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気に入らない存在

 この世界にはどう考えても俺の様な前世の記憶を持った存在がいたと思う事がある。

 その証拠は様々な形で残っている。

 例えばcm、前世でも使っていた長さを表す単位だがどう考えても前世の時と変わらないと思う。それによってkmも当然の様にあるので恐らく誰がそう伝えたんだろう。


 そういった単位の様な物もあるが、最も多いのは道具だ。

 どう見ても携帯の様な物があるし、クーラーやストーブだってある。

 と言ってもほとんどが魔道具として普及されているのでお手頃価格とはいかない。

 それでも前世の元をに創られたと思う物がそれなりに存在する。

 自動馬車もその中の1つである。


 自動馬車は様々な魔法を利用した超最高級の魔道具と言われており、王族だけが持っている様な物である。

 あとはどっかの金持ちがステータスとして作らせたりしていると聞く。

 そして最も利用しているのが、悪い事をして金を稼いでいる連中だ。


 連中にとって車はまさに夢の道具なんだろう。

 馬より速く、疲れない。壊れたら壊れたでその部品を取り換えればいいだけなので使い勝手がいいんだろう。

 と言ってもパーツに細やかな魔術が掛かれている場合はそう簡単に修理することは出来ない。


 それから燃料は魔力だ。

 運転席にある管状のものを腕にはめることではめた対象から魔力を吸い取って使用する。

 その際本当にヤバい奴らは魔力の高い魔物から魔力を吸い取らせ、運転する連中だっている。


 まぁなにが言いたいかと言うと、魔物が居るところで車を走らせる奴らは密猟者しかいないという事だ。


 密猟者は大抵魔物か純血種の動物を狙う。

 となると今回はおそらくホーンたちを狙っているんだろう。

 明らかにお手製で改造された車は、大きな何かを乗せられるような荷台が追加されている。

 ちょっと気に入らないので双眼鏡をマダスに渡す。


「ちょっと行ってくるな」

「ちょっと待て!()()密猟者を相手にするつもりか!?いい加減止めろって!!」

「止める気はない。ちょっと自然に還して来るな」

()()殺すのか!?いい加減にしろよ!ああいうのは密猟者対策の連中に任せればいいんだよ!俺達研究者が出る幕じゃない!!」

「俺には戦える力がある。自然の中で、食うための殺しなら仕方ないと思うさ。でもあれは違う。ただ殺すだけだ。金のためだけに殺して、毛皮を剥いでそれでおしまい。そんな連中には人間がどれだけちっぽけな存在か分からせてやらないといけない」


 マダスは受け取ってくれなかったのでそっと草の上に置く。

 俺は駆け出す準備として手足をぶらぶらして軽い準備運動をする。

 そしてマダスは俺の腕を掴んだ。

 マダスは叫びながら言う。


「お前の考えは分かる!!でもな、だからってお前が行く必要はないんだよ!どうせ1匹2匹って所だろ!」

「あいつらが自然の事を考えて密猟すると思うか?どう見てもこの辺の部族じゃないし、この始末は人間がするべきだ。そこに密漁者の取り締まりかどうかなんかはどうでもいいんだよ」

「どうでも良くねぇよ!!いいか!知ってる事だが何度でも言うぞ、お前が殺したら殺人者になるんだよ!密猟者でも人間だから、殺せばお前が殺人者になって罪に問われるんだよ!それがどれだけの事か分かってんのか!?」


