物用の檻付きの台車で運ぶはずだ。
その時は大丈夫だったのか?
「う~、前も気持ち悪くなったし、あれ、気のせいじゃなかったんだ」
あ、前にも気持ち悪くなってたみたいだ。
でもまぁ確かに揺れは酷いんだよな。
自動馬車、車の振動を抑えるバネの奴は一応馬車にも使用されるようになってるんだけどな……
「とにかく大人しくしてろ。変にはしゃぐとまた気持ち悪くなるぞ」
「うう~分かった」
俺に身体を預けて寄り掛かるルビー。
そんな俺達をジト目で見るのが前の3人である。
「よく公共馬車の中でイチャイチャできるわね。恥ずかしくないの?」
「それからお姫様、キュイを潰しそうなぐらい抱き締めてるよ」
「あ!ごめんねキュイ!」
ずっと俺とルビーの事を睨みつけていたドラバカが慌てて両腕を放す。
キュイはルビーとは別な意味でグロッキー状態だ。
解放されたキュイはゆっくりと飛んで俺の膝の上に乗って丸くなった。
「な、何でキュイまでマスターの所に……」
「ああ、多分だけど俺今ルビーのために『救世主』使ってるからじゃないか?何度も何度も鳴いてるのにドラバカはキュイの声に気付かないから。ちょっとでも回復したいんじゃねぇの?」
そう予想して言うとキュイが鳴いた。
どうやらそうらしい。
「う、うぐぐぐ」
「今のはアイリが悪いって。強く抱きしめすぎ」
「全く、昔っから感情的だよな。お姫様は」
言われて反論が出来ないのか、俺を強く睨み付けるだけのドラバカ。
そこで俺は敢えてキュイの頭を撫で、ルビーを抱き寄せた。
『救世主』の力を使っているからか、キュイは気持ちよさそうに欠伸をするし、ルビーは酔いのダメージが減って、穏やかな安心した様な表情になる。
……いやドラバカ、その表情はないんじゃないか?
歯をむき出しにして歯ぎしりして、俺に襲い掛かりそうな表情ってダメだろ。
お姫様どころか女としてしちゃいけない顔だと思う。
どんだけドラゴンハーレムに憧れてんだよ。
「またマスターが見当違いなこと思ってる」
「本当にお姫様が不憫だ」
マダスと野良猫が何か言ってるが全く気にしない。
それに予想が違うのなら俺には何に歯ぎしりしてるのか分からない。
とにかくそんな感じで公共馬車で駅に向かっていく。
そして数時間後。
「う~ん、着いた~」
思いっきり背伸びをしながら馬車を降りる。
ちなみにルビーはいつのまにか寝てた。
可愛い寝顔に写真を収めたかったが、肝心なカメラがない。
この世界のカメラは魔道具扱いなのでかなりの高額商品だったりする。
あるのは学校や有名な研究所ぐらいだ。
個人で持っているとしたら金持ちが王族貴族様だろう。
「ルビ~起きろ~」
「ん?着いたの?」
「着いたから起きな、それともまだ眠いか?」
「眠い……」
「それじゃおぶってやるから、ちゃんと掴まれよ」
「うん……」
軽くルビーを背負いながら馬車を降りる。
袋は間抜けだが前の方から腕を通させてもらおう。
そうしていると頭の上に何かが乗っかった。
「キュイ!」
どうやらキュイらしい。
頭の上がお気に入りなのは本当に変わらないな。
「キュイまで、キュイまで私から離れていく……」
「アイリア、そんなのいつもの事でしょ。あんたは構い過ぎなのよ」
「だって、だってキュイの契約者は私なのに~」
「そんなのみんな知ってる事だから、最後には必ずキュイはあんたの元に帰って来るから、ね?」
「ティ~ナ~!普通に優しいのはティナだけなの!!お姉様やお父様はしつこいし、お母様はお父様ばっかりだし、キュイもマスターに取られちゃうし、もう私には貴女しかいないの!!」
「う~ん、嬉しいんだけどちょっと待って。周りの人がすんごく優しい目線送って来るからちょっと待って。みなさ~ん、確かに私たち親友ですけどそう言う関係じゃないですよ~、私には彼氏いますからね~」
何だあの言い訳。
その程度で誤解を解けるとでも?
ふん、無理だな。
最低でも俺がドラバカの姉や父親の時はダメだった!
「そういやマダス、契約関係の魔物の分のチケットっているんだっけ?」
「いや、確か無料だったはずだ。ちゃんと管理するって名目で」
「トイレとか色々あるもんな。まぁルビーは人間用で十分だけど」
「とりあえずティナたちを呼ぶか。お~い」
マダスの呼びかけでようやくやって来た女子2人、色々騒がしいこった。
という訳でさっさとチケットを買い、機関車に乗り込むのだった。




