気分屋
遠目に最後の奴が死んだのを確認して俺は戻った。
確実に死んだのは死に方を見て判断する。
むやみに死体に近付くのは俺の事がバレてしまう可能性が高いからだ。
この世界には魔物がいて、その中には死んだ人間の記憶を見たり聞いたりする事が出来る魔物が居るからだ。
そう言う魔物は不自然死の捜査にとても役立つ。
この世界では死因を調べるために死体を切る必要はなく、その魔物を使えば済むからだ。
と言っても万能とは程遠い。
あくまで見聞きするのは殺された者の記憶なので、暗殺に関してはあんまり意味が無い事が多い。
何故なら犯人を見ていない事の方が多いからだ。
例えば突然背後から首を斬られたり、心臓を刺された時に相手の顔を見ていなかった場合は犯人の顔など分からない。
と言っても私怨で突発的な犯行だった場合はとても役にたつ。
そう言う時は正面から殺しに来ることが多いので犯人の顔をしっかりと見ている事が多いからだ。
だが俺がやった犯行は長距離からの投石という原始的な殺し方、だが遠過ぎて顔が見れない距離だった場合はとても有効な手段だ。
魔物の協力で犯罪を取り締まる事が出来るが欠点はそれなりにある。
例えば前の世界では当たり前だった指紋からの捜査はされていない。
指紋そのものは個人でそれぞれ違うものという知識は一般的だがそれを捜査に利用されていない。
もっと簡単に言うと指紋を取るための道具が出来てない。
この世界の発展のほとんどが魔物との共存によって生まれたのでどうしても魔物の魔法や生態を利用した物ばかりが生まれる。
それによって科学的な物はあまり生まれず、魔物の魔法を利用した物が多く生まれてしまうのだ。
たとえ利用していたとしても、そのほとんどが俺の様な前世の記憶がある連中が作っていると感じる。
とにかくとても原始的な犯罪でも、こうして捜査の実態を知っていればある程度は誤魔化す事が出来る。
それから死体に近寄らない理由は、これまた魔物によって死体に近付いた者がいないか調べられる事が多いから。
もしこのまま確実に死んだか確かめに行ったら俺の事がバレる可能性の方が高い。
なので殺した後は放っておくのが安全だったりする。
ではドラバカ達に怪しまれない内に戻りますか。
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「マスターお帰り~」
「お出迎えか?ありがとな、ルビー」
テントに戻るとルビーがテントの前で待っていた。
ずっと待ってくれていたんだろうか?
「掃除は終わったのか?」
「うん。ちょっと怒られたけど」
「怒られた?」
「うん。部屋にある小さな埃だけを燃やす様に熱風を吐いたらティナに怒られた」
「そりゃ怒るよ。火事になったらどうすんだよ。それから埃だけ燃やしても灰とか残んじゃねぇの?」
「灰も残さず燃やせるよ」
「やっぱ危険な気しかしない。もうすんなよ」
「はーい」
そう言ってルビーは俺の腕に絡みつく。
やっぱり柔らかい感触がする。
女だからなのか?
「マスター、何か嫌な事あった?」
「ん?どうした突然」
唐突な問いについ聞き返してしまう。
そう聞くとルビーは心配そうに言う。
「マスターと契約関係にあると、ある程度マスターの感情が分かるんだよ。さっきまで冷たい感じがしたから何か嫌な事があったのかな~って思って」
そんな事が分かるのか。
魔物の知識はあるがそういう経験的な部分は皆無に近いからな、そんな事知らなかった。
ここで嘘を付く必要もないだろうから素直に言う。
「正直に言えば嫌な事、じゃなくて嫌な奴が来たってのが理由だよ」
「嫌な奴?」
「密猟者だよ。あいつら魔物を不正に捕まえて売りさばいてんだ」
「それって食べるため?」
「そうじゃない。毛皮が目的だったり、牙とか爪とか、食べるためじゃなくて見栄を張るために手に入れたがるのさ」
「見栄って身体が大きいとか、魔法がこのぐらい使えるぞって感じじゃなくて?」
「人間の場合は違うよ。人間だってそれなりに個体差はあるけど、それ以上に持っている物とかで見栄を張りたがるんだ。俺にはあまりよく分からないけど」
見栄を張る奴はどこにでもいる。
学生時代には腕時計をしている奴がそれだった。
前の世界では腕時計は高いのから安いのまで色々あったが、この世界の腕時計は高い。
その腕時計をしてきた奴はどっかの貴族のボンボンだったらしいが、あっさりと魔物に外していた腕時計を踏まれてすぐに壊れたというエピソードがあった。
