女心は分からない
「……………………………………」
「……………………………………」
「……ちょっとマスター、何なのこの空気。重くて仕方ないんだけど」
「俺が原因……なのか?」
朝のいがみ合いから逃げたつもりだったが、逃げた所で何にも変わってはいませんでした。
歯を磨いたり、着替えたりとしている間に終わるだろうと思っていたが、いまだに続いていた。
そしてそれは今の朝飯の時間まで続いている。
キュイはそんな2人に怯えきっていつもとは違う、シルフィとリーグの間に挟まれる形で飯を食っている。
俺も関係のない人バリアー使いたいよ。
2人とも俺にすんごい目線おくって来るんだぜ、俺死んじまうよ……
「そうでなきゃ2人があそこまでいがみ合う事なんてないでしょ、それに2人同時に怒るとしたらそれは絶対マスター関係」
「うっ」
「どうせ図星でしょ。どっちに何をしたの」
「あ~それは~その……」
「この馬鹿がルビーとキスしてたのよ!!」
野良猫の言葉に反応したのはドラバカだった。
しかも俺の事を指差しながらだ。
野良猫は驚いたように言う。
「え、まさかマスターの方から」
「そうじゃなくてルビーがマスターの事を押し倒しながらキスしてたのよ!しかもあんなディープキス、羨ま――じゃなくて破廉恥よ!!」
「ふん。それが私達なりの関係だもん。アイリアには関係ない話だもん」
「関係なくありません!!共に行動している以上、そういった行動は慎んでもらわないと困ります!!」
「それじゃ今度は防音対策も鍵もちゃんと閉めてゆっくり」
「それ以上の事しようとするな!!」
あ~煩い。
今までないないぐらいドラバカが怒ってるからな。
そりゃ人の家でそれ以上の事なんてしようとは思わないが、キスぐらいは許してくれないかな?
だって汚す訳じゃないし、軽ーいものならそう目くじらを立てる必要はないと思う。
キスなら愛情表現の1つとして受け入れてくれないかな?
「絶対マスター間違った事考えてそう」
「マスターはホントに鈍感だから」
そこに2人、何ひそひそ話してるんだ。
それに俺は鈍感じゃない。
「鈍感だったら魔物の世話なんてできないって」
「そういう意味じゃないんだけどな……」
「世話の方は問題ないんだよ、女心とか心情って部分がな……」
女心なんて分かる訳ないだろ。
それに興味もない。
今の所彼女とかは……一応ルビーがそれに当てはまるのかな?
……少しは勉強しようかな?
そうすればちょっとはあの下らなそうな喧嘩を終わらせる事が出来るかもな。
なんかもういつの間にか、取っ組み合いになってるし。
飯食い終わったあとに頬を引っ張り合うってどうなんだか。
それからドラバカがさらっとルビーに対抗できてるのがすごい。
身体強化使ってるのか?
ほんのりキュイが光っている様に見えるし、実際使ってるんだろうな……
「2人ともその辺にしとけ。そんなに元気ならもっと別な事しろ」
「原因はマスターなんだからね!!」
「マスター!アイリアに言って!交尾するのは自然な事だって!!」
「2人には早すぎるのよ!!」
「若いうちにいっぱい子孫を残そうとするのは自然な事!!」
あ~収まらないのか。
こういう時は放っとくに限る。
席を立ちながら一応喧嘩中の2人に言う。
「気が済むまで喧嘩しな。それからテントは仕舞う必要ないと思うからこのままにしてていいからな」
「わかっひゃ」
ルビーがまたドラバカと頬を引っ張り合っているので変な返答が帰ってきたが、まぁいいだろう。
それじゃ今日もお仕事しますか。
-
お仕事と言ってもいつもと変わらずホーンの群れを観察するだけなのだが……今日は群れが移動する様子はないな。
他の普通の動物の群れも警戒は常にしているが目立った動きはない。
おそらくこの辺の草を食ってしばらくしたら動き出すんだろう。
こういう平和は好きだ。
何てことなくただ時間が過ぎ時ほど穏やかな時間はない。
そう思っているとマダスがやって来た。
「ようマスター、何か目立つ動きはあったか?」
「今日の所はなさそうだな。みんな穏やかに過ごしてる」
「だな。にしても昨日のライガーはどこに行ったんだろうな」
「さぁな。ここを絶好の餌場として見ているのかどうか分からないから何とも言えねぇ。だが周りの反応を見る限りそう言う事はなさそうだな」
それかあの3頭にも縄張りがあり、パトロールでもしているのかも知れない。
この世界じゃライガーは珍しくない動物だからな、エサが豊富な所ならどこにだっている。
前の世界じゃ珍しいキメラ動物だって言うのに、ポピュラーって言ってもいいような感じなんだもんな……
ところ変われば常識も変わるもんだ。
そう言えばあの2人はどうしたんだろう。
「ところでルビーとドラバカは?」
「喧嘩の反省って事でティナが屋敷の1部を掃除させてる。見張りもしてるし逃げ出せはいないんじゃないかな」
「よくルビーの奴が言う事聞いたな。まだそんなに心開いてないと思ってたのに」
「それはティナが一枚上手だったってだけだ。家事のできる女の子の方がマスターの好みだから~とか言ってた」
「なる程、そういう感じで言う事聞かせたのか」
相変わらず口が上手いと言うか何と言うか。
関心半分、呆れ半分で微妙な顔をしているとマダスが聞いてくる。
「それで、ルビーちゃんの事嫁にすんの?」
「するよ。親御さんもそのつもりで俺に預けた感じがするし、俺もルビーの事好きだからな」
そう言うとマダスはため息を付く。
この世界には魔物と呼ばれる生物がいるので、当然人型もいる。
その中で人権があるのはドワーフやエルフだけ、同じ人型であるシルフィは人権を持っていない。
その判断は色々と細かいが手っ取り早く言うとどれだけ人間に近いかどうか、という部分に集約されている気がする。
ラミアは下半身が蛇のものであるために除外。
同じような理由で人魚も除外。
鬼は角があるので除外。
そんな人間に近い存在でも『人』とは認められない。
彼ら、もしくは彼女らだがほとんどの存在が野生の中で過ごしているのも原因だと言われている。
どれだけ道具を使い、魔法を使えたとしても『人』として認められないのは何かが違う気がする。
それとも俺がとても広い意味で『人』という言葉を使っているんだろうか?
言葉を交わし、共存できる存在は『人』と呼んでいいのではないか?そう思う事がよくある。
それとも人間と共存してきた歴史が違うからだろうか?
ドワーフとエルフはずっと前から人間との共存してきた歴史がある。
きっとそう言う差もあるんだろうが、俺は生物学的な所を言ってしまえばほとんどが『人』と言ってもいいような気がする種族は多く存在する。
どれだけ言っても意味ないんだろうがな。
「そうか。全く、昔っから魔物と結婚するとか言ってた奴が本当にドラゴンと結婚する事になるとはな」
「それに関しては本当に人生どうなるか分かったもんじゃないと思ったよ。妄想だけで終わると思ってたしな」
「ま、美人だしよかったんじゃねぇの?お前と結婚してくれる人間はいないかも知れないからな」
「確かにな」
そう言うって笑う。
だが少し時間が経って不快な音が聞こえた。
動物たちも気付き、湖から逃げ出した。
「え、お、おい!?何が起こった」
マダスは普通の人間だから気付いていないが俺は気が付いた。
身体強化でよく見える目に映ったのは4人組が乗っている自動馬車、不快なエンジン音を大きく鳴らしてこちらに向かっている。
「クズ共が、密猟者だ」
自動馬車、前の世界で言う所の、車である。