 俺の事を気遣って言ってくれているのはよく分かる。

 でもこれだけは許せないんだよ。

 分かれとも理解しろとも言うつもりはない。

 だからこれは俺の勝手だ。

 マダスの手をそっと放しながら俺は何て事のない様に言う。


「そんじゃちょっと行ってくる」


 そう言って思いっきり走りだすと後ろから「バカヤロー!!」と声が聞こえた。

 それじゃちょっと殺し(狩り)に行くか。


 ―――――――――――――――――――


 自動馬車には4人の男達が乗っている。

 どの男も髭を生やしており、より下品な雰囲気を出す。

 そんな男達は煩いエンジン音に負けないほどの大声で話す。


「今日の依頼はブラッティーホーンだ!大人1頭と子供1頭だとさ!」

「全くあんな凶暴な牛!捕まえに行く方の身にもなれって話ですよね!!」

「その分いい金が入って来るんだから文句言うな!自動馬車も貸してもらってるんだからよ!」

「あったりめぇだ!自動馬車がなかったら殺してすぐ持ってくる事なんざ出来ねぇっての!!ねぇ兄貴!!」

「分かってんなら集中して回り見ろ!いつ牛共が出てくるか分かんねぇぞ!!」


 後ろの席に座る男がこの中のリーダー格である。

 今回の依頼が書かれた紙を見直しながら言う。

 そして部下達は仕事の文句を言いあい、下品に笑う。


「にしても偉い人達はいいよな!エルフやドワーフの女捕まえて犯せるんだからよ!」

「エルフはともかくドワーフもかよ!ロリコンかテメェ!」

「ロリコンじゃねぇ!ただ小柄で張りのある肌の女が好きなだけだ!吸血鬼のガキもいい具合だと思うけどな!!」

「それがロリコンなんだよ!」

「俺だったら人間の血が濃い獣人だな!血が濃いと顔まで獣になるから困ったもんだ!薄いと人間に近くなるし、獣臭さもなくなるしな!」

「それなら裏市場で奴隷として売ってるだろ!?特に何がいいんだ!」

「兎族が好みだな!あの怯えた顔と泣き叫ぶ声が堪んねぇんだ!!それに育てば胸も決も極上だ!!」

「そろそろ気を引き締めろ!情報通りならこの辺に獲物がいるぞ!」


 そうリーダー格の男が言った瞬間だった。

 突然自動馬車のフロントガラスが割れた。


「うお!?石でも跳ねたか!?」


 前の席に座っている男2人が割れたガラスを砕きながら言う。


「んな訳あるか!敵襲かも知れねぇぞ!!」

「でもこんな所に人間がる訳ないでしょ!!」


 魔物が一体は全て危険地帯となっている。

 そんな危険地帯をうろつくのは基本的に魔物の密猟者か、その密猟者を捕まえる者達しかいない。

 そんな男達を捕まえる者達は大抵強力な戦闘向けの魔物と契約した魔物使いがほとんどだ。

 国から自動馬車を借りる様な事はあり得ない、というか石を投げつけてくる事はない。

 あくまで密猟者の捕縛が仕事だからだ。


「知らねぇのか!!平気で密猟者おれ達を相手にする魔物研究者の事をよ!」

「所詮噂でしょ!?というか魔物を連れていない魔物使いなんざ雑魚でしょ!!俺達なら簡単に――」


 運転している者がそう言っている最中に運転手の頭から血が噴き出した。

 その後ろに居たリーダーの男の頬にも小さな傷が付き、すぐに動いた。


「馬車を捨てろ!跳び下りるぞ!!」


 リーダーの声で運転席に座っていた男以外が自動馬車から飛び降りる。

 運転手がいなくなった移動馬車は制御を失い、丘の中腹で横転した。

 ガソリンなどを使っている訳ではないので爆発が起きたりはしなかったが、それでも車体は曲がり、使えない事は目に見えている。


「ちくしょう!こんな所で遭難とかやってらんねぇぞ!!クソが!!」

「どうしますか兄貴!こんな状態じゃ依頼どころじゃねぇよ」

「あったりめぇだ。出直すぞ」

「出直すって言っても……ここから徒歩でですか?」

「他に方法があるか。野生の獣にでも乗れるか試してみるか?」

「無理なのは分かって――」


 そう言っている男の後頭部から血が噴き出した。

 そして男は前屈みに倒れる。


「な!?一体何が」

「……石だと」

「何です兄貴」

「石を投げつけられたらしい。人を殺せるだけの威力でな」

「は、はぁ!?石投げ付けられて死んだとか、本当ですか?」

「この草原にあまりない石があんだ、こいつを投げつけられたんだろう」


 たった今死んだ男の近くに、拳ほどの大きさの石が転がっていた。

 残った男2人は背を合わせて警戒する。


「これ、絶対人間の仕業ですよね」

「あったりめぇだ。この辺に石を投げつける様な獣はいねぇよ」

「保安の連中でもないみたいですね」

「あいつらは捕まえるのが仕事だからな、それに殺さねぇ」

「って事は、本当に狂魔物使い(クレイジーテイマー)がここに?」

「……だろうな。そいつは人間様より魔物様って言う奴らしいからな、そうでなきゃ殺されないだろう」


 話ながらさらに警戒している時に、不意にリーダー格の男の後ろで何かがはじけるような音がした。

 振り向くとそこには頭のない部下が倒れていた。


「な!?一体どこから攻撃したんだ!まさか魔法か!?」


 たった1人居なってしまったリーダーの男は、軽いパニックを起こしながら武器を片手に警戒していたが、すぐに意識を失った。

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