そいつと同じなんだろう。
密猟者に依頼した奴らは魔物を美術品程度にしか考えていないのだろう。
自然環境の変化による生物の衰退は仕方がないと思うが、人間の搾取による物はある程度抑えられるとは思う。
地元の先住民による食うための搾取なら仕方ないと思う。
だがたかが美術品のように飾るのを目的に、生態系を狂わすほどの搾取は無意味だ。
だからそんな無意味な搾取をする者、搾取を依頼する者が気に入らない。
彼らには彼らの生活があるんだ。
それを無意味に乱すのは間違っている。
「……お父様も言ってた。強欲な人間はドラゴンの鱗や爪を求めてくるから気を付けなさいって」
「ああそうだ。気を付けろ、人間は醜い。この自然界の中で最も醜いのは人間だ」
「マスターも人間なのに?」
「あったり前だ。もし俺がルビーに間違った事をしたときは、容赦なく殺せ」
真剣な表情で言う。
俺が人間を醜いと言ってその醜い行動をしたときは、殺してくれて構わない。
そう言うと寂しそうに俺に強く抱き付く。
「そんな事言わないでよ、私寂しいよ」
「絶対なんて事はないだろうからな、一応程度に考えてくれればいい。それに俺も変わる気はない」
「でも嫌だよ。マスターを殺すなんて。殺して、何て言われるのも」
本当に寂し気と言うか、不安げな表情で言うルビーの頭を撫でながら言う。
「悪かった、俺の方が考えなしだったな」
「本当だよ。それにマスターがそう簡単に変わるとも思えないし」
「それじゃそうなる前に止めてくれ。ぶん殴ってくれても構わない」
「それなら……出来ると思う。そうならないように全力で止めるからね」
「頼んだ」
そう言うとちょっとだけルビーの顔が晴れた気がする。
やっぱりこっちの顔の方が見ていてとてもいい。
女の化粧は笑顔、何て言葉があるがその通りだと強く思う。
この笑顔を維持できるように頑張らないといけない。
「でも……みんな逃げちゃったね」
ルビーが残念そうに湖の方を見る。
先程のエンジン音のせいで動物達はみな逃げてしまった。
おかげでさっきまで湖の周りには多種多様な動物達が居たのに今では全くいない。
全く、密猟者共のせいで仕事がさっぱり進まん。
「どうする?追い掛けるの?」
「ど~すっかな~。こう何度も邪魔が入るとやる気が起きなくなる」
お国からの依頼……はルビーとの出会えたから良いとして、その後の密猟者とかがいると邪魔としか感じられない。
またこうやって密猟者に邪魔される可能性がある以上、いっその事対象を変えるのもいいのかも知れない。
前の世界では全く知らない種族がいる以上山でも海でも調べてみたい動物は山ほどいる。
そこでルビーに聞いてみる。
「なぁルビー、行ってみたい所とかないか?」
「行ってみたい所?う~ん………………あ、海に行ってみたい!」
「海?」
「うん!ずっと山の方にいたから海って見た事ないの、だから海見てみたい!!」
なる程、海か。
海で暮らす海洋生物はとても多い。
この世界でも大陸の面積より海の方が広いので当然海洋生物も陸の上よりも多く存在する。
それに暑いから丁度いいかも知れない。
「それじゃ海に行くか」
「え、いいの?牛を見るために来たんでしょ?」
「牛の方もしばらくは元通りに生活するのにしばらく時間が掛かるだろ。それに何度もこう仕事の邪魔が入るとやる気がな……」
「みんな良いって言うかな?」
「言うんじゃないか?夏だし、暑いし、基本的に俺は面白おかしく過ごすのが好きだからな。涼みながら仕事できるから丁度いい」
でもそうなるとおそらく街中で過ごす事になるだろうが……ルビーは俺達以外の人間相手に大丈夫だよな?
いきなり暴れる事はないだろうが、ここに来る前までの人間への印象は良くないだろうかならな……
「一応聞いておくがルビー、おそらく今度は人間の町にしばらく居る事になるだろうが大丈夫か?」
「人間の町?ちょっかい出さなければ大人しくしてるよ?」
「それでもさ、お前的には人間って嫌な存在じゃないか不安でさ。それに直接手を出さなくても嫌だって感じる事はあると思うぞ」
「大丈夫だって。それでもマスターは一緒に居てくれるんでしょ?」
「そりゃ当然だ」
「なら良いよ。私の事を守ってね、マスター」
そんな笑顔100%で言われたら断れる訳がない。
元々断るつもりもないし、当然だけど。
「分かったよルビー。全力で守らせていただきます」
「お願いします」
明るく元気に言うルビーの事が、本当に愛おしいと感じた。




